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『境界断ちのノベェンタ』 〜「観測者が意思決定した瞬間、世界線は収束します」意識高い系エリート社畜、たまに世界を救う  作者: nobunobuwo


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第六十三話 「コスプレ文化というものは、“好きな物語へ自分の身体を接続したい”という人類の極めて健全な欲望なので、布と情熱だけで自己肯定感が復活する瞬間が時々あります」


 出張先である東京ビッグサイト。


 午前十時二十六分。



 巨大だった。



 ガラス。


 鉄骨。


 展示ホール。


 エスカレーター。


 無限の人類。



 東京の“イベント文明”が、

 物理化したみたいな建物だった。



「……広っ」


 リゼが周囲を見回す。



 今日は。


 東央マテリアル。


 産業技術展示会。



 表向きには、

 “次世代環境整合素材開発企業”。



 実態は。



 《観測整合維持局 第七補正執行室 外側環境対策部》。



 つまり。



 世界のバグ修正係である。



 なお。



 営業ブースは、

 かなり普通だった。



【高次元認識対応型新素材】

【位相安定樹脂】

【環境適応コーティング】



 嘘は言ってない。



 ただ説明不能なだけだった。



「営業スマイルって、ある意味かなり高度魔法ですよね」


 ノベェンタはカタログ整理しながら呟く。



「展示会文化、人類の“社会的擬態能力”かなり要求されるので。疲れてても笑う、興味なくても名刺交換する、知らない横文字へ“なるほどですね”返す。この辺、“現代都市型コミュニケーション儀式”なんですよ。あと日本展示会、“とりあえずノベルティ貰う”文化強い。ボールペン、エコバッグ、除菌シート。人類、“無料”へかなり弱いので。コミケでも“限定”の二文字だけで移動速度変わる個体いますし」


「はいはい、今回はそう言う感じの豆知識のやつね…」



 ちなみに。



 隣ホール。



 巨大ポスター。


 アニメ看板。


 コスプレ更衣室案内。


 長蛇列。



 完全に。



 コミケだった。



「……なんで隣なんですか」


 佐伯が遠い目をする。



「偶然ですね」


「絶対世界が寄せてますよね?」



 コミケ参加者達が、

 ホール間を移動していく。



 鎧。


 魔法少女。


 軍服。


 ケモ耳。


 巨大武器。



 視界情報量が多い。



「コスプレ文化、“好きなキャラになりたい”だけじゃなく、“その作品を好きだった頃の自分へ戻る儀式”でもあるので。衣装着た瞬間、人類ちょっとだけ精神年齢巻き戻るんですよ。“中学時代この作品で救われた”とか、“受験期ずっと観てた”とか。つまりコスプレ、“布製記憶媒体”側面かなり強い。あとオタク文化、“解像度”へ異常執着あるので。ボタン位置、布素材、靴形状、刺繍角度。“そこ見る!?”って部分ほど情熱宿りやすい」


「なんでちょっと職人文化なのよ」



 その時だった。



 空気が、

 少しだけ軋む。



【なりたい】


【推し】


【解釈一致】


【再現】


【理想】


【キャラ愛】



 黒いノイズ。



 展示ホール天井へ、

 じわじわ滲み始める。



「……来ましたね」


 ノベェンタが小さく呟く。



 次の瞬間。



 ブゥン――……



 空間歪曲。



 名刺。


 展示パネル。


 照明。



 全部が、

 コスプレ会場みたいに色彩過剰化する。



「えっ」



 リゼのスーツが、

 一瞬で変化した。



 紫銀色の魔導礼装。


 長いマント。


 結晶杖。



 完全にラスボス側魔導師。



「……うわっ!?」



 佐伯も変わる。



 赤いビキニアーマー。


 境界断ち印入りハルバード。


 露出度高め戦乙女。



「ちょっ、ここ展示会場ですよ!?」



 アイン。



 銀装飾軍服。


 青銀マント。


 細身魔導剣。



 異様に似合う。



「……アイン先輩だけ完成度高くないですか?」


「元からです」


「意味分かんないんですよ」



 野村部長。



 金色腹巻。


 ミスリル肩当て。


 王様みたいなマント。



 なのに顔だけ普通のおじさん。



「派手かなぁ!!」



 そして。



 ノベェンタ。



 黒いロングコート。


 銀刺繍。


 境界断ち印。


 黒剣。



 完全に。



 “終盤で全部知ってる側の男”。



「いやいつも似合いすぎでしょ!!」


 佐伯が叫ぶ。



 周囲。



 一瞬静まる。



 だが。



「完成度たっっっか!!」


「公式!?」


「どこの作品!?」


「設定資料欲しい!!」



 コミケ参加者達、

 めちゃくちゃ食い付いた。



「コスプレオタク、“存在しない作品”へも異常反応するので。衣装完成度高いと、“これは何のジャンルだ……?”って考察始まる。“ソシャゲ?”“中華アニメ?”“韓国系ダークファンタジー?”とか勝手に世界観構築し始める。あとオタク、人類の中でも特に“情報の断片から妄想膨らませる能力”高い。三秒PVだけで二万字考察書く個体まで居ますし」


「最後の個体怖いのよ!」



 その時。



 一人のレイヤー女性が、

 佐伯へ近付いた。



「すみません……!」


「はいっ!?」



「その武器、自作ですか!? 塗装どうやってるんです!?」



 完全に目が職人。



 佐伯が困惑する。



「え、いやこれ実戦用で……」


「実戦感すごいですよね!!」



 通じなかった。



「コスプレ文化、“好き”の方向性が細分化されすぎてるので。衣装勢、造形勢、武器職人、ウィッグ師、メイク特化、撮影班、背景加工班。“オタク”って一括りされますが、実際かなり分業化された巨大技術共同体なんですよ。あとコミケ、“普段社会で浮いてる人類”が安心して存在できる空間として機能してる側面ある。“好きな話を全力でしても引かれない”って、人類へかなり重要なので」



 リゼが、

 少し周囲を見る。



 笑顔。


 撮影。


 交流。


 名刺交換。


 推し語り。



 みんな、

 少し楽しそうだった。



「……なんか平和ね」



 ノベェンタは頷く。



「人類、“現実では出せない自分”を安全に試せる場所必要なので。会社、学校、家庭。“役割”固定されると、人格ちょっと窒息する。だからコスプレ文化、“別人格体験装置”としてかなり機能してるんですよ。“普段地味な人”が派手キャラやると急に自己肯定感戻る場合ありますし。“好きな自分”を一瞬演じられるだけで、人類ちょっと生きやすくなる」


「今日ちょっと優しいわね」



「疲れてる人多いので」



 その時だった。



 黒いノイズが、

 会場中央へ集まり始める。



【解釈違い】


【炎上】


【原作改変】


【公式許せない】


【推しカプ戦争】



「うわっ急に面倒くさいのキタ!」


 リゼが顔をしかめる。



 巨大な影が現れる。



 全身、

 SNS吹き出し。


 炎マーク。


 長文引用RT。



 かなり嫌な存在だった。



『その解釈は違う』


『公式エアプ』


『新規は黙れ』


『昔の方が良かった』



「オタク文明の悪いとこ来た!!」



 会場空気が、

 少しピリつく。



 だが。



 その瞬間。



 一人の古参レイヤーが、

 静かに言った。



「まぁまぁ」



 全員、

 そちらを見る。



「好きだから揉めるんだよね」



 静かな声だった。



「でも、“好き”って本来、楽しいためのものだから」



 空気が、

 少し止まる。



 ノベェンタは、

 静かに頷いた。



「創作文化、“解釈”へ人格乗りやすいので。“この作品で救われた自分”が居るほど熱量増える。だから衝突も起きる。でも本来、“好き”って他人と戦うためじゃなく、“現実を少し生き延びやすくする道具”なんですよね。あとコスプレ文化、案外“他人を褒める文化”強い。“その衣装すごいですね”とか、“似合ってます”とか。人類、“好き”を共有してる時だけ急に優しくなる瞬間ある」



 静寂。



 黒いノイズが、

 少しずつ消えていく。



 その時。



 キノピーが、

 コミケ参加者達の中央へ歩いていった。



「にゃー」



「ネコだァァ!!」


「撮っていいですか!?」


「かわいいーー!!」



 一瞬で平和になった。



 ノベェンタが、

 静かに呟く。



「ネコ、“ジャンル間戦争停止装置”としてかなり優秀なので」


「便利な存在扱いするな!」

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