第七十話 「終末予言というものは、“人類が時代不安を物語化して処理する集合夢”なので、情報過多時代ほど空が騒がしくなります」
東央マテリアル。
《観測整合維持局 第七補正執行室 外側環境対策部》。
地下第三層。
午後十一時四分。
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深夜だった。
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白色灯。
冷却ファン音。
コンビニコーヒー。
誰かの栄養ゼリー。
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いつもの残業空間。
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だが。
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今日だけは、
モニター群がおかしかった。
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【2026】
【開示】
【UAP】
【空】
【接触】
【11月13日】
【終末】
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黒い文字列が、
モニター画面をゆっくり流れている。
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「……嫌な感じね」
リゼが眉をひそめた。
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佐伯は、
缶エナジードリンクを置く。
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「最近めちゃくちゃ流れてきますよね。“空が変わる”“世界が裏返る”系」
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ノベェンタは、
静かにコーヒーを飲んだ。
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「終末論周期ですね」
「周期で片付けるな」
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「人類、“現実が不安定化すると空を見る”習性あるので。冷戦期は核戦争、二〇〇〇年前後は世紀末、二〇一二年頃は古代文明系。つまり終末論、“未来予測”というより“現在不安の投影”なんですよ。あと現代、“現実ニュース”と“都市伝説”の境界がかなり曖昧化してる。公聴会、軍事映像、AI進化、宇宙開発、SNS切り抜き。この辺全部がタイムライン上で同列表示されるので、“本当っぽい終末”が生成されやすい。特に人類、“一部だけ本当”な情報へかなり弱い。“完全嘘”より、“七割現実・三割妄想”の方が脳へ刺さるので。あと情報化社会、“毎日世界規模ニュース見続ける”状態そのものが、人類の不安処理能力を軽く超えてる節あります。“知らなくても生きられた遠方危機”まで常時流入するので、脳が“ずっと何か起きそう”状態になるんですよ」
「確かにAI画像見てると現実かわかなくなりそうだし、必要ない情報も取らないのがいいわね…」
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その時。
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社内モニター。
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全画面が、
一瞬ブラックアウトした。
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ブゥン――……
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低い振動。
紫色ノイズ。
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【DISCLOSURE】
【THE SKY WILL OPEN】
【2026】
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「うわっ!?」
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天井照明が点滅する。
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空気が、
少しずつ“遠く”なる。
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窓のない地下なのに。
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誰もが、
“空”を感じていた。
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「典型的“宇宙的開示型認識汚染”ですね」
ノベェンタが静かに言う。
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「人類、“自分達より上位存在がいるかもしれない”へ昔から異常執着あるので。神、天使、宇宙人、超文明。“自分達だけではない”って発想、恐怖と救済を同時発生させる。あと現代、“AI進化”や“現実感喪失”が混ざってるので、“世界そのものが作り物かも”系不安が増殖しやすい。つまり最近の都市伝説、“オカルト”というより“情報社会疲労”寄りなんですよ。“何が本物か分からない”時代、人類は“全部裏で繋がってる説”へ逃げ込みやすいので。陰謀論って、“世界が理解不能”な状態への防衛反応でもある。“誰かが操ってる”方が、“ただ複雑で混沌としてるだけ”より精神的には楽なんです」
「操られてる方が混沌より楽ってなんかイヤね…」
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その時。
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空間が裂けた。
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天井上空。
黒い亀裂。
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そこから。
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巨大な“目”が現れる。
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銀色。
無数。
空間そのものみたいな瞳。
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見ている。
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ずっと。
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「……でかっ」
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リゼが杖を構える。
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障壁展開。
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だが。
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目は攻撃してこない。
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代わりに。
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【知りたい】
【真実】
【開示】
【本当の世界】
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文字列が降ってくる。
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佐伯が顔をしかめた。
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「うわぁ……“考察動画見過ぎた深夜テンション”みたいになってる」
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ノベェンタは静かに頷く。
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「人類、“世界の裏側”好きなんですよね。“実は政府が”“実は宇宙人が”“実はシミュレーション世界が”。未知への恐怖というより、“退屈な現実へ意味追加したい欲求”に近い場合もある。あと情報化社会、“全部知れる気がする”錯覚強いので。“検索すれば真実到達できる”感覚ですね。でも実際の世界、人類が処理できるより遥かに複雑です。だから脳、“単純で巨大な物語”を欲しがる。“全部裏で繋がっていた!”って構造、創作的にはかなり気持ちいいので」
「情報社会って真実を作れそうでイヤよ……」
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その時。
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野村部長が、
震えながら言った。
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「野部くん……あれ宇宙人かなぁ……?」
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「半分くらい人類側認識汚染ですね」
「安心していいのか分かんない!」
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巨大な目が、
ゆっくり開く。
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その瞬間。
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全員の脳内へ、
大量情報が流れ込む。
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【未来】
【破滅】
【選別】
【AI】
【文明崩壊】
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「っ……!」
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リゼが膝をつく。
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佐伯も顔をしかめた。
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「これ、“不安そのもの”流してきてません!?」
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ノベェンタは静かに頷く。
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「終末論、“未来予測”というより“現在不安の圧縮ファイル”なので。戦争不安、情報疲労、孤独、AI、経済停滞。“なんとなく世界ヤバい気がする”が集合すると、“空から何か来る”へ変換されやすい。あと人類、“理由の分からない不安”を嫌うので、“具体的終末日”設定し始める。“〇月〇日に何か起きる”って、恐怖管理としてはかなり分かりやすいんですよ。カレンダー化された不安は、“待つ”事ができるので」
「カレンダー化したくないわね…カレンダー嫌いになりそう…」
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その時だった。
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佐伯が、
ゆっくり立ち上がる。
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赤い瞳。
赤い魔力。
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境界断ち印が、
強く発光した。
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「……でも」
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静かな声。
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「人類って、“明日終わるかも”って言いながら、ちゃんとコンビニでアイス買うんですよね」
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沈黙。
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リゼが、
少しだけ笑った。
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「……なによそれ」
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佐伯はハルバードを構える。
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「ノストラダムスでも、世界滅ばなかったじゃないですか。“もうダメだ”って言いながら、人類わりと普通に朝迎えるんですよ。仕事行って、猫撫でて、推し見て、魚食べて。“完全に安心”なんて多分一生来ない。でも、“だから今を楽しんじゃダメ”にもならないと思うんです」
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赤い魔力が膨張する。
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空気震動。
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ハルバードへ、
新しい術式が刻まれる。
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「――《境界肯定解放術式・トゥモロー・イズ・アンノウン》」
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「名前ちょっと前向き!?」
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赤い光が、
空間全体へ広がった。
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すると。
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巨大な“目”へ映り始める。
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人類の日常。
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朝のパン。
コンビニ。
帰宅途中。
海。
猫。
ゲーム。
笑い声。
疲れた顔。
でも。
少し生きてる人達。
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【……続いている】
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巨大な目が、
小さく揺れた。
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【人類】
【不安定】
【でも生存】
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「そうですよ」
佐伯が笑う。
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「だいたい何とかなるんです」
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赤い光が、
空へ伸びる。
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黒いノイズが、
ゆっくり崩壊していった。
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【終末】
【開示】
【恐怖】
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全部。
静かに光へ変わる。
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そして。
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巨大な目は、
最後に一度だけ瞬きして。
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空間の奥へ消えた。
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静寂。
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野村部長が、
ぽつりと呟く。
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「……なんか、急に藁焼きカツオ食べたくなったなぁ」
「高知県民の精神安定剤みたいに言うのやめてください」
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ノベェンタは、
静かにコーヒーを飲む。
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「まあ実際、人類って“不安ゼロ”では生きられないので。未来分からない、老いる、失敗する、比較して落ち込む。でも逆に、“全部不確定”だから、案外どうにでもなる部分もある。“まだ決まってない”って、量子論的には結構救いなんですよ。観測されるまで可能性は閉じないので。あと人類、“明日世界終わるかも”って言いながら、とりあえず来週の予定入れる生物なので。あれ、かなり強いと思います」
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キノピーが、
ノベェンタの肩で丸くなる。
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「にゃ」
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地下第三層。
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今日も世界は、
ギリギリ続いていた。




