第六十一話 「移住という行為は、“場所を変えれば人生も変わるかもしれない”という希望と、“でも失敗したらどうしよう”という恐怖の間で、人類がずっと揺れ続ける現代型冒険なんですよね」
幡多郡大月町。
午前六時十一分。
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海は静かだった。
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朝焼け。
港。
潮風。
遠くで漁船のエンジン音。
空は薄い青色へ変わり始めている。
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防波堤。
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ノベェンタは、
缶コーヒーを片手に海を見ていた。
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隣。
リゼ。
キノピー。
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完全に朝の散歩だった。
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「……なんか今日、空気柔らかいわね」
リゼが目を細める。
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「湿度ですね」
「そこ分析から入る?」
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「ちなみに移住考える人類、“朝の空気が違う”へ異常弱い傾向あります。都会だと“生活”として消費してた景色が、地方だと急に“人生っぽく”見え始めるので。“この景色毎日見れるなら……”って感情、人類かなり移住トリガーになりやすい。あと内見旅行、一泊二日だと全部良く見える現象あります。“旅補正”ですね。移住勢、“三日目の雨の日”を見ろって昔から言われますし」
「そんなこと言うかな?」
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その時だった。
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海面。
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ぷか。
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イルカ。
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「……あ」
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さらに。
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小さいイルカ。
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親子だった。
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「うわっ、可愛い……!」
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親イルカが、
こちらを見る。
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「朝だねぇー」
「イルカまで喋るのね、もう慣れたくないんだけど」
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子イルカが跳ねる。
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「移住するー?」
「営業始めたわよ!?」
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ノベェンタは普通に頷いた。
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「最近増えましたね、移住相談」
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「ちなみに移住検討勢、“自然豊か”“海近い”“家賃安い”へ強く惹かれますが、同時に“仕事どうする”“病院ある?”“人間関係濃すぎない?”で止まりやすいんですよ。つまり人類、“自由になりたい”と“生活壊したくない”を同時所持してる。あと移住系YouTube、“朝コーヒー淹れて海見る映像”めちゃくちゃ再生されますが、実際には湿気で洗濯乾かない日も普通にあります」
「まぁそうね…しかも現実は“スローライフが忙しい”って感じだからね〜ギャップはあったな〜…そういえば最初1〜2年は吊るしてたベルトがカビてたな〜…高知の梅雨は嫌いよ〜…」
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港近くの道の駅。
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開店準備。
魚。
干物。
野菜。
柑橘。
地元惣菜。
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妙に豊かだった。
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「この刺身定食、都内なら倍以上するわよね」
「しますね」
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「移住勢、“生活費安くしたい”から地方興味持つケースかなり多いですが、実際重要なの、“固定費減ると精神HP回復する”部分なんですよ。家賃一〜二万円台とか存在するので。“生きるだけで毎月十数万飛ぶ圧”減ると、人類かなり呼吸深くなる。あと地方、“収入少なくても飯が豊か”問題あるので。魚貰う、野菜貰う、果物貰う。“貨幣以外で生活成立する感覚”へ驚く移住者結構います」
「それは確かに都会に無いわね……留守に置いてくから誰がくれたかわからないのが多いけど…」
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子イルカが跳ねる。
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「バナナー!」
「最近普通に育ちますね」
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「え、本当にバナナ採れるの!?」
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「はい。あとパッションフルーツもあります。条件良いと年二回。“八月と十二月に収穫”とか普通に起きる。なので移住勢、“えっ高知って南国だったの?”で驚くケース多いです。あと冬、“雪降らないだけで幸福”って言い始める北国出身者わりといる」
「来てみないとなのよ…確かに家から九州の宮崎が見えるから南国感はあるわね…」
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海風。
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静かな時間。
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「……でも、不便よね」
リゼが言う。
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「イオ○まで三時間」
「はい」
「映画館も三時間」
「はい」
「十九時で信号点滅」
「地方仕様です」
「スーパー半額シール十六時半」
「高齢者レイド開始時間ですね」
「やめなさい」
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ノベェンタは少し笑った。
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「ちなみに移住失敗あるある、“便利さを舐めてた”ですね。都会、“二十四時間どこか開いてる”が標準なので。地方来ると、“夜に急に醤油切れた”だけでイベント発生する。あとAmazon到着速度へ身体適応してる現代人類、“配送二日遅い”だけで文明崩壊感覚える場合あります」
「分かるのが嫌なのよ」
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「でも逆に、“何もない”へ慣れると戻れなくなる人も多いです」
「え?」
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「人類、“刺激多すぎる環境”だと、ずっと比較モードになるので。“もっと稼がなきゃ”“もっと頑張らなきゃ”“もっと成功しなきゃ”って。でも地方、“そもそも比較対象少ない”から、“今日は魚うまかったな”で一日終わる場合ある。これ、かなり精神へ効くんですよ」
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キノピーが、
防波堤で伸びる。
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「にゃー」
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完全に幸福だった。
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「あと移住勢、“田舎は人が冷たいかも”って怖がるんですが、実際には逆で、“人が近い”んですよ。“最近見ないけど大丈夫?”が発生する社会なので。もちろん距離感難しい部分もありますが、“孤独死しにくい”共同体でもある。あと地方高齢者、“野菜渡すことでコミュニケーション成立してる”節あります」
「確かに袋いっぱい持たされるわね……」
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親イルカが、
ゆっくり言った。
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「ここ、ゆっくりー」
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子イルカも跳ねる。
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「人類、急ぎすぎー!」
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リゼが吹き出した。
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「イルカにまで言われてるわよ」
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ノベェンタは、
静かに海を見る。
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「移住って、“正解探し”じゃないんですよね。“どこなら自分が壊れにくいか”探す行為に近い。都会向いてる人もいるし、地方向いてる人もいる。でも、“今のまま限界かも”って感覚あるなら、一回環境変えるのは案外合理的なんです。MMORPGでも、“初期村から出ないと新しい景色見えない”ですし。あと人類、“人生やり直し不可”と思い込みがちですが、実際には引っ越しだけで人格ログかなり更新される場合あります」
「ちょっと人生軽くなるのよね……」
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海は青かった。
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空は広かった。
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大月町は今日も少し不便で。
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かなり、
人間に優しかった。
ちなみにWeb小説文化、“一人で部屋の中で書いた妄想”へ、知らない誰かが遠隔で「好きです」って反応返してくるので、冷静に考えるとかなり不思議な文明なんですよね。
しかも連載形式。
作者側、
一話更新するたびに、
「今回テンポ大丈夫か……?」
「このギャグ滑ってないか……?」
「説明長すぎたか……?」
みたいな脳内反省会を開催しています。
だいたい深夜に。
しかも人類、
夜になると自己否定能力だけ異常強化されるので。
午前二時以降の創作者、
わりと“PV監視型ゴブリン”みたいになります。
数字を見て一喜一憂し、
更新ボタン押したあと五分ごとに様子見に行く。
完全に危険生物。
あと感想文化って凄くて、
「ここの会話好き」
「このキャラ好き」
とか言われるだけで、
作者の脳内で急にBGM流れ始めます。
MMORPGで例えると、
長時間掛けて育てたネタビルドを、
通りすがりの上級者に「それ良いですね」って褒められる瞬間に近い。
あれ、
本当に元気出る。
逆に、
「ここ絶対ウケるだろ……!」
と思って投げたネタ、
完全スルーされる時あります。
作者、
普通に布団で転がります。
人類、
意外と繊細。
なので。
ブックマーク。
評価。
感想。
レビュー。
これ全部、
創作者側から見ると“応援”というより、
「そこに居ます」
っていう存在確認信号なんですよね。
特にブクマ、
かなり嬉しい。
「あとでまた読む」
って、
要するに“物語を人生の片隅へ置いてくれた”って事なので。
創作者、
わりとその一件で数日機嫌良くなります。
単純なので。
もしこの作品が、
あなたの日常HPをほんの少しでも回復できたなら。
ブックマークや評価など頂けると、
作者の継続力・情緒安定性・深夜テンション耐性が大幅上昇します。
たまに本当に、
「もう今日は書けない……」
から、
感想一件で復活するので。
創作者、
だいたい焚き火と同じ原理で動いています。




