第五十五話 「ゲーム世界というものは、“開発者の性癖・思想・作業量・睡眠不足”が地形データへ直接反映された空間なので、隠し部屋を見るとだいたい制作者の情緒が漏れています」
東央マテリアル地下第三層。
午前一時二十二分。
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対策部。
深夜残業中。
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白色灯が低く静かに天井を照らしている。
換気設備の微振動。
サーバールーム側から響く冷却ファン音。
どこかで電子レンジ終了音。
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地下特有の、
“時間感覚が死ぬ空気”が漂っていた。
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壁面モニターには、
現実安定率グラフ。
ゲーム世界型侵食波形。
異世界位相同期率。
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その下。
エナジードリンク。
栄養ゼリー。
空き缶。
コンビニおにぎり。
異世界産ポーション。
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完全に。
“高難易度レイド前の固定PT待機室”
みたいな空気だった。
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「……なんで外側案件って、深夜発生率高いんですかね」
リゼが机へ突っ伏す。
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障壁展開杖が、
雑に壁へ立てかけられていた。
超高性能魔導杖なのに扱いが完全に傘。
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ノベェンタは、
ブラックコーヒーを飲みながら頷く。
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「人類、夜になると認識境界薄くなるので。疲労、眠気、孤独、静寂。この辺、“現実への集中力”を低下させる。あとMMORPGでも深夜二時以降、“妙なテンションで高難易度へ突撃する文化”ありますよね。“あと一周だけ”が午前五時まで伸びる現象、人類史的にはかなり危険です。ちなみにネトゲ黎明期、“窓の外が明るい=敗北”みたいな終わった価値観存在しましたし、“朝日を見ると急に人生へ戻される感覚”経験したプレイヤー結構多いので。あと深夜帯、人類の理性ゲージかなり減るので、“今なら強化通る気がする”で装備爆散し始めます」
「最後ソシャゲ廃人事故の話なのよ」
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佐伯は、
デスクで報告書を書いていた。
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赤いビキニアーマー。
境界断ち印入りハルバード。
そして。
新装備。
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赤いガントレット。
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深紅の金属光沢。
指先へ走る魔術回路。
キー入力に合わせて、
淡い赤光が流れている。
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カタカタカタカタカタ――!!
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異常速度。
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しかも。
誤字ゼロ。
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「……速っ」
リゼが引く。
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佐伯は少し得意げだった。
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「“紅蓮破城腕”ですねぇ。キーボード打鍵速度上昇と、入力ミス補正ついてるんですよ。あと長時間作業時の腱鞘炎耐性もあるっぽくて」
「急に会社員向け性能!」
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半透明ウインドウ。
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【Typing Speed +45%】
【Critical Misinput Rate -92%】
【Office Work Compatibility : S】
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「Office Work Compatibilityって何よ……」
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ノベェンタは頷く。
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「MMORPG、“戦闘職なのに生活スキル最強装備へ進化する”現象ありますからね。あと人類、“ゲーム内で便利だった機能”を現実へ欲しがるので。“インベントリ機能欲しい”“ファストトラベル欲しい”“オートソート欲しい”辺り、社会人ほど言い始める。特に書類業務多い職種、“入力補助装備”へ異常執着発生しやすいです。ちなみにネトゲ廃人、リアルExcel操作だけ異常高速な個体時々います」
「ちょっと分かるの嫌なんだけど」
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佐伯は、
ガントレットを眺めながら少し照れる。
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「いやぁ……最初、“ハルバード強化装備かな?”と思ったんですけど、説明欄読んだら“書類処理効率改善”って書いてあって」
「事務員感が急に現実なのよ」
「でも便利です」
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実際。
便利だった。
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佐伯の報告書。
最近。
異常に綺麗。
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アインが、
静かに視線を向ける。
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灰色の瞳。
無表情。
しかし。
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スーツじゃなかった。
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ミスリルの帷子。
銀色の胸当て。
肩当て追加。
腰には短剣。
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完全に。
“軽装騎士系インテリ”
へ進化していた。
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「……アイン先輩」
「なんでしょう」
「装備、増えてません?」
「対認識侵食仕様です」
「絶対違いますよね?」
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アインは静かに目を逸らす。
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「……後輩だけ装備更新され続けるの、少し悔しかったので」
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認めた。
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リゼが吹き出す。
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「対抗してる!」
「前回同様にMMORPG、“固定PT内で一人だけ神ドロップ引く”と空気変わりますからね」
ノベェンタは頷く。
「特に同ロール装備だと感情揺れる。“おめでとう”と言いながら、“俺も欲しかった”が脳内走る。あとMMO文化、“見た目装備=人格”化しやすいので。“その人っぽい装備”完成すると自己認識かなり固定されるんですよ。最終的に性能より“自分のキャラ感”を優先し始める時期来ますし。だからネトゲ末期、“火力より見た目へ課金する”現象発生する」
「最後リアルすぎるのよ」
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その時だった。
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地下第三層。
照明が、
一瞬だけ暗転する。
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ブゥン――……
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低い振動。
空間ノイズ。
モニターへ走る紫色の走査線。
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【外側侵食検知】
【ジャンル汚染:ゲーム世界型】
【現実整合率低下】
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空気が、
ピクセルノイズみたいに崩れる。
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床。
壁。
人影。
全部が。
古いゲームの読み込み失敗みたいに、
ガタガタとズレ始めた。
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「うわっ!?」
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リゼが杖を掴む。
障壁展開。
だが。
間に合わない。
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床が消えた。
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浮遊感。
高速落下。
視界全体へ、
半透明ウインドウ。
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【Loading Area…】
【Syncing Reality…】
【Party Connection Lost】
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「最後嫌な表示あるんだけど!?」
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光。
ノイズ。
浮遊感。
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転移。
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そして。
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静寂。
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ノベェンタが目を開ける。
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そこは。
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――魔王の隠し部屋だった。
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赤黒い絨毯。
黒曜石みたいな壁。
紫色の魔導灯。
天井まで届く巨大棚。
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空気は静かで。
ほんの少し甘い香の匂いがする。
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生活感があった。
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妙に。
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「……うわぁ」
リゼが引いた声を出す。
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部屋中。
フィギュア。
限定版BOX。
巨大ポスター。
設定資料集。
特典タペストリー。
未開封円盤。
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しかも。
棚が異様に綺麗。
ジャンル別。
発売年代順。
シリーズ別。
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収納が、
ガチだった。
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「魔王、かなり几帳面ですね」
ノベェンタは真顔だった。
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「ちなみに人類、“隠し部屋”へ本性出やすいんですよ。秘密基地、書斎、押し入れ、ブラウザ履歴、Steamライブラリ。この辺、“誰にも見せない趣味”が圧縮されるので。あとオタク文化、“収納技術”が異常進化しやすい。“限られた六畳へどれだけ推しを配置するか”問題、人類かなり本気で研究してきた。MMORPGでも、“倉庫整理上手い人ほど強い”現象ありますし。アイテム管理能力、後半ほぼ人生力なんですよ」
「ちょっと刺さるのやめて」
ちなみにWeb小説文化って、表面上は「数字の世界」に見えるんですが、実際かなり“深夜の焚き火共同体”なんですよね。
作者、
基本的に暗い部屋で一人、
「この展開、面白いか……?」
「会話テンポ死んでないか……?」
「設定ブレてないか……?」
とか延々ぐるぐる考えてるので。
脳内会議、
だいたい毎日開催されてます。
しかも連載形式。
これ、
冷静に考えるとかなり異常です。
一話投稿するたび、
自分の情緒と発想と睡眠時間を少しずつ切り分けてネットへ放流してるので。
創作者、
時々“感情の漁業”みたいな状態になります。
あとWeb小説作者、「ここ好き」と言われた瞬間めちゃくちゃ元気になります。
特に、
「そこ!?」みたいな細かい描写を拾われると危険です。
急に、
「うわっ……ちゃんと届いてた……」
になります。
MMORPGで言うと、
誰にも気付かれないと思って積んでた趣味ビルドを、
上級者に「それ強いですよね」って言われる瞬間に近い。
脳が静かに爆発する。
逆に、
自信満々で置いた伏線、
誰にも触れられない時あります。
あれ、
作者は普通に覚えてます。
深夜、
天井見ながら、
「……あそこ、削った方が良かったかな」
とか始まる。
創作者、
だいたい“締切”と“自意識”と“睡眠不足”の三竦みで生きてます。
なので。
ブックマーク。
評価。
感想。
レビュー。
あれ全部、
単なる数字じゃなくて、
「読んでるよ」
「続きを待ってるよ」
っていう現代型の生存信号なんですよね。
特にブクマ、
かなり嬉しいです。
「未来の自分、この作品また開くかも」
って保存されるので。
創作者側から見ると、
“あなたの物語、ブラウザ閉じた後も世界へ残りました”
に近い。
あと評価増えると、
作者わりと静かにニヤニヤしてます。
表情は真顔でも、
内部では祭りです。
人類、
意外と褒められると伸びる。
なので、
もしこの物語が少しでも、
「現実しんどいな」の緩衝材になれたなら。
ブックマークや評価など頂けると、
作者のHP・MP・継続率・次話生成速度がかなり上昇します。
たまに本当に、
「今日は無理か……」
から、
ブクマ一件で復活するので。
創作者という生物、
想像以上に“読んでくれてる気配”で動いています。




