第五十八話 「地方コンカフェという業態は、“オタク文化・接客業・共同体再形成”が融合した現代型交流装置なので、過疎地域だと時々コミュニティセンターみたいな役割まで担い始めます」
幡多郡大月町。
午後七時四十三分。
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夜。
海風。
少し湿った空気。
遠くで波の音が聞こえる。
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商店街は静かだった。
閉まったシャッター。
古い文具屋。
営業終了した鮮魚店。
薄暗い街灯。
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その中で。
一軒だけ。
妙に明るい店があった。
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【Challenge Shop MARE】
【コンセプトカフェ “まりん☆りんく”】
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青いLED。
貝殻モチーフ。
手描きPOP。
“推しドリンクあります♡”。
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地方商店街の努力が、
かなり詰まっていた。
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「……増えてる」
リゼが看板を見ながら呟く。
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「商工会議所支援型チャレンジショップですね」
ノベェンタは缶コーヒーを開けた。
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「地方だと空き店舗増えやすいので、“短期間低コストで若者へ店やらせる”施策結構あります。特に最近、“人が来る理由”自体を作る方向へシフトしてる。大型商業施設で勝てない以上、“ここにしかない空気”を売るしかないので。あとコンカフェって、本来は“コンセプト+接客”業態なんですよ。メイド、学園、海賊、魔法、VTuber風、昭和レトロ。つまり“世界観へ入店する店”ですね。人類、“ただコーヒー飲む”だけだと飽きるので、“物語”を付加価値化し始めた」
「文明批評が始まったわね」
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「ちなみにMMORPGでも、“効率だけなら無言周回”が最適解ですが、人類わざわざギルドハウス作って雑談するので。つまり人類、“目的のない会話空間”へかなり依存してるんですよ」
「ネトゲ老人会みたいなのやめなさい」
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店内。
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木目調。
海モチーフ。
白と青中心の内装。
BGMはゆるいシティポップ。
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カウンターには、
二十代前半くらいの女の子達。
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「おかえりなさーい!」
「こんばんはー!」
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地方にしては。
かなり若い人口密度だった。
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リゼが周囲を見回す。
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「……本当に若い子少ないわね」
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客層。
漁師。
役場職員。
釣り人。
観光客。
そして。
地元へ残った数少ない二十〜三十代。
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ノベェンタは静かに頷く。
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「大月町、人口減少かなり進んでますからね。一年で百人単位減る年も普通にある。しかも若年層流出型なので、“出生数減少”と“結婚機会減少”が同時進行する。地方社会、“恋愛以前に同世代遭遇率が低い”んですよ。幼稚園、小学校、中学校までほぼ固定メンバーで、その後大学進学と同時に都市部へ散る。つまり田舎、“人生序盤で人間関係のマップが完成しがち”なんです」
「……あー」
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「しかも地方、“全員だいたい知り合い”問題ありますからね。“誰々の元カレ”“親同士知ってる”“小学校から一緒”。この辺、“新しい恋愛イベント”発生難易度かなり上げる。MMORPGで言うと、“固定メンバー文化強すぎる古参サーバー”ですね。新規プレイヤー入ってきた瞬間ちょっとざわつくタイプ」
「その例えリアルなのよ……」
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窓際席。
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二十代くらいの観光客グループ。
関西弁。
サーフィン帰りらしい。
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「え、海めっちゃ綺麗やったな」
「柏島やばかった」
「魚、浮いてるみたいやん」
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地元の女の子達が笑う。
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「夏もっと綺麗ですよー」
「星もすごいですし」
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少しずつ。
会話が混ざっていく。
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ノベェンタは、
その様子を静かに見ていた。
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「……案外こういうので変わるんですよね」
「なにが?」
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「人類、“移住”って重大決断っぽく見えますが、実際には“なんとなく居心地良かった”から始まるケース結構多いので。“海が好き”“知り合いできた”“店員と仲良くなった”“疲れた”。その程度で人生ルート変わる。あと地方移住者、“都会で成功した人”より、“都会で少し消耗した人”が多い傾向あります。MMORPGでも、“最強効率ギルド”より、“なんか空気合う中堅ギルド”へ定住する人類結構いますし」
「まぁ…刺さるは人多そうね……」
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その時。
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空気が、
少しだけ軋んだ。
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【人口減少】
【空き家】
【若者流出】
【消滅可能性】
【地元終了】
【帰省停止】
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黒いノイズ。
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だが今回は、
静かだった。
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店の隅で。
小さく。
じわじわと、
不安が滲んでいる。
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「……また来たわね」
リゼが小さく呟く。
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「地方型認識汚染ですね」
ノベェンタは静かに言う。
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「人類、“消えそうな場所”を見ると無力感へ引っ張られやすいので。“どうせ終わる”“若者いない”“未来ない”。この辺、地方社会では自己暗示化しやすい。特に人口減少、“毎年ちょっとずつ静かに減る”ので終末感持続しやすいんですよ。MMORPGでも過疎サーバー、“人減った話”ばかり始まると本当に崩壊加速しますし。共同体、“まだ面白いこと起きるかも”感覚かなり重要なんです」
「今日なんだか現実寄りで重いわね……」
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その時。
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観光客の男性が、
ぽつりと言った。
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「……なんか、ここ良いっすね」
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静かだった。
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「時間ゆっくりだし」
「飯うまいし」
「人優しいし」
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地元側が少し照れた顔をする。
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黒いノイズが、
わずかに揺らぐ。
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ノベェンタは少し笑った。
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「地方、“自分達の良さへ慣れすぎてる”問題ありますからね。毎日見てる景色って、住民側は価値忘れやすい。でも外部人類からすると、“空が広い”“星見える”“知らない人が話しかけてくる”だけでかなり非日常なんです。あと都市部、“人が多すぎて孤独感が希薄化する”反面、“誰も自分を知らない不安”も発生する。田舎は逆に距離近すぎ問題ありますが、最近はその中間くらい求める人増えてます」
「今日はちょっと優しいわね」
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「疲れてる人多いので」
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静かな声だった。
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その時。
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キノピーが、
観光客の膝へ飛び乗る。
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「うわっ!?」
「にゃ」
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店内が少し笑う。
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空気が柔らかくなる。
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「ちなみにネコ、“初対面人類同士の会話開始装置”としてかなり優秀です。“可愛いですね”だけで会話成立するので。人類、共通対象あると急にコミュニケーション難易度下がる。MMORPGでも、“その装備いいですね”から固定PT始まるケースありますし」
「なんでもMMORPGへ繋げるのやめなさい」
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窓の外。
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閉じたシャッター。
静かな港町。
少し古い街灯。
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たしかに。
町は減っている。
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若者も少ない。
未来が明るいとは、
簡単には言えない。
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でも。
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誰かが来て。
少し笑って。
また来たいと思う。
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案外。
地方というのは、
そういう小さな接続で延命しているのかもしれなかった。
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ノベェンタは、
静かに呟く。
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「まあ逆に、“田舎スローライフだ!”って勢いで移住すると、“虫多い・湿気強い・車必須・人間関係近い・Amazon翌日来ない”で撤退するケースも普通にあります。地方移住、“景色”だけで決めると結構危険なので。MMORPGでも、“牧場ライフゲーだ!”って始めたら素材要求量エグくて急に農奴化することありますし」
「まぁ…でも決めるなら早いほうが良いと思うなぁ…なんだかんだでやりたい事めっちゃ増えるし…」
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店内へ笑い声が広がる。
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世界は今日も、
少しだけ続いていた。
ちなみにWeb小説文化、“一人で部屋の中で書いた妄想”へ、知らない誰かが遠隔で「好きです」って反応返してくるので、冷静に考えるとかなり不思議な文明なんですよね。
しかも連載形式。
作者側、
一話更新するたびに、
「今回テンポ大丈夫か……?」
「このギャグ滑ってないか……?」
「説明長すぎたか……?」
みたいな脳内反省会を開催しています。
だいたい深夜に。
しかも人類、
夜になると自己否定能力だけ異常強化されるので。
午前二時以降の創作者、
わりと“PV監視型ゴブリン”みたいになります。
数字を見て一喜一憂し、
更新ボタン押したあと五分ごとに様子見に行く。
完全に危険生物。
あと感想文化って凄くて、
「ここの会話好き」
「このキャラ好き」
とか言われるだけで、
作者の脳内で急にBGM流れ始めます。
MMORPGで例えると、
長時間掛けて育てたネタビルドを、
通りすがりの上級者に「それ良いですね」って褒められる瞬間に近い。
あれ、
本当に元気出る。
逆に、
「ここ絶対ウケるだろ……!」
と思って投げたネタ、
完全スルーされる時あります。
作者、
普通に布団で転がります。
人類、
意外と繊細。
なので。
ブックマーク。
評価。
感想。
レビュー。
これ全部、
創作者側から見ると“応援”というより、
「そこに居ます」
っていう存在確認信号なんですよね。
特にブクマ、
かなり嬉しい。
「あとでまた読む」
って、
要するに“物語を人生の片隅へ置いてくれた”って事なので。
創作者、
わりとその一件で数日機嫌良くなります。
単純なので。
もしこの作品が、
あなたの日常HPをほんの少しでも回復できたなら。
ブックマークや評価など頂けると、
作者の継続力・情緒安定性・深夜テンション耐性が大幅上昇します。
たまに本当に、
「もう今日は書けない……」
から、
感想一件で復活するので。
創作者、
だいたい焚き火と同じ原理で動いています。




