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『境界断ちのノベェンタ』 〜「観測者が意思決定した瞬間、世界線は収束します」意識高い系エリート社畜、たまに世界を救う  作者: nobunobuwo


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第五十六話 「人類は“悪役側の趣味部屋”を見ると、その瞬間だけ倫理観より生活感を優先するので、創作文化における解像度というのは時々ラスボスより収納棚へ宿ります」


 異世界。


 ゲーム世界領域グランディア・コード


 盗賊都市地下区画。


 時間感覚不明。



 地下空間は薄暗かった。



 湿った石壁。


 天井を走る古い配管。


 どこかで水滴が落ちる音。


 ランタンの橙色光が、

 床へゆらゆら揺れている。



 遠くから、

 酒場の喧騒が聞こえた。


 酔っ払いの笑い声。


 木製ジョッキ。


 荒っぽい歌。


 カードゲームで揉める怒鳴り声。



 だが。


 この部屋だけは妙に静かだった。



 盗賊頭の私室。


 完全プライベート空間。


 そして。


 かなり情緒が漏れていた。



「……」


「……」



 アインと佐伯。


 二人とも若干引いていた。



 壁一面。


 短剣。


 変装セット。


 高級外套。


 香水。


 恋愛小説。


 謎の観葉植物。


 月の絵。



 そして。


 大量のポエム。



【孤独とは自由】

【月だけが俺を見ている】

【盗むのは心だけにしたかった】



「うわぁ……」


 佐伯が顔をしかめる。



「盗賊頭、かなり“深夜二時のSNS投稿”寄りですね」


 アインが静かに分析した。



「ちなみにMMORPG、“敵側へ妙な色気盛られる現象”かなりありますよね。長髪、黒コート、片目隠れ、過去持ち。この辺、人類かなり弱い。あと“敵なのに理想論だけは正しいキャラ”、考察文化で長寿化しやすいです。“方法は最悪だけど言ってる事ちょっと分かる”系ボス、だいたい人気投票上位行くので。オンラインゲームでも、“ラスボス戦BGMだけ妙に良い”と、それだけで記憶へ刻まれたりしますし」


「急に敵キャラ文化論始まった……」



 佐伯は部屋を見回す。



 盗品リスト。


 資金台帳。


 新人盗賊教育マニュアル。



【怒鳴ると部下は萎縮する】

【恐怖だけの組織は長続きしない】



「普通に良い上司じゃないですか」


「かなり現代組織論ですね」



 アインは頷く。



「MMORPGギルドも、“怒鳴るリーダー”より“空気悪くしない人”の方が長持ちするので。“強い人”より“継続してログインしてくれる人”がコミュニティ支えるケースかなりあります。あと人類、“居場所感”失うと急速にモチベーション崩壊するので。高難易度コンテンツより、固定PT解散の方が精神ダメージ大きい場合あります」


「やり込みすぎてて人生へ刺さるんですよねぇ……」



 その時。



 佐伯が気付いた。



「……アイン先輩、また装備変わってません?」



 アイン。



 銀色のミスリル帷子。


 胸当て。


 肩当て。


 さらに今回は。



 腰へ。


 細身の魔導短剣——《蒼閃そうせん》。


「まぁ大したものではないですが…これはですね………」


「刃渡りは短く。

 だが、その存在感は“武器”というより、凝縮された雷光そのもので。

 刀身は青銀色。

 鏡面ではなく。

 夜の湖面みたいに静かに光を呑み込み、角度を変えるたび内部から淡い蒼光が脈動する。

 刃の中心には極細の魔力導線が走っている。

 神経。

 あるいは龍の血管みたいに。

 術者の魔力へ反応し、脈拍と同期して淡く発光する。

 鍔は存在しない。

 代わりに、握りの直上へ六枚の浮遊結晶片が円環状に展開している。

 戦闘時にはそれらが低く回転し、空間へ蒼い残光を刻む。

 回転音は無い。

 だが近くにいる者ほど、本能的な恐怖を覚える。

 “これは抜かれてはいけない”。

 生物として、そう理解してしまう。

 柄は黒曜石色。

 表面には古代魔術文字が刻まれているが、読むたび文字列が変化する。

 観測者ごとに意味が変わる“可変式術式”。

 ある者には祈り。

 ある者には警告。

 そして敵対者には——処刑宣告として映る。

 抜刀。

 その瞬間。

 空気が遅れる。

 刃が振られたあとに、世界の側が「あ、今斬られた」と気づく。

 蒼い軌跡だけが一瞬遅れて空間へ残り、周囲の魔力場を焼き切って消滅させる。」


「……っていう普通の武器です。」


「えっ……なっがぁ……それ、短剣っていうより災害指定兵器では?」


「分類上は普通の短剣だ」


「分類した奴が悪い?」



 背中には。


  青銀色の術式外套——《星喰ほしくらい》。

「まぁこれも大したものではないですが…こっちはですね………」

 「それは“布”に見えて、布ではなかった。

 外套の表面は深い青銀。

 金属光沢ではない。

 吹雪の夜空を、そのまま織り込んだみたいな質感だった。

 動くたび、繊維の奥で星屑みたいな微細光が流れる。

 まるで外套そのものが、極小宇宙を内包している。

 生地は異様に軽い。

 だが、触れた瞬間だけ理解できる。

 軽いのではない。

 “重量の概念を術式でずらしている”。

 だから着用者は羽みたいに動けるのに、斬撃も衝撃も外套表面で空間ごと滑っていく。

 肩部には薄い魔導装甲板。

 装飾は最小限。

 しかし装甲縁へ走る蒼白い術式ラインが、呼吸に合わせて明滅していた。

 待機状態では静かだ。

 だが戦闘時。

 術式が起動した瞬間、外套の裏地へ巨大な幾何学紋様が浮かび上がる。

 青白い多重魔法陣。

 重なり合う観測式。

 空間固定術。

 位相偏向式。

 そして。

 誰にも解析不能な“空白領域”。

 そこだけ術式理論が存在していない。

 理解しようとした魔術師ほど、逆に認識が乱れる。

「……なんだあれ」

 熟練魔導士が息を呑む。

「術式が読めないんじゃない。“読んだ結果、脳が拒否してる”」

 外套の裾が揺れる。

 その残像は一瞬だけ遅れて追従した。

 いや。

 違う。

 残像ではない。

 “未来位置の映り込み”だ。

 着用者が次に存在する座標が、先に空間へ漏れている。

 だから近接戦では致命的に間合いが狂う。

 敵が見ている場所には、もう誰もいない。

 フードを被れば顔は闇へ沈む。

 だが奥では、蒼銀色の瞳だけが静かに光っていた。

 夜。

 雨。

 瓦礫。

 崩壊都市。

 その外套を翻しながら歩く姿は、英雄というより

 世界終了後も一人だけ動き続ける、“観測者”そのものだった。」


「……っていう普通のマントです。」


 しかも。


 やたら似合う。


「ん〜…また長いし!装備の説明に誰かのセリフ入ってましたよね!?」


「対策部標準装備です」


「絶対違いますよね?」


「現場対応力強化です」


「言い切った……」



 アインは静かに眼鏡を押し上げる。



「ちなみにMMORPG、“最初は軽装インテリ系だったキャラが、エンドコンテンツ進むほど装甲増える現象”ありますよね。“生き残るには防御が必要”を学習し始めるので。あと高難易度帯、“火力職が最後には生存スキル語り始める”現象かなりあります。“DPSは死ぬとゼロ”という真理へ到達するので」


「その話、妙にリアルなんですよ!」



 佐伯は笑いながら、

 赤いハルバードを担ぐ。



 境界断ち印。


 淡く発光。



 赤いビキニアーマーも、

 もはや完全に馴染んでいた。



「でもまあ、ちょっと分かりますよ」


「何がです?」


「装備更新、楽しいんですよねぇ」



 佐伯は、

 少し遠い目をする。



「最初、“会社辞めたい……”って思ってたんですよ? パンティ拾いにダンジョン落ちて、変なレベルアップして、修正係なって、ハルバード振り回して。人生バグったと思ってたんですけど」


「はい」


「でも、“ちょっと強くなる”って、案外楽しいんですよね」



 静かな地下空間。


 ランタンの火が揺れる。



 佐伯は続ける。



「MMORPGでも、“最初は怖かったダンジョン”を後で普通に歩けるようになる瞬間あるじゃないですか。“昔の自分なら全滅してた敵”へ余裕出たり。“あ、自分ちゃんと進んでたんだ”って分かる瞬間」



 アインが静かに頷いた。



「……ありますね」



「人生もあんな感じなのかなって。急に最強にはならないけど、“前より少しマシ”を積み重ねる感じというか」



 少しだけ。


 空気が柔らかくなる。



 その瞬間だった。



 空間が、

 ノイズ化する。



【収集欲】

【限定版】

【コンプリート】

【倉庫圧迫】



 黒い影が、

 部屋の奥から這い出た。



 全身へ、

 大量装備が貼り付いている。



 剣。


 盾。


 腕輪。


 護符。


 マント。


 ポーション。


 素材袋。



 明らかに。


 持ちすぎだった。



【Inventory Full】



 半透明ウインドウが点滅する。



「うわぁ……」


 佐伯が引く。



「典型的“倉庫整理先延ばし型外側”ですね」


 アインが冷静に言う。



「人類、“いつか使う”で物を抱え込みやすいので。MMORPG倉庫、“序盤素材を十年保管”普通にあります。“イベント限定だから……”で永久保存始まる。あと回復薬、“ラスボス用”って抱えたままサービス終了迎える人類かなりいます。“今使うのはもったいない”が積み重なると、人生そのものが未使用アイテム化するので」


「最後ちょっと深いんですけど!?」



 黒い影が迫る。



『捨てられない』


『全部必要』


『いつか使う』



「かな〜りわかっちゃうけど今は敵です!!」



 佐伯の目が変わる。



 赤い瞳。


 赤い魔力。


 境界断ち印起動。



「――その“いつか”」



 ハルバード構え。


 踏み込む。



「だいたい来ないんですよねぇッ!!」



 赤い斬撃。


 空間断裂。



「《紅蓮境界断裂槍術・第五式――インベントリ・ブレイク!!》」



 轟音。



 黒い影ごと、

 装備群が吹き飛ぶ。



【Auto Sort Complete】



 静寂。



 ランタンの火だけが揺れる。



 佐伯は、

 ハルバードを肩へ担いだ。



「……よし」



 アインが静かに頷く。



「綺麗な軌道でした」


「えへへ」



 そして。



 別空間。



 大商人の趣味部屋で。



 野村部長だけが。



【対胃痛耐性腹巻】

【締切竜耐性腹巻】

【会議時間短縮腹巻】

【稟議成功率上昇腹巻】



 とかいう、

 終わった装備群を見つけて。



 一人で。



「うぉぉぉぉ!! 神装備だァァ!!」



 って叫びながら、

 めちゃくちゃ楽しそうだった。

ちなみにWeb小説文化、“一人で部屋の中で書いた妄想”へ、知らない誰かが遠隔で「好きです」って反応返してくるので、冷静に考えるとかなり不思議な文明なんですよね。


 しかも連載形式。


 作者側、

 一話更新するたびに、

「今回テンポ大丈夫か……?」

「このギャグ滑ってないか……?」

「説明長すぎたか……?」

 みたいな脳内反省会を開催しています。


 だいたい深夜に。


 しかも人類、

 夜になると自己否定能力だけ異常強化されるので。


 午前二時以降の創作者、

 わりと“PV監視型ゴブリン”みたいになります。


 数字を見て一喜一憂し、

 更新ボタン押したあと五分ごとに様子見に行く。


 完全に危険生物。


 あと感想文化って凄くて、

「ここの会話好き」

「このキャラ好き」

 とか言われるだけで、

 作者の脳内で急にBGM流れ始めます。


 MMORPGで例えると、

 長時間掛けて育てたネタビルドを、

 通りすがりの上級者に「それ良いですね」って褒められる瞬間に近い。


 あれ、

 本当に元気出る。


 逆に、

「ここ絶対ウケるだろ……!」

 と思って投げたネタ、

 完全スルーされる時あります。


 作者、

 普通に布団で転がります。


 人類、

 意外と繊細。


 なので。


 ブックマーク。


 評価。


 感想。


 レビュー。


 これ全部、

 創作者側から見ると“応援”というより、

「そこに居ます」

 っていう存在確認信号なんですよね。


 特にブクマ、

 かなり嬉しい。


「あとでまた読む」

 って、

 要するに“物語を人生の片隅へ置いてくれた”って事なので。


 創作者、

 わりとその一件で数日機嫌良くなります。


 単純なので。


 もしこの作品が、

 あなたの日常HPをほんの少しでも回復できたなら。


 ブックマークや評価など頂けると、

 作者の継続力・情緒安定性・深夜テンション耐性が大幅上昇します。


 たまに本当に、

「もう今日は書けない……」

 から、

 感想一件で復活するので。


 創作者、

 だいたい焚き火と同じ原理で動いています。

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