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『境界断ちのノベェンタ』 〜「観測者が意思決定した瞬間、世界線は収束します」意識高い系エリート社畜、たまに世界を救う  作者: nobunobuwo


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第六十五話 「通勤ラッシュというものは、“数百万の人類が社会維持のため毎朝ほぼ同時刻移動する文明イベント”なので、冷静に見るとかなり無茶です」


 東京。


 秋葉原。


 午後六時四十八分。



 メイド喫茶を出た直後。



 ノベェンタ達は、

 路地裏で立ち尽くしていた。



 理由。



 異世界装備が、

 今さら解除された。



 シュゥゥゥ……。



 黒銀コート。


 ハルバード。


 魔導礼装。


 ミスリル腹巻。



 全部、

 粒子化して消えていく。



 そして。



 普通のスーツ姿へ戻る。



 沈黙。



 リゼがスマホを見る。



「……飛行機」



 佐伯も見る。



「……出発済みですね」



 午後六時二十分発。


 大阪・伊丹空港行き。



 完全終了。



「タイミング終わってるのよ!!」


 リゼが叫ぶ。



 今回の出張先。



 大阪。



 南港。



 《インテックス大阪》。



 西日本最大級展示会場。



 企業展示会。


 産業機械EXPO。


 次世代素材見本市。


 観測技術カンファレンス。



 東央マテリアルも、

 企業ブースを出展予定だった。



「ちなみに企業展示会、“現代社会の文化祭”みたいな側面ありますからね」


 ノベェンタが静かに言う。


「名刺交換、ノベルティ、実演、プレゼン、謎の光るパネル。“自社技術すごいです”を巨大空間で一斉発表するので。特にインテックス大阪、“西日本企業の営業熱量”かなり濃い。“東京ほど冷たくなく、名古屋ほど職人気質一本でもなく、ちょっと人情混ざった商談文化”形成されてる。あと展示会業界、“搬入撤収で人格が決まる”と言われるくらい設営能力重要です。イベント終了後、一時間で巨大ブース全部消えるので、人類文明の撤収速度かなり怖いんですよ」


「設営凄い時間かかるのに撤収みんな早いわよね…」



 だが。



 野村部長だけ、

 妙に明るかった。



「いやぁ!! じゃあ新幹線だなぁ!!」



 目が輝いている。



「部長、そんなテンション上がる要素あります?」


 佐伯が聞く。



「乗ったことないんだよぉ!!」



 まさかの未経験だった。



「ちなみに日本人、“新幹線”へ妙なロマン感じる個体かなり多いので」


 ノベェンタが静かに言う。


「戦後日本、“高速移動=未来”として刷り込まれてる側面ある。特に一九六四年新幹線開業、“敗戦国から技術国家へ復帰した象徴”として文化的インパクトかなり大きかった。あと人類、“移動速度上がると人生可能性まで広がった気になる”ので。“大阪日帰り可能”とか、“地方でも東京アクセス可能”って、単なる交通以上に認識変えるんですよ。ちなみに鉄道オタク、人類文明を“線路で可視化された物流と時間管理の芸術”として見始める個体いるので、会話始まると止まりません」


「絶対深掘り危険ジャンルなのよ」



 東京駅へ向かう。



 そして。



 地獄。



 通勤ラッシュだった。



「……うわぁ」


 佐伯が引く。



 人。


 人。


 人。



 押し込まれる。


 流される。


 密着。



 社会だった。



「東京、“人間を液体として運用してる節”ありますからね」


 ノベェンタは押し流されながら言う。


「人口密度高すぎる都市、“個人の快適性”より“全体効率”優先し始めるので。通勤ラッシュって、要するに“文明維持コストを毎朝人体で支払ってる状態”なんですよ。あと満員電車、日本人特有の“他人へ極力迷惑掛けない文化”でギリギリ成立してる部分ある。海外勢、“この距離感は戦闘開始距離では?”って普通に驚くので」


「分析してる場合じゃないのよ!」



 その時。



「ちょっと!!」



 女性の声。



 空気が止まる。



「今、触りましたよね?」



 沈黙。



 そして。



 野村部長。



「……えっ」



 終わった。



 周囲視線。



「最低……」


「マジかよ」



 野村部長、

 青ざめる。



「ち、違うんだよぉ!!」



 だが。



 満員電車。


 逃げ場なし。


 説明困難。



 かなり危険だった。



 リゼが小声で言う。



「……まずいわね」



 ノベェンタは、

 静かに周囲を見ていた。



「痴漢冤罪問題、“高密度都市社会の副作用”なんですよね。接触不可避空間で、“誰が触ったか”を瞬間判定しなければならない。しかも人類、“恐怖状態だと記憶補完”発生しやすいので、“たぶんこの人”が固定化されるケースある。もちろん実被害は深刻ですが、一方で“疑われた瞬間ほぼ社会死”構造も存在してる。つまり満員電車、“文明利便性”と“人間認知限界”が真正面衝突してる空間なんですよ」


「今それ長文で語る!?」



 その時だった。



 アインが、

 一歩前へ出る。



 静かに。



 眼鏡を押し上げる。



「……失礼」



 スッ。



 女性のバッグ。



 そこへ。


 小さな金属フック。



 野村部長のスーツ繊維。



 完全に、

 引っ掛かっていた。



「原因はこれです」



 静寂。



 アインは続ける。



「車両揺れで巻き込まれ接触しただけですね。部長は両手とも吊革固定状態でしたので、物理的に不可能です」



 完璧だった。



 女性。



「……あ」



 顔が赤くなる。



「す、すみません……!」



 野村部長、

 崩れ落ちそうになる。



「た、助かったぁ……」



 その瞬間。



 佐伯が目を輝かせた。



「アイン先輩!! 今の絶対必殺技っぽかったですよ!!」


「え?」



「“真実を見抜く眼”系じゃないですか! カッコいい!」



 アイン、

 少し固まる。



「……いえ、ただ観察を」


「いや絶対名前付けましょうよ!!」



 リゼが吹き出す。



「そういえばアイン、まだ固有必殺技無かったわね」



 アインの空気が、

 若干揺れる。



「……」



 欲しかった。



 かなり欲しかった。



「今まで皆さん、“終業断裂”とか“境界断裂”とかありましたので……少し羨ましくはありました」



 認めた。



「やっぱ欲しかったんじゃないですか!」



 アインは少し考える。



 そして。



 静かに眼鏡を押し上げた。



「…… 《因果観測ラプラス・クロス



 沈黙。



 めちゃくちゃそれっぽかった。



 佐伯、

 大興奮。



「うわぁぁ!! インテリ系能力者だ!!」



 アイン、

 ちょっと嬉しそうだった。



「ちなみに人類、“技へ名前付ける文化”かなり古いので」


 ノベェンタが静かに言う。


「武術、剣術、歌舞伎、落語、プロレス、漫画必殺技。名前付ける事で、“ただの行動”が“物語”へ変わるんですよ。“技名叫ぶ”って、要するに“今から特別な瞬間始まります”という儀式なので。あと中二病文化、人類の“自己演出欲”が健全発露した形でもある。“自分の人生へ演出付けたい”って、本来かなり自然な欲求なんです。社会人になると抑圧されがちですが」


「最後ちょっと人生肯定入れるのね…」



 東京駅。



 到着。



 野村部長、

 まだ若干震えていた。



「東京こわいよぉ……」



 だが。



 数分後。



 ホーム。



 白い車体。


 流線形。


 静かなモーター音。



 東海道新幹線。



「おぉぉぉぉ……!!」



 一瞬で回復した。



「立ち直り早いですね」


 佐伯が苦笑する。



「人類、“移動イベント”始まるとテンション回復しやすいので」


 ノベェンタは頷く。


「旅行文化、“現実から一時離脱できる”だけで精神へかなり効く。あと新幹線、“移動中なのに座って飯食える”安心感強いんですよ。飛行機ほど緊張感なく、在来線ほど遅くない。“ちゃんと遠く行ってる感”と“日常感”のバランスが絶妙なので。ちなみに駅弁文化、日本独自進化かなり極まってる。“移動時間そのものを娯楽化する”発想、人類かなり賢い」


「また文化論始まった」



 車内。



 発車。



 景色が流れる。



 そして。



 駅弁。



「うわ、美味しそう……!」


 佐伯が目を輝かせる。



 牛タン弁当。


 深川めし。


 焼売弁当。


 海鮮。



 炭水化物の祝祭だった。



 野村部長。



 ビール。



「染みるぅ〜〜〜!!」



 完全に旅行おじさん。



 リゼが窓の外を見る。



「……なんか、こういうの良いわね」



 静かな声だった。



 ノベェンタは、

 温かいお茶を飲む。



「人類、“移動中”だけは、“まだ何者でもなくていい時間”になるので」



 車窓。


 夕暮れ。


 流れる街。



「会社でもない。家でもない。目的地へ着く前。“途中”って、案外精神休まるんですよ。だから旅行好き人類、“観光地”そのものより、“移動してる感覚”へ依存してる場合ある。サービスエリアとか空港とか駅ホーム好きな個体、その辺かなり強いです。あと人生、“どこかへ向かってる感覚”あるだけで、少し耐えやすくなるので」



 沈黙。



 でも。



 少しだけ、

 優しい空気だった。



 その時。



 アインが、

 窓へ映る自分を見ながら。



 小さく呟く。



「…… 《因果観測ラプラス・クロス



 気に入っていた。



 かなり。



「めちゃくちゃ練習してる!!」


 リゼのツッコミが、

 車内へ響いた。

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