表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『境界断ちのノベェンタ』 〜「観測者が意思決定した瞬間、世界線は収束します」意識高い系エリート社畜、たまに世界を救う  作者: nobunobuwo


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/87

第六十二話 「同窓会というイベントは、“過去の自分”と“現在の社会的ステータス”を同時比較させる危険儀式なので、人類は笑顔で乾杯しながら内心かなりHPを消耗しています」


 東京。


 新宿。


 午後七時二分。



 高層ビル。


 ネオン。


 人波。


 タクシー。


 電子広告。



 街そのものが、

 ずっと喋っているみたいだった。



「……人、多すぎません?」


 佐伯が小さく呟く。



 駅前スクランブル。


 スーツ姿の人類が、

 無限湧きしている。



 ノベェンタは、

 紙コップコーヒーを持ちながら頷いた。



「東京、“人口密度による情報暴力”ありますからね。看板、音、人間、広告、流行、比較対象。この街、人類へ“もっと頑張れ”を常時送信してくる。あと都市部、“成功してそうな他人”が視界へ入り続けるので、脳が勝手にランキング戦始めるんですよ。SNS時代以降、“他人の人生ダイジェスト”観測し続ける文化になったので、人類かなり自己肯定感バグりやすい。MMORPGでも、街中央に全身課金スキン+限定マウント乗った廃人立ってるだけで、自キャラ急に初心者装備へ見えてくる現象ありますし」


「…マウンティングマウンテンで孤高になる感じかしら?」



 今日は、

 東央マテリアル東京研究区画への出張だった。



 認識汚染調査。


 会議。


 外側反応確認。



 そして夜。



 佐伯だけ、

 別行動。



 大学時代の同窓会。



「……帰りたい」


 佐伯が真顔で言った。



「まだ始まってませんよ」


「同窓会って、“人生中間発表会”みたいで怖いんですよぉ……」



 リゼが少し笑う。



「分かるわ、まぁでも楽しんで来なさいよ」



「ちなみに同窓会、人類かなり“分岐確認イベント”として機能します。“同じ教室で単位落としてた個体”が、数年後には商社、外資、地方公務員、結婚、起業、転職三回、心療内科通院へ分岐してるので。つまり同窓会、“選ばなかった世界線”を大量観測する空間なんですよ。あと学生時代って、“まだ全員可能性の霧の中”だったので、社会出た後の格差が急に可視化される」


「また量子論みたいな人生分析始まったわね」



 そして。



 新宿の裏通り。


 オシャレなバル。



 暖色照明。


 ワイン棚。


 クラフトビール。


 やたら小さい前菜。


 木製カウンター。



 “東京の店”だった。



「皿、小さ……」


「東京価格ですね」



 佐伯が扉を開ける。



「おー!! 佐伯ぃ!!」


「久しぶりー!」



 大学時代の友人達。



 営業。


 IT。


 メーカー。


 広告代理店。


 コンサル。



 全員、

 “社会人四年目くらいの疲労”を纏っていた。



 その中。



 一人だけ。



 明らかに“都会勝者側の空気”を出している男がいた。



 高級時計。


 綺麗なジャケット。


 自然な港区感。



 金田中 創一。



 超大手総合商社勤務。



「佐伯じゃん」



 笑顔。



 だが。



 うっすら。


 “自分の方が上側”の空気。



「今なにしてんの?」


「えっと……素材関係です」


「へぇー」



 “あっ察し”の顔。



「東京来ないの?」


「いやぁ、今は高知ですね」


「高知!?」



 少し笑う。



「仕事あるんだ?」



 空気が、

 少しだけ止まる。



 悪意というより。



 “無自覚マウント”。



 現代社会でかなりよく見るやつだった。



 佐伯は、

 曖昧に笑う。



「まあ……ありますよ」



 金田中はビールを飲みながら続ける。



「でも地方って暇じゃね? 俺もう東京以外無理だわ。店も人もイベントも多いし」


「まぁ便利ではありますよね」



「年収もやっぱ東京強いしなー。最近マンション買ったんだよね」



 チラッ。



 時計見せる角度が、

 妙に上手い。



「商社マジきついけどさ。でも三十代前半で一千万見えてくるし」



 同級生達が、

 「すげー」と笑う。



 だが。



 少しだけ。



 疲れていた。



 全員。



 その時だった。



 空気が、

 微かに軋む。



【年収】


【勝ち組】


【比較】


【同期】


【結婚】


【焦燥】



 黒いノイズ。



 天井付近へ、

 じわじわ滲み始める。



 佐伯だけが、

 それに気付く。



「……うわ」



 認識汚染。



 典型的“社会的比較型”。



 人類が互いを値踏みし始めた時、

 発生しやすいタイプだった。



 その瞬間。



 カラン。



 店の扉が開く。



「四名です」



 聞き覚えのある声。



 佐伯、

 ゆっくり振り向く。



 そこに居た。



 ノベェンタ。


 リゼ。


 アイン。


 野村部長。



 完全に偶然だった。



「えっ」


「あれ?野部さん!?」



 リゼも止まる。



「あっ」



 ノベェンタは、

 普通に手を上げた。



「まぁ魔法使いには偶然は存在しないんですよ」


「い、いつから魔法使いなんですかーっ?」



 野村部長は、

 既にメニューを見ていた。

 “燻製銀鱈西京焼き”



「この店うまそうだなぁ!!」



 金田中、

 若干困惑。



「……会社の人?」


「まあそんな感じです」



 ノベェンタは、

 静かに頷いた。



「ちなみに人類、“都会=勝利”と認識しやすいですが、実際には“何へストレス感じるか”で適性かなり変わるので。刺激密度高い環境でHP回復する個体もいれば、人口密度だけでMP削られるタイプも居る。あと現代、“自由な選択肢が多い人生”ほど幸福と思われがちですが、心理学では“選択肢過多による疲労”普通に報告されてます。スーパーでジャム三十種類あると逆に決められなくなる現象ですね。人類、“選べる”だけで幸せになるほど脳が高性能じゃない」


「ジャムで人生語らないでください」



 金田中が少し笑う。



「でも結局、金あった方が人生楽じゃない?」



「それはそうです」


 ノベェンタは即答した。



「資本主義社会、“金で回避できる苦痛”かなり多いので。通勤、医療、住環境、時間自由度。“金は幸福になれない”じゃなく、“一定以下だと普通に不幸”が実態です。ただ面白いの、人類、“支出減らす”方向でも自由獲得できるんですよ。地方移住とか、小規模生活とか、“欲望総量そのものを調整する”方向ですね。MMORPGでも、“最強装備課金勢”だけじゃなく、“釣りだけして幸せそうな人”普通に存在しますし」


「またネトゲで人生説明始まった……」



 黒いノイズが、

 ゆっくり金田中へ絡みつく。



【もっと】


【上へ】


【負けたくない】



 だが。



 その瞬間。



 野村部長が、

 真顔で言った。



「でも胃は壊れるぞぉ」



 静寂。



「……え?」



「部長、商社時代、胃潰瘍三回やったからなぁ!!」


「言わなくていいです」



 野村部長は、

 クラフトビールを飲みながら続ける。



「年収増えても、“深夜二時にSlack鳴る人生”は普通につらいぞぉ!!」



 金田中。



 一瞬だけ。



 目が死ぬ。



「……あー」



 図星だった。



「最近、海外案件で夜中ずっと電話っすね……」


「地獄ですね」


「朝起きた瞬間未読二百件とかあるし」


「かなり地獄ですね」



 少し笑いが起きる。



 空気が、

 少し柔らかくなる。



 その時。



 佐伯が、

 ぽつりと笑った。



「……でも最近、“会社行きたくない”が減ったんですよね」



 静かだった。



「昔、“ちゃんとした大人にならなきゃ”って思ってたんです。でも今、変な世界行って、変な人達と働いて、変な武器持って」



 アインが静かに頷く。



 今日も何故か、

 薄い魔導コート装備だった。



「人生バグったと思ってたんですけど」



 佐伯は、

 少しだけ笑う。



「案外、“自分が壊れにくい場所”って、世間のランキングと別なんだなって」



 黒いノイズが、

 少し揺らぐ。



 ノベェンタは、

 静かにコーヒーを飲む。



「人類、“他人から羨ましい人生”と“自分へ適合してる人生”結構別なので。都会エリート向き個体も居れば、地方で魚焼いてる方が精神安定するタイプも居る。つまり人生、“最適解探し”より“継続可能性テスト”なんですよ。MMORPGでも、“環境最強職”なのに楽しめず引退する人いますし。“好きだから続く”って、かなり強い性能なんです」



 静寂。



 金田中は、

 少しだけ笑った。



「……なんか、お前ら見てると肩の力抜けるわ」



 その瞬間。



 キノピーが、

 テーブルへ飛び乗る。



「にゃ」



 そして。



 金田中の膝へ座った。



「疲れてる人類の膝、あったかいにゃ」



 完全に、

 終電後メンタルだった。



 東京の夜景が、

 窓の向こうで光っていた。



 眩しくて。


 騒がしくて。


 少し疲れる街だった。



 でも。



 その中で。



 少し笑えるだけで、

 人類は案外まだ生き延びられるのかもしれなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ