第六十話 「アニメオタク文化というものは、“存在しないキャラクターへ本気で人生を救われた人類”が数十年かけて築き上げた巨大感情経済圏なので、時々その熱量だけで石像くらい普通に動きます」
幡多郡大月町。
雲ヶ辻公園。
午後五時四十七分。
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高台。
海風。
夕焼け。
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水平線の向こうで、
太陽がゆっくり沈み始めていた。
空は橙から紫へ変わりかけている。
海面には光の筋。
潮の匂い。
草の匂い。
どこか夏休み終盤みたいな空気。
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その絶景の中央。
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巨大な石像。
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異国文明っぽい。
妙に威厳がある。
観光客の九割が、
「モアイ?」って言うタイプの石像だった。
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だが今日は違う。
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石像前の広場。
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簡易ステージ。
LED照明。
大型スピーカー。
屋台。
キッチンカー。
物販列。
ペンライト。
法被。
アニメTシャツ。
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完全に。
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“地方アニソン&地下アイドル合同フェス”だった。
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「……なんで大月町の絶景高台スポットでオタクイベント始まってるんですかね」
リゼが遠い目をした。
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ノベェンタは、
紙コップの麦茶を飲みながら頷く。
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「地方創生ですね」
「便利すぎる言葉なのよそれ」
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観光協会。
商工会青年部。
移住促進企画。
空き店舗活用。
若者誘致。
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全部混ざった結果。
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“アニメ好き呼べば若者来るのでは?”という、
かなり現代的結論へ到達していた。
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なお。
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かなり来ていた。
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「ちなみにアニメオタク文化、“共通作品視聴”だけで初対面人類同士を高速接続できるので。『あの回ヤバかったですよね』だけで二時間会話成立する。特に深夜アニメ文化圏、“毎週リアルタイムで感情共有してた”経験あるので、疑似同期視聴コミュニティとしてかなり結束強いんですよ。あとアニオタ、“作画良い”という四文字へ異常信頼寄せますが、あれ実際には原画・動画・撮影・エフェクト・3D・制作進行・スケジュール管理全部絡むので、“神回”ってだいたい人類の寿命削って生成されてるんです」
「制作現場の闇が見えたわね……」
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その時。
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ステージ照明が点灯する。
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歓声。
拍手。
オタク達のざわめき。
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「来るぞ!!」
「最前圧縮やめろォ!!」
「ペンラ折れたァ!!」
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アニソンイントロ。
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観客席の空気が、
一瞬で変わる。
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「……すご」
リゼが少し引いた。
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オタク達。
急に統率され始めていた。
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コール。
MIX。
クラップ。
ジャンプ。
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完全同期。
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「アニメオタク、“イントロ一秒”で感情最大化される習性あるので。特に第一話OPとか最終回ED、“映像記憶”と直結してる場合かなり危険です。あと人類、“青春時代に見た作品”へ人生単位で情緒支配されやすい。深夜二時に聴いたアニソン、一生刺さるケース普通にありますし。“この曲聴くと受験期思い出す”みたいな現象、記憶と音楽が強く結びついてる証拠なんですよ」
「オタクの人生分析がリアルなのよ」
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その瞬間だった。
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ゴゴゴゴ……。
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石像が、
動いた。
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「……あ」
ノベェンタが呟く。
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「来ましたね」
「“来ましたね”じゃないのよ!!」
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巨大石像。
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ゆっくり首を回す。
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だが。
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観客達。
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「演出すげぇぇ!!」
「運営本気じゃん!!」
「予算どうなってんの!?」
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誰も逃げない。
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「ライブオタク文化、“多少現実壊れても演出として受理する”領域ありますからね。最近のライブ、AR・ホログラム・プロジェクションマッピング進化しすぎて、“巨大石像動いてる”くらいだと“まぁ演出かな”で脳が処理する。あとオタク、“推しが出てる空間”だと認識優先順位かなり狂うので。“世界終わるとしても推しのMC聞いてからでいい”みたいな精神状態へ到達する場合あります」
「まぁそうなるわね…」
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石像の目が光る。
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【推し】
【供給】
【神回】
【解釈一致】
【円盤】
【最終回】
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黒い文字列。
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空中へ浮かぶ。
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「うわぁ……」
リゼが顔をしかめた。
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「“偶像共鳴型認識汚染”ですね」
「ロクでもないジャンル!」
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「人類、“存在しないキャラクター”へ本気で感情投資できるので。アニメ文化って、“架空存在との長期関係性”なんですよ。毎週追い、グッズ買い、考察し、劇場版で泣き、最終回で喪失感受ける。つまり脳は半分“実在人間との関係”として処理してる。あとアニオタ、“二期決定”の四文字で寿命伸びる習性あります。“生きる理由が増えた……”とか普通に言い始めるので」
「ちょっとわかっちゃって腹立つわね……」
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その時。
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石像が。
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どこからか巨大ペンライトを取り出した。
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「……え?」
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ブンッ。
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振る。
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しかも。
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UO焚きタイミングが完璧。
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「古参ですね」
「なんで分かるのよ!?」
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「アニソン現場、“サビ前ジャンプ”とか“ラスサビUO解禁”とか独自文化かなり成熟してるので。あと古参オタク、“イントロのドラム数秒”だけで曲特定する能力ある。“このシンセ音は二〇一二年深夜アニメ感ある”とか言い始める個体までいる。人類、好きなジャンルだけ異常進化するんですよ」
「まぁ…はまるとそうなるしねぇ…平和なのよ…」
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石像が、
低い声で呟く。
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『供給……もっと供給を……』
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「完全に限界オタクなのよ!」
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黒いノイズが広がる。
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【続編】
【劇場版】
【原作改変】
【ソシャゲ化】
【作画崩壊】
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「うわっ、またなんか生々しい!」
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ノベェンタは静かに頷いた。
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「アニメオタク文化、“愛情”と同時に“執着”も増幅しやすいので。好きだからこそ解釈違いで苦しみ、原作改変で情緒壊れ、推し卒業で世界終わる。“供給が人生支えてる”状態まで行くと危うい。ですが一方で、“あの作品に救われた”って本気で言う人類もいるので。創作文化、人類の精神インフラ側面かなり強いんですよ」
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その時。
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キノピーが、
ノベェンタの肩から降りた。
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「にゃ」
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石像を見る。
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「推しは、“消費”じゃないにゃ」
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静寂。
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石像が止まる。
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「……え?」
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キノピーは、
しっぽを揺らした。
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「“好き”は、生き延びるために使うにゃ。“苦しくなるため”じゃないにゃ」
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海風。
夕焼け。
ペンライトの光。
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石像の目が、
少しだけ穏やかになる。
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【ありがとう】
【来週も生きる】
【推しは健康でいてくれ】
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黒い文字列が、
静かに光へ変わる。
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ノベェンタは、
少しだけ笑った。
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「……人類、“誰かを応援する才能”だけはかなり美しいんですよね」
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歓声。
拍手。
海風。
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巨大石像は。
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最後に静かに。
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完璧なオタ芸ロマンス打ちを決めた。
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「最後まで解像度高いのよ!!」
リゼのツッコミが、
夕焼け空へ響いた。
ちなみにWeb小説文化、“一人で部屋の中で書いた妄想”へ、知らない誰かが遠隔で「好きです」って反応返してくるので、冷静に考えるとかなり不思議な文明なんですよね。
しかも連載形式。
作者側、
一話更新するたびに、
「今回テンポ大丈夫か……?」
「このギャグ滑ってないか……?」
「説明長すぎたか……?」
みたいな脳内反省会を開催しています。
だいたい深夜に。
しかも人類、
夜になると自己否定能力だけ異常強化されるので。
午前二時以降の創作者、
わりと“PV監視型ゴブリン”みたいになります。
数字を見て一喜一憂し、
更新ボタン押したあと五分ごとに様子見に行く。
完全に危険生物。
あと感想文化って凄くて、
「ここの会話好き」
「このキャラ好き」
とか言われるだけで、
作者の脳内で急にBGM流れ始めます。
MMORPGで例えると、
長時間掛けて育てたネタビルドを、
通りすがりの上級者に「それ良いですね」って褒められる瞬間に近い。
あれ、
本当に元気出る。
逆に、
「ここ絶対ウケるだろ……!」
と思って投げたネタ、
完全スルーされる時あります。
作者、
普通に布団で転がります。
人類、
意外と繊細。
なので。
ブックマーク。
評価。
感想。
レビュー。
これ全部、
創作者側から見ると“応援”というより、
「そこに居ます」
っていう存在確認信号なんですよね。
特にブクマ、
かなり嬉しい。
「あとでまた読む」
って、
要するに“物語を人生の片隅へ置いてくれた”って事なので。
創作者、
わりとその一件で数日機嫌良くなります。
単純なので。
もしこの作品が、
あなたの日常HPをほんの少しでも回復できたなら。
ブックマークや評価など頂けると、
作者の継続力・情緒安定性・深夜テンション耐性が大幅上昇します。
たまに本当に、
「もう今日は書けない……」
から、
感想一件で復活するので。
創作者、
だいたい焚き火と同じ原理で動いています。




