第五十九話 「フェスティバル文化というものは、“人類が一時的に社会構造を忘れて集団幻覚と共同体感覚へ浸る儀式”なので、自然の中で開催すると時々そのまま文明観まで変わります」
コスタリカ。
太平洋沿岸。
熱帯雨林地帯。
午後四時二十一分。
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湿度。
濃い緑。
巨大な葉。
遠くで鳴く見たことない鳥。
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空気そのものが、
日本と違った。
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ジャングルだった。
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「……暑っ」
リゼが額を押さえる。
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土の匂い。
潮風。
焚き火。
スパイス。
香木。
音楽。
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巨大な野外フェス会場が、
森の中へ広がっていた。
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ヨガエリア。
アートドーム。
ヒーリングブース。
エコ建築。
ライブステージ。
オーガニックフード。
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完全に。
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“人類の意識高い部分”を濃縮した空間だった。
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「……社員旅行って聞いてたんだけど」
リゼが真顔で言う。
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「福利厚生兼市場調査兼素材採集兼認識安定化任務ですね」
ノベェンタは平然としていた。
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「最近アウトドア・ウェルネス市場、“精神性”と“サステナブル”がかなり強く接続し始めてるので。“自然へ帰ろう”“本来の自分を取り戻そう”“デジタルデトックス”みたいな思想、人類が情報過多環境へ疲弊した結果かなり拡大してます。あと大型野外フェスって、“一週間だけ成立する仮想国家”みたいな側面あるんですよ。通貨、ルール、文化、共同体感覚全部その場で生成されるので。MMORPGでも期間限定イベントマップ、“急に全員優しくなる瞬間”ありますし」
「だからネトゲ老人会みたいになるのやめて」
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会場には。
世界中の人類がいた。
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ヨガ講師。
DJ。
ヒッピー。
IT起業家。
旅人。
サーファー。
ヴィーガン料理人。
謎に裸足の人。
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そして。
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異様に笑顔。
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「……なんかみんな、“人生を許した顔”してるわね」
リゼが呟く。
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「文明疲労から一時離脱してるので」
ノベェンタが頷く。
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「現代人類、“効率化”へ寄り過ぎた反動で、“非効率な共同体体験”へ回帰し始めてるんですよ。焚き火囲む、踊る、歌う、自然で寝る。この辺、人類史的にはむしろ基本文化なので。農耕以前から存在してる。“知らない人と同じリズムで踊る”って、かなり古代的行為なんです。あと野外フェス、“名刺交換しない社会”として機能する瞬間あるので。職業とか年収とかSNSフォロワー数とか、一回どうでもよくなる」
「日本でもすっごい辺境ど田舎のコミニティーだとあまり変わらないような…」
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その時。
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佐伯が現れた。
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赤いサングラス。
異世界製ハルバードケース。
薄い羽織。
完全に。
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フェス慣れしてる人類だった。
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「野部さん! ここのチルエリアやばいですよ!」
「適応早いですね」
「なんか空気が“ログインボーナス不要世界”って感じで!」
「分かります」
「分かるんだ」
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アインもいた。
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ただし。
何故か。
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ミスリル帷子の上へ、
白い民族調ポンチョを装備している。
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「……アイン先輩」
「はい」
「なんでフェス適応装備へ進化してるんですか」
「現地文化尊重です」
「絶対ちょっと楽しんでますよね?」
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アインは否定しなかった。
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そこへ。
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野村部長。
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アロハシャツ。
麦わら帽子。
首から木彫りアクセサリー。
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完全に。
定年後の海外旅行おじさんだった。
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「いやぁ野部くん!! ヨガすごいなぁ!!」
「部長、何故朝六時から参加してるんですか」
「なんか健康になれそうで!!」
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適応が早かった。
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「ちなみに人類、“自然の中で健康そうなことしてる人”を見ると、だいたい良い影響受けた気になります。森林浴、ヨガ、瞑想、オーガニック。この辺、“身体へ良さそう”という認識自体がストレス軽減へ寄与する場合あるので。プラセボ効果って侮れないんですよ。あとMMORPGでも、“バフ掛かった気分”って結構重要です」
「なんでもゲームで説明するな」
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その時だった。
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空気が、
少しだけ揺れる。
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【自己啓発】
【覚醒】
【本当の自分】
【宇宙】
【波動】
【繋がり】
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「……来たわね」
リゼが眉をしかめる。
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黒いノイズ。
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だが今回は、
敵意が薄い。
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むしろ。
“気持ちよすぎる”。
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「典型的な“精神解放型認識汚染”ですね」
ノベェンタは静かに言った。
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「人類、“疲れすぎると全部捨てたくなる”瞬間あるので。“会社辞めたい”“森で暮らしたい”“スマホ捨てたい”。この辺、現代社会疲労とかなり接続してる。ただし重要なのは、“文明から離れること”そのものより、“自分を回復させる余白”なんですよ。人類、常時最適化モードだと脳が焼けるので。あとフェス文化、“一回人生リセットした気分になる”作用かなり強いです。夏休み最終日の深夜テンションが、一週間続く感じに近い」
「最後だけ急に不安になる例えやめなさい」
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その瞬間。
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ジャングル奥。
黒い裂け目。
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そこから。
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巨大な“樹木”みたいな存在が現れた。
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木。
蔦。
光。
胞子。
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だが。
顔がある。
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「……でかっ」
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樹木型外側存在。
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だが。
敵意は薄い。
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『……人類、疲れている』
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「まあそうですね」
ノベェンタは普通に返した。
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『……だから森へ来る』
『踊る』
『泣く』
『笑う』
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妙に理解度が高い。
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「かなり人類観察してますね」
『長い』
『人類、昔から疲れている』
「それはそう」
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リゼが頭を抱える。
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「なんで今回、“敵”が妙に哲学的なのよ……」
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ノベェンタは、
静かに空を見た。
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夕暮れ。
ジャングル。
音楽。
笑い声。
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「……でも、“疲れたから休みたい”って、本来かなり正常なんですよね」
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静かな声だった。
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「現代人類、“常に前向きで成長し続けないと価値がない”と思い込みやすい。でも生物って、本来もっと波あるので。休む時期、停滞する時期、意味なくぼーっとする時期。全部必要なんです。あとMMORPGでも、“今日は素材集めだけして落ちるか……”みたいな日ありますよね。あれ案外、長く続けるコツなんですよ」
「人生をネトゲ日課みたいに語るのやめなさい」
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キノピーが、
ノベェンタの肩で丸くなる。
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「にゃ」
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風が吹く。
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黒いノイズが、
ゆっくり森へ溶けていった。
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そして。
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翌朝。
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東央マテリアル研究室依頼。
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パタゴニア山岳地帯。
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氷河。
暴風。
灰色の空。
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「……社員旅行って何でしたっけ」
リゼが真顔で呟く。
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ノベェンタは、
完全防寒装備で頷く。
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「福利厚生の後に素材採集です」
「ブラック企業なのよ」
ちなみにWeb小説文化、“一人で部屋の中で書いた妄想”へ、知らない誰かが遠隔で「好きです」って反応返してくるので、冷静に考えるとかなり不思議な文明なんですよね。
しかも連載形式。
作者側、
一話更新するたびに、
「今回テンポ大丈夫か……?」
「このギャグ滑ってないか……?」
「説明長すぎたか……?」
みたいな脳内反省会を開催しています。
だいたい深夜に。
しかも人類、
夜になると自己否定能力だけ異常強化されるので。
午前二時以降の創作者、
わりと“PV監視型ゴブリン”みたいになります。
数字を見て一喜一憂し、
更新ボタン押したあと五分ごとに様子見に行く。
完全に危険生物。
あと感想文化って凄くて、
「ここの会話好き」
「このキャラ好き」
とか言われるだけで、
作者の脳内で急にBGM流れ始めます。
MMORPGで例えると、
長時間掛けて育てたネタビルドを、
通りすがりの上級者に「それ良いですね」って褒められる瞬間に近い。
あれ、
本当に元気出る。
逆に、
「ここ絶対ウケるだろ……!」
と思って投げたネタ、
完全スルーされる時あります。
作者、
普通に布団で転がります。
人類、
意外と繊細。
なので。
ブックマーク。
評価。
感想。
レビュー。
これ全部、
創作者側から見ると“応援”というより、
「そこに居ます」
っていう存在確認信号なんですよね。
特にブクマ、
かなり嬉しい。
「あとでまた読む」
って、
要するに“物語を人生の片隅へ置いてくれた”って事なので。
創作者、
わりとその一件で数日機嫌良くなります。
単純なので。
もしこの作品が、
あなたの日常HPをほんの少しでも回復できたなら。
ブックマークや評価など頂けると、
作者の継続力・情緒安定性・深夜テンション耐性が大幅上昇します。
たまに本当に、
「もう今日は書けない……」
から、
感想一件で復活するので。
創作者、
だいたい焚き火と同じ原理で動いています。




