第六十七話 「地方観光文化は、“地元民の日常”と“観光客の非日常”が交差するので時々情緒が暴走します」
高知市。
午後七時二十八分。
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大阪出張帰りだった。
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インテックス大阪での企業展示会。
その帰路。
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夜行バス。
鳴門海峡。
地底世界。
腰痛覚醒。
腹巻ビーム。
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情報量が終わっていた。
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結果。
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「……もう今日は帰るの無理じゃない?」
リゼが死んだ目で言った。
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なので。
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東央マテリアル一行は、
一度高知市で一泊してから大月町へ戻る事になった。
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夜。
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路面電車。
湿った風。
少し古い商店街。
居酒屋の灯り。
追手筋のざわめき。
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そして。
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《ひろめ市場》。
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観光客。
地元民。
酔っ払い。
県外サーファー。
出張帰り会社員。
大学生。
謎に陽気なおじさん。
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全部が、
混ざっていた。
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「……なんか“高知”って感じするわね」
リゼが周囲を見回す。
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ノベェンタは、
ジョッキの烏龍茶を持ちながら頷いた。
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「ひろめ市場、“フードコート”と“居酒屋街”と“地元集会所”が融合した特殊空間なので。高知県民、“知らない人と飲み始めるハードル”かなり低い文化圏あります。“どこから来たが?”で会話始まる。あと高知、“酒飲める人間=仲間”認識ちょっと強い。これは漁業文化と宴会文化かなり接続してるので。海仕事、人類史的に“生還確認飲酒”文化発達しやすいんですよ」
「また民俗学っぽくなるのやめなさい」
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テーブル。
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大量の料理。
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カツオのたたき。
ウツボ唐揚げ。
青さのり天。
川エビ。
土佐巻き。
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炭水化物と魚類の祝祭だった。
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佐伯が目を輝かせる。
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「うわぁ……これ全部美味しそう……」
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その時。
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店員。
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「はいよー!! 藁焼きできたでー!!」
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ドン!!
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巨大カツオ。
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表面。
炭火。
藁の香り。
煙。
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「うわっ……!」
リゼが少し感動する。
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ノベェンタは静かに頷いた。
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「カツオ藁焼き、“香り食文化”なんですよね。高知県、“魚の鮮度”だけでなく“煙の香り”まで料理へ組み込んでる。あと藁焼き、火力異常に高いので、“表面だけ瞬間焼成して中レア維持”できる。つまり調理法そのものが、漁港近接地域だから成立してる。“超新鮮前提料理”って、地方文化かなり反映されるので。ちなみに高知県民、“塩たたき”へ妙な誇り持ってる個体かなり多いです」
「でた…大好きな高知県民性分析始まった」
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その時だった。
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キノピー。
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じーーーーっ。
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藁焼きカツオ凝視。
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「にゃ……」
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佐伯が一切れ差し出す。
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「ちょっとだけですよ?」
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ぱく。
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沈黙。
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次の瞬間。
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ボォォォッ!!
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キノピー発光。
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「えっ」
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黒い毛並み。
金色紋様。
瞳が赤熱。
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しかも。
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藁の香りがする。
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「なんで!?」
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キノピーが、
ゆっくり口を開く。
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「……藁焼きカツオ、美味すぎるにゃ」
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覚醒だった。
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「食レポで進化した!?」
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その瞬間。
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外。
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ドドドドド……!!
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鳴子音。
太鼓。
笛。
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よさこい集団だった。
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だが。
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人数が多すぎた。
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明らかに。
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多すぎた。
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【熱狂】
【一体感】
【踊れ】
【夏】
【祭】
【高知】
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黒い文字列。
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空中へ浮かぶ。
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「また認識汚染なの!?」
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「祭礼共同体暴走型ですね」
ノベェンタが静かに言う。
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「祭り文化、人類史かなり古いので。農耕儀礼、収穫祭、盆踊り、カーニバル、フェス。“集団で踊る”って、人類の共同体同期行動なんですよ。特によさこい、“地方アイデンティティ”と“現代エンタメ”融合した珍しい進化系なので。“自由振付”“地方チーム”“全国展開”で文化拡散した。あと人類、“太鼓と集団リズム”へ本能レベルで弱い。一定リズム続くと脳波同期し始めるので」
「トランス状態ね…嫌いじゃないわ…」
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よさこい集団。
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完全に、
止まらない。
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「ヨッチョレヨ!!」
「ハイヤ!!」
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周囲観光客まで巻き込み始める。
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野村部長。
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普通に混ざった。
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「ハイヤァァ!!」
「部長順応早いのよ!!」
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さらに。
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アインまで。
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静かな顔で。
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踊っていた。
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「アイン先輩!?」
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「……リズム同期です」
「絶対楽しくなってますよね!?」
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空間全体が、
熱狂へ呑まれ始める。
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【踊れ】
【叫べ】
【夏を終わらせるな】
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「まずいですね」
ノベェンタが呟く。
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「祭り型認識汚染、“終わってほしくない感情”増幅し始めるので。人類、“楽しい時間”ほど永続化願う。でも祭り、本来“終わる”から成立してるんですよ。“永遠の文化祭”って、だいたい途中で精神壊れるので。あと青春、“期限付き”だから美化されやすい。“夏休み終わる切なさ”込みで記憶残る」
「ちょっとエモ寄りね……」
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その時だった。
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キノピー。
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前へ出る。
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黒い毛並み。
藁焼きオーラ。
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そして。
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尻尾が。
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燃えた。
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「にゃ」
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ノベェンタ、
少し目を細める。
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「……なるほど。“藁焼き神性”取得しましたか」
「意味分かんないのよ!!」
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キノピーが跳ぶ。
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空中回転。
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炎。
藁の香り。
カツオの煙。
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そして。
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「《土佐秘伝・灼海轟炎流奥義――黒潮奔る藁焼終式にゃァァァァッ!!》」
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爆炎。
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だが。
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めちゃくちゃ良い匂い。
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「焼き魚の香りで浄化されたァァ!?」
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黒いノイズ。
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【祭】
【夏】
【一体感】
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全部。
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香ばしく浄化された。
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静寂。
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その後。
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よさこい集団。
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「お兄さん達も踊る!?」
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巻き込んできた。
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「来たわね地方圧!!」
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だが。
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野村部長。
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満面笑顔。
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「踊るぞォォ!!」
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アイン。
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「……郷に入っては郷に従えです」
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佐伯。
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「わぁぁ待ってください振り分かんないですって!!」
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リゼ、
諦めた顔。
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ノベェンタは、
少し笑った。
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「まあ人類、“一緒に踊った記憶”って案外長く残るので」
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鳴子の音。
笑い声。
高知の夜風。
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「人生、“意味あったか分からない楽しい時間”くらいが、後から一番支えたりするんですよね。旅行も祭りも飲み会も、“何かを達成した”より、“なんか笑った”の方が記憶残る場合ある。あと人類、“少し酔ってる時の思い出”へ妙に補正掛かるので、高知文化わりと合理的なんですよ」
「でも高知、呑み過ぎで楽しい記憶なくなってるおんちゃんも多いけどね…」
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鳴子が鳴る。
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夜風が吹く。
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高知の夜は。
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少し騒がしくて。
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かなり、
生きている感じがした。




