第五十七話 「“好きなものを集める”という行為は、突き詰めると“人生へ小さな意味を貼り続ける作業”なので、魔王の部屋が整理整頓されていると人類はちょっと安心します」
異世界。
ゲーム世界領域。
魔王城深部。
魔王の隠し部屋。
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静かだった。
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赤黒い絨毯。
黒曜石みたいな壁。
紫色の魔導灯。
整い過ぎている棚。
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そして。
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異常な量のオタクグッズ。
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フィギュア。
限定版BOX。
設定資料集。
魔導ゲーム機。
特典付き円盤。
未開封タペストリー。
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全部。
綺麗に整理されている。
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狂気だった。
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「……魔王、あの方は絶対几帳面ですからね」
リゼが若干引きながら言う。
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ノベェンタは、
棚を観察していた。
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「人類、“部屋の整理状態”へ精神状態かなり反映されるので。“机が荒れると脳も荒れる”問題、文明圏問わず発生します。あとMMORPGでも、“バッグ整理しない人”ってだいたい戦闘中パニック起こすんですよ。“回復薬どこ!?”ってなるので。逆に倉庫整理上手い人、現実でも仕事できる率ちょっと高い。インベントリ管理能力、かなり社会適応力寄りです」
「ゲーム理論で人生語るのやめて」
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キノピーが、
棚の上へ飛び乗る。
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「にゃ」
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前脚で、
一冊のアルバムを落とした。
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【魔王様・推し変遷史】
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沈黙。
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「うわぁ……」
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リゼが遠い目をする。
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ノベェンタは、
静かにページを開いた。
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【第一期:闇堕ちクール系】
【第二期:無口長命種】
【第三期:銀髪研究者系】
【現在:ゲーム実況系魔導配信者】
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「かなり時代反映してますね」
「分析するな」
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「ちなみに人類、“推し”へその時代の欲望かなり反映します。九〇年代はミステリアス系、二〇〇〇年代はツンデレ、近年は“距離感近い配信者型”人気強い。つまりオタク文化、“人類の孤独感変化”がかなり可視化されるジャンルなんですよ。あとMMORPGでも、“一人で強いキャラ”より“支援してくれるキャラ”人気高くなる時期ありますし。疲れた人類、“助けてくれる存在”へ弱いので」
「またちょっと現代刺さるのよ……」
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その時だった。
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空気が揺れる。
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黒いノイズ。
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【積み】
【未プレイ】
【やる時間がない】
【でも買う】
【供給過多】
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「……来ましたね」
ノベェンタが小さく呟く。
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部屋の中央。
黒い霧が集まり始める。
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そして。
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現れた。
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巨大な影。
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全身へ。
ゲームソフト。
円盤。
限定版。
攻略本。
ガチャ石。
未開封段ボール。
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全部、
張り付いている。
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【Backlog Overflow】
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半透明ウインドウが点滅した。
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「うわぁ……現代人だ」
リゼが真顔で言った。
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影が呻く。
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『追いつかない』
『供給が多い』
『全部好きなのに』
『時間が足りない』
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「分かる……」
リゼ、
ちょっと共感していた。
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ノベェンタは頷く。
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「人類、“好きな物が多すぎて苦しくなる”段階ありますからね。昔は娯楽少なかったので、“国民全員同じ作品見る”文化成立してた。でも現代は違う。動画、ゲーム、漫画、配信、SNS、インディーズ、ソシャゲ。“全部追う”が物理的に不可能なんですよ。あとMMORPGでも、“デイリー全部消化しようとして疲弊する”現象あります。“義務ログイン”始まると趣味が第二仕事化するので」
「かなり耳痛いんだけど」
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黒い影が膨張する。
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【積み】
【義務】
【取り残される】
【最新話】
【限定イベント】
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空間が、
少しずつ歪み始める。
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その時。
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リゼが前へ出た。
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「……ほんと、魔族も人類も変わらないわね」
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杖が現れる。
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紫銀色の光。
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魔力障壁展開。
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「魔族って長生きだから、“好き”がないと途中で壊れるのよ。何百年も生きると、“何のために明日起きるのか”分からなくなる時あるし」
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静かな声だった。
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「だから趣味って、案外大事なの」
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ノベェンタは、
少し目を細める。
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リゼは続けた。
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「でもね。“好き”を、“義務”へ変えた瞬間、壊れるのよ」
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杖を振るう。
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「《境界封鎖術式――ミラージュ・エンド》」
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紫銀の光が、
部屋全体へ広がった。
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黒いノイズが、
静かに消えていく。
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【積み】
【焦燥】
【供給過多】
【取り残される不安】
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全部。
霧みたいに消滅した。
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静寂。
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その瞬間。
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部屋の奥。
王座の後ろ。
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隠し扉が開く。
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「……え?」
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そこに居た。
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魔王。
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ジャージ姿で。
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ポテチ食べながら。
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ゲームしていた。
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「……」
「……」
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魔王は、
気まずそうに手を止める。
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『……まだ戦う流れ?』
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「…いやもういいです」
リゼが真顔で返した。
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魔王は、
少し安心した顔になる。
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『最近、供給多すぎない?』
「分かります」
ノベェンタが即答した。
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『新作ゲーム、配信、イベント、DLC、アプデ、限定ガチャ。余、“趣味を楽しむために不老長寿なったはず”なのに、最近ずっと追われてる』
「現代オタク文化、“楽しむ”と“追いつく”が混線しやすいので。あとMMORPG運営、“ログイン継続率”重視し始めるとデイリー増殖します。“やらないと損”を積み重ねる設計、人類かなり弱いんですよ。ソシャゲのスタミナ消費、“気軽な娯楽”へ時間拘束追加した文明側の発明なので」
「急に資本主義批評始まったわね……」
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魔王は、
静かにコントローラーを置く。
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『……少し休むか』
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ノベェンタは頷く。
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「良いと思います。人類、“全部楽しもう”とすると壊れるので。“今好きなものだけ好き”くらいでちょうどいい。積みゲーも、“未来の自分への優しさ”くらいに考えると楽ですし。“いつか遊びたいと思った自分”が居た証拠なので、未開封でも案外無意味じゃないんですよ」
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リゼが、
少し笑った。
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「アンタ、そういう時だけ妙に人生肯定するわよね」
「八割雑談です」
「残り二割で世界救うのやめなさいって毎回言ってるでしょ」
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一方その頃。
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大商人の趣味部屋。
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野村部長は。
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【対胃痛耐性腹巻】
【締切竜耐性腹巻】
【会議時間短縮腹巻】
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とかいう、
終わった装備群を見つけて。
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大商人と。
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「いやぁ!! “状態異常耐性装備は人生保険”ですなぁ!!」
「分かるゥゥ!!」
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めちゃくちゃ意気投合していた。
ちなみにWeb小説文化、“一人で部屋の中で書いた妄想”へ、知らない誰かが遠隔で「好きです」って反応返してくるので、冷静に考えるとかなり不思議な文明なんですよね。
しかも連載形式。
作者側、
一話更新するたびに、
「今回テンポ大丈夫か……?」
「このギャグ滑ってないか……?」
「説明長すぎたか……?」
みたいな脳内反省会を開催しています。
だいたい深夜に。
しかも人類、
夜になると自己否定能力だけ異常強化されるので。
午前二時以降の創作者、
わりと“PV監視型ゴブリン”みたいになります。
数字を見て一喜一憂し、
更新ボタン押したあと五分ごとに様子見に行く。
完全に危険生物。
あと感想文化って凄くて、
「ここの会話好き」
「このキャラ好き」
とか言われるだけで、
作者の脳内で急にBGM流れ始めます。
MMORPGで例えると、
長時間掛けて育てたネタビルドを、
通りすがりの上級者に「それ良いですね」って褒められる瞬間に近い。
あれ、
本当に元気出る。
逆に、
「ここ絶対ウケるだろ……!」
と思って投げたネタ、
完全スルーされる時あります。
作者、
普通に布団で転がります。
人類、
意外と繊細。
なので。
ブックマーク。
評価。
感想。
レビュー。
これ全部、
創作者側から見ると“応援”というより、
「そこに居ます」
っていう存在確認信号なんですよね。
特にブクマ、
かなり嬉しい。
「あとでまた読む」
って、
要するに“物語を人生の片隅へ置いてくれた”って事なので。
創作者、
わりとその一件で数日機嫌良くなります。
単純なので。
もしこの作品が、
あなたの日常HPをほんの少しでも回復できたなら。
ブックマークや評価など頂けると、
作者の継続力・情緒安定性・深夜テンション耐性が大幅上昇します。
たまに本当に、
「もう今日は書けない……」
から、
感想一件で復活するので。
創作者、
だいたい焚き火と同じ原理で動いています。




