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『境界断ちのノベェンタ』 〜「観測者が意思決定した瞬間、世界線は収束します」意識高い系エリート社畜、たまに世界を救う  作者: nobunobuwo


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第五十四話 「人類というものは、一度ファンタジー装備へ触れると“現実へ戻った後も若干その気分を引きずる”ので、異世界帰還後にミスリル腹巻を磨き始めても割と正常範囲です」


 東央マテリアル。


 正式部署名。



 《観測整合維持局 第七補正執行室 外側環境対策部》



 地下第三層。


 午前八時三十七分。



 始業前。



 なのに。


 空気が妙に“レイド前”だった。



 カチャ。


 シャッ。


 キュイイ。



 金属音。


 革ベルト。


 魔力光。



 会社なのに、

 完全にMMORPGログイン直後の街である。



「……もうオフィスじゃなくない?」



 リゼが真顔で呟く。



 対策部フロア。


 そこには。



 異世界装備を整備する会社員達。


 ポーション棚。


 対呪詛マニュアル。


 魔石対応シュレッダー。



 終わっていた。



「いやでも、人類って“装備更新”始まると急速にRPG脳へ寄るんですよね」


 ノベェンタは紙コップコーヒーを飲みながら言う。


「MMORPGでも、“レベル上限解放”とか“新Tier装備実装”された瞬間、それまで普通の社会人だった人類が急に深夜三時まで周回始めるので。特に日本人、“努力すると数字伸びる環境”へ異常適応力ある。受験文化と周回文化、割と根っこ近いんですよ。“あと一回で出るかもしれない”が脳へ与える依存性かなり強いので。ちなみにMMORPG黎明期、人類は“ゲーム内で朝日を見る”という狂気へ到達していました」


「最後怖いのよ」



 その時。



 営業席――もとい対策部デスク。



 野村部長がいた。



 真顔で。



 腹巻を磨いていた。



 銀色。


 神々しい。


 しかも妙に発光している。



「……何してるんですか部長」


「ミスリル腹巻の耐久値確認だよぉ」



 完全に装備ゲー脳だった。



「ちなみにMMORPGプレイヤー、“耐久値”って単語だけで急に職人顔になりますよね。あと“修理費”という概念、人類へ妙な現実感与えるので。“死ぬとお金減る”仕様、文化的にはかなり中世的恐怖です。デスペナルティ文化って、“失敗へコストを付与することで世界へ重み出す”設計思想なんですよ」


「朝からゲーム文化論始めないで」



 野村部長は腹巻を撫でる。



「これ装備してから胃が軽いんだよぉ!」


「“胃痛耐性+3”“ストレス遅延無効”“会議ダメージ軽減”付きでしたからね。社会人用レジェンダリー装備としてかなり優秀です。MMORPGでも、“火力よりQoL装備”へ最終的に回帰する人結構多いので。インベントリ拡張とか移動速度アップとか、“地味だけど人生快適になる装備”、長期プレイヤーほど重視し始める」


「ゲーム廃人の知見みたいになってるわよ」



 その時。



 カツ。


 カツ。



 静かな足音。



 アインだった。



 スーツ。


 無表情。


 灰色の瞳。



 だが。



 腰に。


 銀装飾短剣。


 肩に。


 薄い魔導布。


 微妙にマント。



「……アイン先輩」


「なんでしょう」


「その装備」


「普通です」


「普通の会社員は詠唱短縮付き肩当て装備しません」



 アインは少し沈黙した。



「……佐伯後輩だけ装備更新しているの、少し悔しかったので」



 認めた。



「対抗心じゃないですか!」



「MMORPGでも、“固定PT内で一人だけ神引きすると空気変わる”現象ありますよね」


 ノベェンタは頷く。


「“なんであいつだけ+12武器持ってるの?”問題です。あとレアドロップ格差、人類の社会性へ微妙にヒビ入れるので。“おめ!”って言いながら内心かなり嫉妬してる場合ある。オンラインゲーム、人類の協力性と嫉妬心を同時観測できる高度社会実験なんですよ」


「分析が生々しいのよ」



 その視線の先。



 佐伯。



 赤いビキニアーマー。


 境界断ち印入りハルバード。


 さらに無限収納パンティ…。



 完全に高Tierプレイヤー。



「おはようございます皆さん。本日の外側侵食指数、第三観測区画のみ上昇傾向ですので、十時から現地補修入りますね」



 テキパキ。


 有能。


 しかも格好いい。



「……なんか佐伯さん、“ジョブチェンジ成功例”みたいになってるんだけど」


 リゼが引き気味に言う。



「適性ジョブ引いたんでしょうね」


 ノベェンタは頷く。


「MMORPGでも、“本職見つけた瞬間に急に強くなる人”いるので。ヒーラー向いてないと思ってた人が実は最強タンク適性だったり。“自分の役割”って、案外やってみるまで分からない。あと日本人プレイヤー、“支援職”やらせると妙に丁寧な最適化始める傾向あります。“味方が快適になる構成”へ喜び感じる文化あるので」


「急に国民性分析始まった」



 佐伯がアインを見る。



「……その短剣、買ったんですか?」


「はい。“霊子浸透銀”です。状態異常耐性付き」


「いいですねぇ……それ終盤装備じゃないですか」



 少し嬉しそうなアイン。



 完全に装備談義である。



「……仲良くなってる」


 リゼが遠い目をした。



「装備談義、人類かなり距離感壊れやすいので」


 ノベェンタは静かに言う。


「MMORPGでも、“同じ武器種使い”ってだけで急に会話始まる。“そのスキル回しどうしてます?”とか、“詠唱短縮何%盛ってます?”とか。あと廃人ほど、“最終的に見た目装備へ回帰する”現象あります。性能同じなら、“好きな見た目で戦いたい”になる。つまり人類、“効率だけ”では長期運営できない」


「ちょっと人生論っぽくなるのやめなさい」



 その時。



 社内放送。



『対策部各位。本日十五時より“異世界装備の社内持込ガイドライン”説明会を行います』



 嫌な予感。



『なお、“呪われた指輪を経費申請しないこと”は新たに追記されました』



「誰だよ」



『“ミミックを私物ロッカーとして使用しないこと”』



「利用者いるの!?」



『“魔剣へ顧客データを保存しないこと”』



 野村部長が目を逸らした。



「いや便利そうだったんだよぉ!」



「MMORPGプレイヤー、“空いてるストレージ見ると何か詰め込みたくなる習性”ありますからね」


 ノベェンタは頷く。


「倉庫整理って、実は人類文明そのものなんですよ。穀物倉庫からクラウドサーバーまで、本質的には“あとで使うかもしれない物を抱え込む文化”なので。あとゲーム内倉庫、人類の“捨てられない性格”かなり露呈する。“いつか使う素材”が十年単位で眠る」


「耳が痛い話やめて」



 ノベェンタは少し笑う。



「でも、人類って案外こうやって生き延びるんですよね」


「急に真面目」



「いや実際。MMORPGでも、“効率だけ”追うと燃え尽きるので。雑談、寄り道、ハウジング、釣り、変なスクショ大会。“意味ない楽しみ”があるギルドほど長生きする。人類、“無駄な時間”ないと精神が擦り切れるんですよ。だから会社も、“ちょっと笑える空気”ある方が多分壊れにくい」



 野村部長が、

 キラキラの腹巻を掲げた。



「見ろ野部くん! “胃痛無効”発動してる気がする!」


「それプラシーボ込みですね。でもMMORPGでも、“この装備付けると強い気がする”って割と重要なんですよ。人類、自己暗示でパフォーマンス変わるので。スポーツ選手のルーティンとか、ゲーマーの愛用デバイスとか、“信じられる物”があるだけで結構安定する」


「最後ちょっと良い話に聞こえるの悔しいわね……」



 その時。



 ノベェンタのデスク横。



 黒い剣が、

 ぼふん、とネコへ戻った。



「にゃー」



 キノピーだった。



 当然のように、

 野村部長の腹巻へ乗る。



「温かいにゃ」


「神獣に認められたァァ!!」



 地下第三層。


 今日も対策部は、

 妙に楽しそうだった。

ちなみにWeb小説文化って、表面上は「数字の世界」に見えるんですが、実際かなり“深夜の焚き火共同体”なんですよね。


 作者、

 基本的に暗い部屋で一人、

「この展開、面白いか……?」

「会話テンポ死んでないか……?」

「設定ブレてないか……?」

 とか延々ぐるぐる考えてるので。


 脳内会議、

 だいたい毎日開催されてます。


 しかも連載形式。


 これ、

 冷静に考えるとかなり異常です。


 一話投稿するたび、

 自分の情緒と発想と睡眠時間を少しずつ切り分けてネットへ放流してるので。


 創作者、

 時々“感情の漁業”みたいな状態になります。


 あとWeb小説作者、「ここ好き」と言われた瞬間めちゃくちゃ元気になります。


 特に、

「そこ!?」みたいな細かい描写を拾われると危険です。


 急に、

「うわっ……ちゃんと届いてた……」

 になります。


 MMORPGで言うと、

 誰にも気付かれないと思って積んでた趣味ビルドを、

 上級者に「それ強いですよね」って言われる瞬間に近い。


 脳が静かに爆発する。


 逆に、

 自信満々で置いた伏線、

 誰にも触れられない時あります。


 あれ、

 作者は普通に覚えてます。


 深夜、

 天井見ながら、

「……あそこ、削った方が良かったかな」

 とか始まる。


 創作者、

 だいたい“締切”と“自意識”と“睡眠不足”の三竦みで生きてます。


 なので。


 ブックマーク。


 評価。


 感想。


 レビュー。


 あれ全部、

 単なる数字じゃなくて、

「読んでるよ」

「続きを待ってるよ」

 っていう現代型の生存信号なんですよね。


 特にブクマ、

 かなり嬉しいです。


「未来の自分、この作品また開くかも」

 って保存されるので。


 創作者側から見ると、

 “あなたの物語、ブラウザ閉じた後も世界へ残りました”

 に近い。


 あと評価増えると、

 作者わりと静かにニヤニヤしてます。


 表情は真顔でも、

 内部では祭りです。


 人類、

 意外と褒められると伸びる。


 なので、

 もしこの物語が少しでも、

「現実しんどいな」の緩衝材になれたなら。


 ブックマークや評価など頂けると、

 作者のHP・MP・継続率・次話生成速度がかなり上昇します。


 たまに本当に、

「今日は無理か……」

 から、

 ブクマ一件で復活するので。


 創作者という生物、

 想像以上に“読んでくれてる気配”で動いています。

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