第六十四話 「秋葉原という街は、“人類の好きが過剰進化した結果、孤独・情熱・技術・承認欲求・救済願望が全部混線した巨大感情都市”なので、異世界装備で歩いても一定確率で“設定凝ってるな”で済まされます」
東京。
午後三時十二分。
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東京ビッグサイト。
搬出口付近。
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ノベェンタ達は、
立ち尽くしていた。
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理由。
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異世界装備が、
解除されない。
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「……固定化しましたね」
ノベェンタが黒い袖を見ながら呟く。
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黒銀のロングコート。
境界断ち印。
腰には黒剣。
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完全に終盤主人公。
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リゼ。
紫銀色の魔導礼装。
長杖。
外套。
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佐伯。
赤いビキニアーマー。
ハルバード。
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アイン。
青銀軍服+魔導短剣。
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野村部長。
ミスリル腹巻+王様マント。
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かなり社会復帰困難な集団だった。
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「……これどうするのよ」
リゼが真顔で言う。
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その時。
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通行人。
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「あっ、コスプレだ」
「完成度高っ」
「企業案件かな?」
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誰も驚かなかった。
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ノベェンタは静かに頷く。
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「木を隠すなら森です」
「嫌な予感しかしないんだけど」
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「秋葉原へ行きましょう」
「完全に馴染む気なのよ」
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山手線。
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車内。
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外国人観光客。
スーツ姿。
オタク。
メイド服。
普通に鎧の人。
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東京の情報量が、
かなり終わっていた。
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小学生が佐伯を見る。
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「ママ! 勇者いる!!」
「見ちゃダメ」
「なんで!?」
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佐伯がちょっと照れる。
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「……なんかすみません」
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ノベェンタは窓の外を見ながら言った。
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「秋葉原、“好きなものへ人生注ぎ込む人類”へ許容量高い街なので。元々は電気街ですが、その後PCオタク、同人文化、深夜アニメ文化、アイドル文化、フィギュア文化、配信文化まで全部流入した結果、“多少変でも熱量あるなら受け入れる”方向へ進化した。あと外国人観光客側、“日本来たのに普通の景色だけ見てもな……”って心理あるので、異世界装備勢を見ると逆に安心するケースあります。“あっ、日本だ”ってなる」
「東京の解像度が変なのよ」
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秋葉原駅。
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到着。
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巨大広告。
メイド呼び込み。
アニメソング。
電子パーツ。
中古ゲーム。
フィギュア。
カードショップ。
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街全体が、
“趣味”で発光していた。
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「……濃い」
リゼが遠い目をする。
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佐伯は周囲を見る。
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普通に。
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異世界装備勢が居た。
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騎士。
エルフ。
サイバー忍者。
魔法少女。
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「……馴染んでる」
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「秋葉原、“周囲も変だから自分の変さが希釈される”現象起きやすいので。心理学的には規範形成ですが、オタク文化圏だと“そのジャンル知らないだけか……”で流される。つまり秋葉原、“説明不能存在への耐性”が高い街なんですよ。あとコスプレ文化、“好きなキャラへ一瞬でも近付きたい”という人類の擬態願望かなり反映してる。衣装作成、人類史上かなり高度な愛情表現なんですよ。数万円と数百時間を“推しの袖”へ投入し始めるので」
「急に重い愛の話になるな」
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その時。
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「おかえりなさいませ〜♡」
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メイド。
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フリル。
笑顔。
完璧営業スマイル。
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野村部長、
一瞬で吸われる。
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「おぉ……」
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「ご主人様、お疲れじゃないですか〜?」
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導線が完璧だった。
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「……入るの?」
リゼが真顔。
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ノベェンタは頷く。
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「文化研究です」
「便利な言葉ねそれ」
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店内。
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ピンク。
ハート。
シャンデリア。
萌え絵。
オムライス。
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そして。
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異世界装備のノベェンタ達。
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逆に自然だった。
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「メイド喫茶、“食事”というより“感情接客”寄り文化なので」
ノベェンタは静かに言う。
「現代都市、“人間関係の省エネ化”進み過ぎた結果、“名前呼ばれる”“歓迎される”“ちょっと気に掛けてもらう”だけで精神回復する個体増えてるんですよ。“おかえりなさい”って、本来かなり共同体的言葉なので。あとメイド喫茶、“客も半歩だけ物語参加する”構造になってる。つまり軽量異世界体験です。“今日は仕事つらかった会社員”から、“屋敷へ帰宅したご主人様”へ一時的に認識移動するので」
「分析が毎回ちょっと本質なのよ」
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佐伯。
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ハート付きオムライスを前に、
固まる。
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「……本当にやるんですね」
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メイドが笑顔になる。
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「美味しくなる魔法、かけますね♡」
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すぅ――……
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深呼吸。
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「黄金色の卵よ、赤き恵みと共鳴し、幸福因子を活性化――《きゅんきゅん♡ラブリー・オムエンチャント》♡」
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シュバッ!!
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ケチャップで、
完璧なハート。
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さらに。
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「おいしくなぁれ♡ おいしくなぁれ♡ もえ♡ もえ♡ きゅ〜〜〜ん♡」
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店員。
常連。
周囲客。
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完全同期。
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空間が一瞬、
儀式場みたいになる。
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「詠唱長い!!」
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佐伯が軽く圧倒される。
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アインは静かに見ていた。
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「……高度ですね」
「なにがですか」
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「羞恥心解除の共同儀式化です。“恥ずかしい”を“みんなでやるイベント”へ変換している。祭礼文化や宗教儀式とも近い構造ですね」
「急に文化人類学始めないで!」
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野村部長。
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めちゃくちゃ楽しそうだった。
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「野部くん!! なんか本当に元気出るぞこれぇ!!」
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ノベェンタは頷く。
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「人類、“自分のために何かしてくれた”と認識すると味覚評価少し上がるので。あと食事って、本来“栄養”だけじゃ長続きしないんですよ。“誰と食べたか”“どう笑ったか”込みで脳へ保存される。学園祭の焼きそばとか深夜ラーメンが妙に記憶残るの、味だけじゃなく“その瞬間の感情”ごと保存されるからなので」
「急に人生肯定論始まったわね」
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その時だった。
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空気が、
少し軋む。
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【承認】
【推し】
【解釈一致】
【分かってほしい】
【居場所】
【認知】
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黒いノイズ。
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秋葉原全域から、
じわじわ滲み出していた。
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「……規模大きいわね」
リゼが眉をひそめる。
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「秋葉原、“孤独”と“好き”が超高密度圧縮されてる街なので」
ノベェンタは静かに言った。
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「人類、“誰かへ理解されたい欲求”かなり強いんですよ。“その作品好きなんですか!?”だけで仲間認定始まる。“そのキャラ推しなんですか!?”で急に会話成立する。現代社会、“役割”で接続される事増えすぎたので、“好き”で繋がる空間へ救済感じる人類かなり多い。あとオタク文化、“現実逃避”だけじゃなく、“現実を生き延びるための酸素ボンベ”側面あるので」
「今日もちょっと優しいわね」
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「疲れてる人多い街なので」
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その瞬間。
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黒いノイズが、
店内中央へ集まり始める。
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【供給】
【推し不足】
【認知されたい】
【孤独】
【居場所】
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空間歪曲。
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メイド達がざわつく。
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「えっ!? 演出ですかこれ!?」
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黒い塊が膨張する。
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顔の無い巨大影。
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無数のペンライト。
モニター。
スマホ通知。
未読SNS。
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全部、
身体へ刺さっていた。
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『……見てほしい』
『でも怖い』
『好きって言いたい』
『でも否定されたくない』
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「うわっ……かなり現代人類なのよ」
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リゼが杖を構える。
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だが。
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ノベェンタは静かだった。
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「……キノピー」
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「にゃ」
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黒猫が、
ふわりと床へ降りる。
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その瞬間。
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輪郭が崩れる。
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黒い粒子。
赤い光。
境界断ち印。
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キノピーの身体が、
ゆっくり黒剣へ変化していく。
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店内。
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「えっ」
「えっ」
「ガチ!?」
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完全に空気停止。
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ノベェンタは、
静かに黒剣を握った。
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空気が変わる。
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黒いコートが揺れる。
赤い瞳。
静かな圧力。
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完全に。
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“境界断ち”。
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「人類、“好きなもの”で壊れる事あります。でも逆に、“好きなもの”でギリギリ生還してる個体もかなり多いので」
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黒剣が、
低く鳴る。
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「推し、趣味、創作、ゲーム、音楽、配信。“そんなの意味ない”って言われがちですが、人類、案外そういう“小さい楽しみ”を足場にして地獄みたいな平日渡ってる。つまり娯楽って、“贅沢品”じゃなく精神用ライフラインなんですよ」
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影が揺れる。
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『……でも』
『疲れる』
『追いつけない』
『置いていかれる』
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ノベェンタは、
静かに剣を構えた。
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「全部追わなくていいんですよ」
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一歩。
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「人類、“好き”を義務化した瞬間に壊れるので。“最新話見なきゃ”“供給追わなきゃ”“界隈離れたら終わり”。その辺、現代情報社会の罠です。好きって、本来もっと雑で良い。“今これ好き”だけで十分なので。あとオタク文化、“離れても帰れる”ジャンル結構多いです。“十年ぶりに再熱”とか普通に発生するので」
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黒剣が光る。
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「だから――」
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一閃。
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「“好き”を、苦しみ側へ置かない方が長生きします」
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《境界断裂――オタク・リカバリー》
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黒い斬撃。
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ノイズが、
静かに裂ける。
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【居場所】
【好き】
【また明日】
【ほどほどでいい】
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文字列が、
柔らかい光へ変わる。
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静寂。
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そして。
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メイド店員が、
ぽつりと呟いた。
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「……なんか今日、すごく生きやすい気がします」
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ノベェンタは、
静かに麦茶を飲んだ。
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「気のせいくらいが丁度良いんですよ」
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秋葉原の雑踏。
アニメソング。
笑い声。
電子音。
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世界は今日も、
少しうるさくて。
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案外、
悪くなかった。




