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『境界断ちのノベェンタ』 〜「観測者が意思決定した瞬間、世界線は収束します」意識高い系エリート社畜、たまに世界を救う  作者: nobunobuwo


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第四十六話 「ネコという生物は、人類文明に対して“可愛い”だけで数千年居座ることに成功した極めて異常な成功種です」


 幡多郡大月町。


 柏島。


 午後三時十七分。


 海は異様に青かった。


 透明度が高すぎて、港からでも魚影が見える。


 観光客の笑い声。


 潮風。


 そして――


「にゃー」


「にゃお」


「みゃ」


「……多いわね」


 リゼが呆れた顔で呟く。


 防波堤。


 漁港。


 階段。


 自販機の裏。


 ネコ。


 ネコ。


 ネコ。


 島全体が、ほぼネコである。


「ちなみに港町とネコは相性が良いです。昔の船にはネズミ対策でネコを乗せていましたし、そのまま港へ定着するケースも多い。つまり世界の港町ネコ達は、“海洋物流文明の副産物”でもあるんですよ」


「相変わらず急にスケールが大きいのよ」


 役場の軽バンが停まる。


 中から職員さん達が降りてきた。


【無料避妊・去勢手術 実施中】


「へぇ、ちゃんと来てくれるのね」


「地域ネコ活動ですね。ちなみにネコは繁殖力がかなり高いので、放置すると指数関数的に増えます。これは量子力学でいう“連鎖的状態増幅”に少し似ていて――」


「絶対似てない」


「まあ半分くらいは勢いで言いました」


 その時だった。


「にゃ」


 足元。


 黒い塊。


 いや。


 クロネコだった。


 首元に白い模様。


 月の輪みたいな形。


「……あ」


 リゼが目を細める。


「この子が、前言ってたネコ?」


「はい」


 クロネコは当然のように俺の足へ擦り寄る。


「遅かったにゃ」


「コンビニ寄ってたので」


「藁焼きカツオ味買った?」


「買いました」


「よろしいにゃ」


 沈黙。


 潮風。


 カモメの声。


 リゼが固まる。


「……」


「……」


「……今、喋った?」


「喋りましたね」


「いやいやいやいや!?」


 クロネコは座ったまま尻尾を揺らす。


「リゼ、反応遅いにゃ」


「ネコが普通に会話してる!?」


「ちなみに人類は、“ネコがちょっと賢い”くらいだと割とすぐ受け入れます。犬が喋るよりネコの方が違和感薄いまである。これはネコ側が昔から“何考えてるか分からない感”を持っているからですね」


「その分析いる!?」


 クロネコは当然のように俺の肩へ飛び乗る。


「紹介します。キノピーです」


「キノピーにゃ」


「なんでその名前なの?」


「首の白い模様がツキノワグマっぽかったので」


「ネーミング雑!」


「ちなみに人類は、動物命名時に“見た目の特徴をそのまま名前にする”傾向があります。シロ、クロ、ミケ、タマ。文明レベル上がっても本質的にはあまり進化してない」


「今ネコ界全体を巻き込まなかった?」


 キノピーは当然のように言う。


「ネコは神にゃ」


「まあ分かります」


「待ちなさいよ」


 リゼが頭を抱える。


「なんでアンタ、“ネコが喋る”を普通に受け入れてるの!?」


「ずいぶん前からいましたし」


「もっと早く言いなさいよ!」


 キノピーは毛づくろいを始める。


「ノベェンタは仕事しすぎにゃ。もっと寝ろにゃ」


「最近ちょっと地下案件多かったので」


「ブラック企業にゃ」


「否定できない」


「ネコに労働環境心配されてる!」


 柏島のネコ達が集まり始める。


 ざわざわ。


 妙に統率が取れていた。


「……なんか集まり方怖いんだけど」


「ちなみにネコは単独行動動物と思われがちですが、資源が豊富な環境では“ゆるい社会性”を形成します。港町ネコ集団とか典型ですね。つまりネコ界にも“なんとなく仲良い距離感”が存在する」


「SNSコミュニティみたいに言うな」


 その時。


 空気が、微妙に揺れた。


 黒いノイズ。


 海辺の空間が滲む。


「……来ましたね」


「こんな平和空間で!?」


【かわいい】

【ネコ動画】

【癒し】

【猫吸い】

【供給】

【バズ】


 黒い文字列が海風へ混ざる。


 リゼが顔をしかめた。


「なんか今回、害意薄くない?」


「“可愛さ依存型認識汚染”ですね」


「なにそれ」


「人類は、ストレスを受けると“かわいいもの”へ異常接近し始めます。ネコ動画が強いのもそれです。ちなみにインターネット黎明期から、“最終的にネコ画像へ辿り着く”文化はかなり有名で、海外掲示板文化でもネコミームは古代インターネット文明レベルから存在してる」


「古代インターネット文明って言い方やめて」


 空間が歪む。


 だが。


 その瞬間。


 キノピーが前へ出た。


「……ふにゃ」


 黒いノイズが止まる。


「えっ」


「ネコは強いですよ」


「なんで!?」


「人類の“かわいい”って、割と強力な認識固定なんです。ちなみに赤ちゃんやネコの丸顔・大きな目を見ると、人類脳は保護反応を起こしやすい。これは“ベビースキーマ”って呼ばれる認知傾向ですね。つまり人類は、“守りたい形状”にかなり弱い」


「なんか急に学術っぽくなった」


 キノピーがノイズを睨む。


「消えろにゃ」


 黒い文字列が、霧みたいに消滅した。


 静寂。


 潮風。


 カモメ。


「……強っ」


「SSRネコですからね」


「ソシャゲ扱いするな!」


「ちなみに現代オタク文化では、“ネコキャラ出しとけば売れる”は割と普遍法則です。ケモミミ、マスコット、猫系VTuber、猫語尾キャラ。人類は古代エジプト文明の時点からネコへ情緒を破壊され続けてるので、もはや文化的敗北と言っていい」


「最後、人類が負けたみたいになってるわよ」


 キノピーは俺の肩の上で丸くなる。


「帰ったら藁焼きカツオ味の食うにゃ」


「了解です」


「完全に日常へ馴染んでるの腹立つわね……」

人類、「面白かった」を言葉にすると少し照れる生物なんですが、ペンギンは気に入った相手へ小石を渡して求愛する個体がいます。


 つまり、

 ブックマークや評価も、

 だいたい“現代インターネット版の小石”です。


 創作者側、

 かなり嬉しい。


 あと連載作品って、

 読者が一人増えるだけで作者の脳内世界存続率かなり変わるんですよね。


「続きを書いてもいいんだ」

 が発生するので。


 ちなみにハムスターは、安心できる場所へ食料を溜め込みますが、

 創作者は感想を心へ溜め込みます。


 そして深夜二時くらいに読み返して回復する。


 生態としてはだいたい同じです。


 もし少しでも楽しんで頂けたら、

 評価やブックマークなど頂けると、

 作者が静かに延命されます。

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