第五十一話 「人類、“仲間と一緒なら何とかなる気がする”という極めて曖昧な感情で、わりと文明規模の困難を突破してきたんですよね」
東央マテリアル地下第三層。
外側関連総合対策部。
午前二時十三分。
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残業だった。
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当然みたいに。
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「……帰りたい」
野村部長が魂の抜けた声を出す。
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「現在時刻を考えると正常な感情ですね」
アインが淡々と返す。
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地下第三層は、
今日も地獄みたいに忙しかった。
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【九州側ダンジョン位相ズレ】
【北海道UMA案件】
【“かわいい”系認識汚染拡散中】
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「“かわいい系認識汚染”って何よ……」
リゼが頭を抱える。
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その時だった。
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地下全域へ警報。
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ビーッ!!
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【高次接続反応】
【異世界側位相固定開始】
【強制転移ゲート発生】
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「……は?」
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空間が裂けた。
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巨大な“門”。
石造り。
青白い魔法陣。
完全に。
ファンタジー作品で見たやつだった。
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野村部長が真顔になる。
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「いや急に異世界!?」
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ノベェンタは静かに頷く。
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「なるほど。ついに“物語形式そのもの”が現実侵食し始めましたね。人類、“異世界転移”という概念へ感情注ぎ込みすぎた結果、外側側が“このフォーマット理解されやすいな”と判断した可能性あります。あと中世風ファンタジー世界って、人類の“分かりやすい冒険欲求”をかなり刺激するので。レベル、魔法、剣、ギルド。この辺、“努力が数値で返ってくる世界”への憧れが強い。ちなみにTRPG文化、“現実では出来ない役割を安全圏で試せる”ため、心理学的にも自己投影装置としてかなり優秀です」
「今それ語ってる場合!?」
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アインが静かに言う。
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「対策部総員、出動します」
「総員!?」
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「向こう側で認識崩壊が発生中です」
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門の向こう。
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草原。
城壁都市。
空飛ぶ鳥。
完全に異世界。
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そして。
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全員。
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転移した。
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異世界。
王都。
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石畳。
市場。
馬車。
鎧。
そして。
やたら活気ある冒険者ギルド。
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「おぉぉ……!」
佐伯が目を輝かせる。
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「異世界ですよ野部さん!! 異世界!!」
「はい。かなりテンプレ寄りですね」
「テンプレって言うな!」
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野村部長は混乱していた。
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「いや待って!? 何で普通に受け入れてるの皆!?」
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リゼがため息を吐く。
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「もう今さら異世界くらいじゃ驚かないのよ……」
「順応が早すぎるだろこの会社!」
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ギルド受付嬢が微笑む。
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「冒険者登録ですね?」
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羊皮紙が並ぶ。
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【職業】
【初期スキル】
【所属パーティ】
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ノベェンタは静かに呟いた。
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「ちなみに人類、“自分の役割が明文化される環境”をかなり好みます。会社の役職、学生のクラス分け、ゲームのジョブ制。つまり“私は何をすれば良いか”が可視化されると安心する。異世界ギルド文化人気なのも、“努力と役割がシンプルだから”なんですよ。現実社会、“営業なのに資料作成とクレーム処理とSNS運用と新人教育やる”とか普通に発生するので」
「急に現実へ引き戻すな!」
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数十分後。
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【パーティ登録完了】
《外側関連総合対策部》
構成員:
・ノベェンタ
・リゼ
・佐伯
・野村部長
・アイン
・キノピー(ネコ)
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「ネコも登録されるんだ……」
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キノピーは偉そうだった。
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「当然にゃ」
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その時だった。
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ギルド奥。
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騒ぎ声。
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「お前みたいな無能いらねぇんだよ!!」
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典型的な冒険者パーティ。
典型的な荒くれ者。
そして。
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「今日限りで追放だ!!」
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沈黙。
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リゼが顔をしかめる。
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「うわ、出た」
「追放ものですね」
ノベェンタが頷く。
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「人類、“所属共同体から不要認定される恐怖”かなり強いので、追放系ジャンルってそこへ直撃するんですよ。学校、会社、部活、SNSコミュニティ。現代人、“居場所失う不安”を日常的に抱えてるので。“本当は有能なのに理解されない”って構図、承認欲求と自己回復願望へかなり刺さる。あと農耕社会時代、“村八分=ほぼ死”だったので、人類の脳って集団排斥へ本能レベルで恐怖反応持ってる可能性あります」
「分析が生々しいのよ……」
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追放された青年。
薄汚れたローブ。
俯いた顔。
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「俺は……役立たずなのか……」
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黒いノイズ。
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空気が歪む。
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アインが目を細めた。
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「認識汚染です」
「はい。“自己否定型外側侵食”ですね」
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青年の周囲。
黒い文字列。
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【無価値】
【必要ない】
【どうせ失敗する】
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「うわぁ……現代人類へ刺さりすぎる」
リゼが顔をしかめる。
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だが。
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その瞬間。
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ノベェンタの腰の黒い剣が、
急に喋った。
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「めんどくせぇ空気にゃ」
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沈黙。
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会社組。
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固まる。
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「……は?」
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野村部長が瞬きする。
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「剣が喋った?」
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ノベェンタは静かに頷いた。
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「はい。キノピーです」
「いや待て待て待て待て!!」
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黒い剣。
ぐにゃ。
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変形。
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黒ネコ。
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「ふぅ」
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キノピーだった。
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「えぇぇぇぇぇぇぇ!?」
佐伯が叫ぶ。
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リゼが頭を抱える。
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「いや今までずっと剣だったじゃない!!」
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キノピーは当然みたいに毛づくろいする。
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「剣モードの時は念話だから、人類には聞こえないにゃ」
「もっと早く言いなさいよ!!」
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ノベェンタは普通に説明する。
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「ちなみに人類、“武器へ人格性を感じる”文化かなり古いです。妖刀、聖剣、付喪神。長く使った道具へ魂宿る感覚って、日本文化かなり強いので。あと現代でも、“愛用キーボード”とか“馴染んだギター”へ人格感じる人結構います」
「今その文化論いる!?」
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キノピーは追放青年を見る。
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「にゃー」
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青年が顔を上げる。
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「……ネコ?」
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「お前、自分で思ってるより結構頑張ってるにゃ」
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空気が止まる。
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ノイズが揺らぐ。
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キノピーは続けた。
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「人類、疲れると“出来なかった事”ばっか数えるにゃ。でもネコは知ってるにゃ。“今日も起きた”“飯食った”“生きて帰った”だけで結構えらいにゃ」
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静寂。
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黒いノイズが、
少しずつ薄れていく。
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ノベェンタが小さく頷いた。
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「ちなみに人類、“正論”より“なんか優しい言葉”で救われる場合あります。論理的解決って重要ですが、脳が疲弊してる時、“大丈夫”の方が先に必要なケースあるので。あとネコ動画人気、“意味が無い安心感”を摂取できるからとも言われてます」
「全部ネコ学へ着地するの何なの」
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その時。
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ギルド全体が揺れた。
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ドゴォン!!
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悲鳴。
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窓の外。
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巨大な黒い竜。
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【締切竜】
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「なんで異世界にまでいるのよォ!!」
リゼが叫ぶ。
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締切竜は咆哮した。
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『終わっていない』
『まだ足りない』
『修正』
『追加提出』
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「完全に労働概念の化身ですね」
ノベェンタが真顔で言う。
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締切竜の咆哮。
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空間へ黒い文字列。
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【未返信】
【未読】
【確認お願いします】
【至急】
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「うわぁぁぁ!! 社会人へ特効すぎる!!」
野村部長が崩れ落ちる。
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その瞬間。
リゼが杖を構えた。
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白銀の長杖。
先端の青い結晶が発光する。
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「――障壁展開!」
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空間へ、
半透明の六角障壁が広がった。
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ドゴォッ!!
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締切竜の圧力が弾かれる。
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「おぉ……!」
佐伯が感動する。
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リゼは真顔だった。
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「営業職ナメんじゃないわよ。徹夜環境で生き残るには、まず防御力なの」
「言ってる事がブラック企業サバイバル術なんですよね」
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ノベェンタが静かに頷く。
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「ちなみに人類文明、“攻撃力”より“防御インフラ”で維持されてる側面あります。上下水道、法律、医療、物流、メンタルケア。つまり“壊れない仕組み”の方が本来重要なんですよ。ゲームだと地味扱いされがちなタンク職とかヒーラー職、現実ではむしろ社会基盤側です。あとMMORPG、人類の役割分担欲求かなり露骨に出るので、“支援職メインの人”って割と現実でも面倒見良いケースあります」
「まぁそうなっちゃうんでしょうね…」
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アインが前へ出る。
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「位相固定開始」
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灰色の光。
世界が静止する。
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佐伯が高速で魔法陣を展開。
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「野部さん! 右側の侵食パターン崩れます!」
「優秀ですね」
「ダンジョンで死ぬほど働きましたから!」
「急成長理由がブラック労働」
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ノベェンタは、
静かにキノピーを持ち上げる。
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「行きますか」
「にゃ」
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黒い光。
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キノピーが、
再び黒い剣へ変形する。
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空気が震える。
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会社組。
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初めて見る。
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“本気のノベェンタ”。
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その瞬間。
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空気が変わった。
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静かだった。
異様なほど。
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締切竜ですら、
一瞬だけ動きを止める。
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ノベェンタは、
黒い剣を構えたまま小さく呟く。
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「人類、“終わらない作業”へ人生削られがちですが、実際には“今日寝る”方がかなり重要なんですよね。締切って基本的にまた来るので。つまり文明社会、“完璧に終わらせる”より“壊れず続ける”の方が重要なケース多い。あと昔の農民、日没したら物理的に仕事終了だったので、二十四時間働ける現代の方が実は脳へ厳しい可能性あります。照明技術、人類を便利にした一方で“休めない生物”へ変えた側面あるので」
「戦闘前に人生論を挟むな!」
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そして。
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ノベェンタが踏み込む。
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境界断ち。
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黒い斬撃が、
異世界の空を切り裂いた。
ちなみにWeb小説文化って、表面上は「数字の世界」に見えるんですが、実際かなり“深夜の焚き火共同体”なんですよね。
作者、
基本的に暗い部屋で一人、
「この展開、面白いか……?」
「会話テンポ死んでないか……?」
「設定ブレてないか……?」
とか延々ぐるぐる考えてるので。
脳内会議、
だいたい毎日開催されてます。
しかも連載形式。
これ、
冷静に考えるとかなり異常です。
一話投稿するたび、
自分の情緒と発想と睡眠時間を少しずつ切り分けてネットへ放流してるので。
創作者、
時々“感情の漁業”みたいな状態になります。
あとWeb小説作者、「ここ好き」と言われた瞬間めちゃくちゃ元気になります。
特に、
「そこ!?」みたいな細かい描写を拾われると危険です。
急に、
「うわっ……ちゃんと届いてた……」
になります。
MMORPGで言うと、
誰にも気付かれないと思って積んでた趣味ビルドを、
上級者に「それ強いですよね」って言われる瞬間に近い。
脳が静かに爆発する。
逆に、
自信満々で置いた伏線、
誰にも触れられない時あります。
あれ、
作者は普通に覚えてます。
深夜、
天井見ながら、
「……あそこ、削った方が良かったかな」
とか始まる。
創作者、
だいたい“締切”と“自意識”と“睡眠不足”の三竦みで生きてます。
なので。
ブックマーク。
評価。
感想。
レビュー。
あれ全部、
単なる数字じゃなくて、
「読んでるよ」
「続きを待ってるよ」
っていう現代型の生存信号なんですよね。
特にブクマ、
かなり嬉しいです。
「未来の自分、この作品また開くかも」
って保存されるので。
創作者側から見ると、
“あなたの物語、ブラウザ閉じた後も世界へ残りました”
に近い。
あと評価増えると、
作者わりと静かにニヤニヤしてます。
表情は真顔でも、
内部では祭りです。
人類、
意外と褒められると伸びる。
なので、
もしこの物語が少しでも、
「現実しんどいな」の緩衝材になれたなら。
ブックマークや評価など頂けると、
作者のHP・MP・継続率・次話生成速度がかなり上昇します。
たまに本当に、
「今日は無理か……」
から、
ブクマ一件で復活するので。
創作者という生物、
想像以上に“読んでくれてる気配”で動いています。




