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『境界断ちのノベェンタ』 〜観測整合維持局 第七補正執行室 野部遠汰の場合〜  作者: nobunobuwo


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第五十二話 「人類、“なりたい自分”を空想している時が一番精神的に健康な場合あるので、ロールプレイ文化は案外かなり救済寄りなんですよね」


 異世界エルディア


 王都上空。



 締切竜。



 巨大だった。



【未確認タスク】

【追加修正】

【差し戻し】

【再提出お願いします】



 黒い文字列が、

 空へ雨みたいに降っている。



 冒険者達は逃げ惑い、

 ギルド職員達は半泣きだった。



「なんで異世界まで来て納期気にしないとなのよぉ!!」


 リゼが障壁を展開しながら叫ぶ。



 だが。



 その後方。



 佐伯美咲は、

 静かに締切竜を見上げていた。



「……なるほど」



 灰色の空。


 爆風。


 黒いノイズ。



 その中で。


 彼女だけ、

 少しだけ目が輝いていた。



(……これ)



 心臓が高鳴る。



(完全に高難易度レイドでは?)



 東央マテリアル。


 外側関連総合対策部。



 かつて新人社員だった女性は、

 もうそこにはいない。



 ダンジョン単独突入。


 外側接触。


 レベル爆上がり。


 観測整合維持局 第七補正執行室 統合現実監査官補佐就任。



 現在。


 会社ではアインの先輩。


 修正係としてはアインの部下。



 極めてややこしい立場だった。



 そして。



 彼女には秘密があった。



 まぁまぁ課金MMORPGプレイヤーである。



 しかも。


 メイン職。



赤槍戦乙女ヴァルキリーランサー



 赤いビキニアーマー系女性ハルバード職。



 なお。


 ロールプレイ常習犯。



「……っ」



 佐伯は思い出していた。



 あの日。


 ダンジョンへ落ちた洗濯物。



 パンティ。



 そして。



 単独突入。



 帰還後。



 彼女の下着には、

 何故か異空間収納機能が発生していた。



 なお。


 研究部へ提出を求められた際、

 一瞬本気で退職を考えた。



「……いや普通に恥ずかしいでしょ……」



 だが。



 ダンジョンで外側へ触れた結果。



 性格側アップデートが発生。



「……まあ、まいっか」



 適応した。



 人類、

 案外なんとかなる。



「ちなみに人類、“羞恥”ってかなり文化依存強いんですよね」


 後方でノベェンタが普通に解説していた。



「例えば古代ローマ公衆浴場文化だと裸への感覚かなり違いますし、日本でも時代によって羞恥基準変化してる。つまり“恥ずかしい”って、生物本能だけでなく“共同体ルール”影響かなり大きいんですよ。あとMMORPGプレイヤー、“性能が強ければ見た目多少おかしくても受け入れる”適応能力あります。終盤装備、だいたい発光し始めるので」


「今それ語ってる場合ですか!?」


 佐伯が叫ぶ。



 だが。



 その瞬間。



 締切竜が咆哮した。



『終わっていない』

『足りない』

『もっと成果を』



 黒い衝撃波。



 ギルド外壁が揺れる。



 リゼの障壁へヒビ。



「っ……!」



 野村部長が震える。



「む、無理だろあんなの!!」



 その時。



 佐伯の中で。



 “何か”が切り替わった。



 カチ。



「――ならば!」



 声色が変わる。



 もっと。


 堂々としていて。


 戦場慣れした感じ。



 赤い光。



 装備変換。



 営業スーツが、

 紅いビキニアーマーへ変わる。



「うわぁぁぁ!!」


 リゼが叫ぶ。



「佐伯さん!?!?」



 赤金の装甲。


 露出多め。


 だが。


 異様に格好良い。



 巨大なハルバード。



 そして。



 刃の中央。



 黒い紋章。



 境界断ちの印。



「うわ、刻印入ってる!!」



 佐伯はハルバードを肩へ担ぐ。



「フッ……雑魚竜風情が」


「キャラ変わってる!!」



 佐伯の脳裏。



 深夜二時。


 ギルドVC。


 レイド攻略。


 固定パーティ。


 徹夜周回。



 無数の記憶。



(……ああ)



(これだ)



 ダンジョンへ触れてから。


 彼女は理解し始めていた。



 “好きだった自分”。



 それを。


 現実側へ出してもいい。



 別に。


 死なない。



 ノベェンタが小さく頷く。



「人類、“ロールプレイ”って単なる遊び扱いされがちですが、実際には“安全に別人格試せるシミュレーター”なんですよね。演劇、TRPG、アバター文化、コスプレ、VTuber。全部“今の自分と少し違う可能性”を試してる。つまりオタク文化って、“人格の避難訓練”でもあるんです。あとMMORPG廃人、“現実で急に指揮能力高い”ケースあります。数十人レイド統率してたので」


「レイド統率してたの!?」



 締切竜が突進する。



 轟音。



 だが。



 佐伯は笑った。



「ハッ――遅い!!」



 跳躍。



 空中回転。



 赤い軌跡。



 ハルバードが、

 月光みたいに煌めく。



 ギルド全員。


 止まる。



「えっ」


「何あれ」


「めちゃくちゃ強くない?」



 野村部長が呆然と呟く。



「佐伯さん、あんな動き出来たの……?」



 アインが静かに答えた。



「潜在適性が解放されています」



 ノベェンタは真顔だった。



「ちなみに人類、“好きなことやってる時”は処理能力かなり上がります。脳の報酬系と集中状態噛み合うので。“オタクが早口になる”のも、情報処理速度が上昇してる側面ある。あとスポーツ選手や職人、“ゾーン状態”入ると時間感覚変わる報告結構あります」


「今それ解説してる場合!?」



 佐伯は空中でハルバードを構えた。



 そして。



 思う。



(……必殺技)



 欲しかった。



 ずっと。



 MMORPGプレイヤーとして。


 中二病として。


 社会人として。



 人生には。


 必殺技が必要だ。



「――征くぞ!!」



 赤い光。



 ハルバード全体へ、

 境界断ちの紋章が走る。



 佐伯の声が響いた。



「《終業断裂エンドオブシフト》!!!」



「ネーミングが社畜!!」


 リゼが叫ぶ。



 一閃。



 赤い斬撃。



 空そのものが割れる。



 締切竜。



 静止。



【本日の業務は終了しました】



 文字列。



 そして。



 真っ二つ。



 ドゴォォォン!!



 黒いノイズが、

 夜空へ霧散した。



 静寂。



 風。



 ギルド中。


 ぽかん。



「……え」


「倒した」


「営業職だよな?」



 佐伯は着地する。



 赤いマントが翻る。



 完全に強キャラ。



 そして。



「……ふぅ」



 照れた。



「や、やば……技名ちょっと痛かったかも……」



 急にいつもの佐伯へ戻る。



 リゼが腹抱えて笑う。



「いやもう遅いわよ!!」



 ノベェンタは小さく頷いた。



「良い技でしたね」


「野部さん!?」



「人類、“名前付けた瞬間に感情乗る”ので。必殺技文化、実はかなり合理的なんですよ。スポーツでも“得意技”名前付くと自己認識強化される。あと厨二病、“若さの黒歴史”扱いされがちですが、本質的には“理想の自分を試作してる時期”なんです。人類、そういう時期ある方が案外健全ですよ。ちなみにハシビロコウ、ほとんど動かない鳥として有名ですが、獲物を狩る瞬間だけ異常速度で嘴を振り下ろします。“普段ぼーっとしてるのに、やる時だけやる”って、人類かなり好きな属性なんですよね」


「やる時だけ…みんなそれで良いと思う…」



 異世界の風が吹く。



 そして。



 外側関連総合対策部は。



 また一人。


 妙な方向へ進化した。

ちなみにWeb小説文化って、表面上は「数字の世界」に見えるんですが、実際かなり“深夜の焚き火共同体”なんですよね。


 作者、

 基本的に暗い部屋で一人、

「この展開、面白いか……?」

「会話テンポ死んでないか……?」

「設定ブレてないか……?」

 とか延々ぐるぐる考えてるので。


 脳内会議、

 だいたい毎日開催されてます。


 しかも連載形式。


 これ、

 冷静に考えるとかなり異常です。


 一話投稿するたび、

 自分の情緒と発想と睡眠時間を少しずつ切り分けてネットへ放流してるので。


 創作者、

 時々“感情の漁業”みたいな状態になります。


 あとWeb小説作者、「ここ好き」と言われた瞬間めちゃくちゃ元気になります。


 特に、

「そこ!?」みたいな細かい描写を拾われると危険です。


 急に、

「うわっ……ちゃんと届いてた……」

 になります。


 MMORPGで言うと、

 誰にも気付かれないと思って積んでた趣味ビルドを、

 上級者に「それ強いですよね」って言われる瞬間に近い。


 脳が静かに爆発する。


 逆に、

 自信満々で置いた伏線、

 誰にも触れられない時あります。


 あれ、

 作者は普通に覚えてます。


 深夜、

 天井見ながら、

「……あそこ、削った方が良かったかな」

 とか始まる。


 創作者、

 だいたい“締切”と“自意識”と“睡眠不足”の三竦みで生きてます。


 なので。


 ブックマーク。


 評価。


 感想。


 レビュー。


 あれ全部、

 単なる数字じゃなくて、

「読んでるよ」

「続きを待ってるよ」

 っていう現代型の生存信号なんですよね。


 特にブクマ、

 かなり嬉しいです。


「未来の自分、この作品また開くかも」

 って保存されるので。


 創作者側から見ると、

 “あなたの物語、ブラウザ閉じた後も世界へ残りました”

 に近い。


 あと評価増えると、

 作者わりと静かにニヤニヤしてます。


 表情は真顔でも、

 内部では祭りです。


 人類、

 意外と褒められると伸びる。


 なので、

 もしこの物語が少しでも、

「現実しんどいな」の緩衝材になれたなら。


 ブックマークや評価など頂けると、

 作者のHP・MP・継続率・次話生成速度がかなり上昇します。


 たまに本当に、

「今日は無理か……」

 から、

 ブクマ一件で復活するので。


 創作者という生物、

 想像以上に“読んでくれてる気配”で動いています。

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