表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『境界断ちのノベェンタ』 〜観測整合維持局 第七補正執行室 野部遠汰の場合〜  作者: nobunobuwo


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/93

第四十四話 「量子力学という学問は、“観測するまで世界が決まりません”を真顔で研究しているので、冷静に考えると人類史でもかなり狂気寄りの分野です」


 東央マテリアル地下第四層。


 午前三時四十一分。


 白色灯だけが静かに天井を照らしている。


 培養槽の青い光が、床へ波みたいに揺れていた。


 リゼは腕を組んだまま、まだ少し警戒していた。


「……で?」


「はい」


「DNA渡した後、アンタ普通にしてるけど、本当に大丈夫なの?」


「境界断ち適性持ちは、“自己存在の揺らぎ”に多少耐性があるので」


「全然安心できない説明なのよ」


 俺は自販機の微糖コーヒーを開けた。


 地下なのに、なぜか設置されている。


 東央マテリアル七不思議の一つだ。


「ちなみに量子力学でも、“観測されるまで状態が確定しない”という現象があります。シュレーディンガーの猫が有名ですね。つまり極論すると、“見るまで存在が曖昧”なわけです」


「その説明だけ聞くと完全にオカルトよね」


「実際、初期量子論は科学者側もかなり混乱してました。アインシュタインは“神はサイコロを振らない”ってキレるし、ボーアは“いや振ってる”みたいな感じで返すし、二十世紀前半の物理学界、割とレスバ文化なんですよ」


「天才達の言い方が軽いのよ」


 その時だった。


 地下施設の照明が、一瞬だけ暗転する。


 ノイズ。


 低い振動。


 培養槽の液体が微妙に波打った。


【位相揺らぎ検出】

【量子観測層 不安定化】

【SPDC領域 汚染開始】


 リゼが顔をしかめる。


「……また嫌な表示出た」


「今回は量子観測系ですね」


「もっと嫌」


 空間が、滲む。


 地下施設の壁が、“二重化”していた。


 同じ通路がズレて重なって見える。


 現実の位相が微妙にズレ始めている。


「うわ……酔う……」


「自発的パラメトリック下方変換――SPDC領域ですね」


「急に呪文みたいなのやめて」


「ちなみにSPDCは、“一個の高エネルギー光子が二個の低エネルギー光子へ分裂する現象”です。量子もつれ実験でよく使われる。つまり“元は一つだったもの”が、離れても奇妙な相関を維持する」


「それが今どう関係あるのよ」


「現実世界が、“量子的整合性”を失い始めてる」


「はい?」


 空間の奥。


 “何か”がいた。


 黒い。


 いや、透明だ。


 存在しているのに、視認できない。


 ノイズだけがある。


 まるで動画の圧縮バグみたいに、空間がブロックノイズ化していた。


「うわっ、なにあれ!?」


「観測失敗個体ですね」


「もっと分かりやすく!」


「“世界側が描画を諦めた存在”です」


「余計怖いわ!」


 黒い存在が揺らぐ。


 その周囲だけ、物理法則が微妙に遅延している。


 音がワンテンポ遅れる。


 光がズレる。


「ちなみに人類は、“同期ズレ”に本能的恐怖を感じます。口パクがズレた動画とか、不気味の谷現象とか。脳が“人間っぽいのに違う”を極端に嫌うので。だから低fpsホラーって妙に怖いんですよ」


「その豆知識、今かなり怖さ増したんだけど」


 俺は黒い剣を出現させる。


 空間が軋む。


「量子もつれって、本来かなり奇妙なんです。観測前は曖昧なのに、一方を測定した瞬間、離れた相手の状態まで決まる。アインシュタインが“遠隔幽霊作用”って嫌がったのもそこですね。ちなみに現代オタク文化で言うと、“推しが配信休むと自分のメンタルも崩れる”のに少し近い」


「その例え急に俗っぽい!」


「人類は昔から、“精神的量子もつれ”で生きてるので」


 黒い存在がこちらを見る。


 瞬間。


 世界がブレた。


 リゼの姿が、一瞬だけ別位相へズレる。


 制服姿。


 研究員姿。


 異世界側の装束。


 複数のリゼが重なった。


「っ……!」


「観測固定してください!」


「どうやって!?」


「“自分は誰か”を強く認識するんです!」


「急にスピリチュアル!」


「量子論も割とそんな感じです!」


 地下空間が震える。


 警報音。


【観測崩壊】

【認識位相離断】

【Reality Buffer Overflow】


「バッファオーバーフローって出てる!」


「ちなみに現代人類は、“なんとなくIT用語を理解した気になる”傾向があります。クラウド、AI、アルゴリズム、メタバース。実際には説明できないのに、雰囲気で会話してる。これは文明全体がブラックボックス化してる証拠ですね」


「今それ言う!?」


 黒い存在が膨張する。


 空間そのものが圧縮ノイズみたいに崩れ始めた。


 俺は剣を構える。


「観測とは、“世界を固定する行為”です」


 黒い剣が軋む。


「だから人類は、名前を付ける。分類する。物語を作る。推しを推す。考察する。つまりオタク文化って、“認識固定儀式”なんですよ」


「またオタク論始まった!」


「ちなみに考察勢が深夜三時に長文スレ立て始めるの、人類史的にはかなり異常ですからね。“架空存在へここまで情熱を注げる”って、冷静に考えると文明末期感ある」


「最後の方ちょっとネット掲示板の住人みたいになってるわよ!」


 俺は踏み込む。


 境界断ち。


 黒いノイズを、空間ごと切断する。


 瞬間。


 世界が静止した。


 ノイズが消える。


 地下施設へ静寂が戻った。


 リゼが壁へ寄りかかる。


「……毎回思うけど、アンタの説明聞いてると、量子力学ってだんだん“概念バトル作品”に見えてくるんだけど」


「実際かなり概念寄りですよ。ちなみに量子論を真面目に理解しようとすると、多くの物理学者が途中で“考えるのをやめる”方向へ行きます。“Shut up and calculate.”って有名な言葉もありますし。つまり人類最高峰の知性達ですら、“意味わからんけど計算は合う”で進めてる分野なんです」


「科学の最前線がそれでいいの……?」

ちなみに人類、“無料で読ませてもらったので逆に評価押しづらい”という謎の遠慮を発動することがありますが、創作者側はわりと「そのボタンで今日を生きてる」みたいな所あります。


 動物で言うと、

 カピバラが「ここ安全そう」と判断した温泉へじわじわ集まり始める現象に少し近い。


 安心できる場所って、

 生物かなり繰り返し来るので。


 あとブックマーク文化って冷静に考えると凄くて、

 現代人類、「この物語、あとでまた読みたい」を可視化できるんですよね。


 数百年前の作家、

 多分めちゃくちゃ羨ましがる。


 なので、

 もし「この空気ちょっと好きだな」と思って頂けたら、

 評価やブクマなど頂けると嬉しいです。


 作者の情緒と更新速度へ、

 ほんのりバフが掛かります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ