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『境界断ちのノベェンタ』 〜「観測者が意思決定した瞬間、世界線は収束します」意識高い系エリート社畜、たまに世界を救う  作者: nobunobuwo


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38/87

第三十八話 「オタク文化というのは“好き”を言語化し続けた結果、ついに経済圏と宗教性を同時獲得した現代最大級の共同幻想なんですよね」


 東京。


 午前四時四十二分。


 東京ビッグサイト搬入口。



 黒い裂け目が、

 天井近くで静かに脈動していた。



 設営途中の薄暗い会場。


 台車。


 段ボール。


 養生テープ。


 眠そうなスタッフ。


 そして。


 “何かがおかしい”空気。



 アインが静かに言う。


「……認識汚染、進行中です」



 灰色の瞳。


 焦点の合わない目。


 その視線は裂け目を見ていた。



「対象領域、“自己投影型人格侵食”」


「なるほど」


 ノベェンタは小さく頷く。


「“推しと自己同一化しすぎて現実境界薄れる現象”へ、“外側”が共鳴始めてますね。オタク文化って本来かなり健全な疑似共同体なんですが、疲労・孤独・承認欲求が重なると、“好き”が自己存在証明へ変質するケースあるので。あと深夜テンションでソシャゲ課金すると翌朝かなり後悔しやすいです。脳の報酬系と睡眠不足、相性最悪なので。ちなみにコミケ、一日で十万人規模動くことあります」


「今それいる?」


 リゼが呆れた顔をする。



 裂け目が開く。


 黒いノイズ。


 無数の声。



『現実より二次元の方が優しい』


『現実へ戻らなくていい』


『好きなキャラになればいい』


『その方が楽だ』



 危険だった。


 これは。


 “現実放棄誘導型”。



 設営スタッフの一人が、

 虚ろな目で呟く。



「……もう会社辞めて、ずっと推しだけ見てたい……」



 黒いノイズが広がる。



 アインが静かに告げる。


「境界崩壊率、上昇しています」



 その瞬間。



 カチ。



 ノベェンタが、

 黒い剣を抜いた。



 空気が震える。


 搬入口全体へ、

 薄い灰色の波紋。



「……なるほど。でも“好き”って、本来“現実へ戻ってくるための避難所”なんですよね」



 一閃。



 境界断ち。



 黒い裂け目が、

 音もなく断ち切られる。



 静寂。



 ノイズ消失。


 空気が戻る。



 スタッフが目を瞬く。



「……あれ? 俺、何してたっけ」


「設営です」


「そうだった」



 リゼがため息を吐く。



「今回は開幕一分で終わったわね……」


「コミケ前日に世界崩壊されると物流死ぬので」


「理由がオタク寄りすぎるのよ」



 そして。



 数時間後。



 東京ビッグサイト。


 コミックマーケット。



 人。


 人。


 人。



 熱気。


 紙袋。


 コスプレ。


 企業ブース。


 拍手。


 シャッター音。



 そして。


 東央マテリアル企業ブース。



 そこには。



 巨大な黒い剣を背負った男が立っていた。



 黒マント。


 片目前髪。


 全身黒装備。



 完全に。


 ○ルセルクのガッツだった。



「いや何で!?」


 リゼが即ツッコミする。



 ノベェンタは真顔。



「営業です」


「営業で何でガッツなのよ!!」


「弊社開発高性能防刃・防水複合繊維の耐久実証ですね。あとコミケ、“好きな作品への信頼感”がそのまま企業印象へ接続しやすい空間なので。“世界観理解してる企業”判定、購買行動へかなり影響します。ちなみにアニメオタク、“公式監修”という単語へ異常に弱い傾向あります」


「最後だけ妙に解像度高いのやめて」



 だが。


 客は集まっていた。



「え、ガッツいる!!」


「剣デカ!!」


「待って衣装の質感やばくない!?」


「本物みたい……」



 実際。


 質感が異常だった。



 防水。


 防炎。


 高耐久。


 高通気。


 そして。


 妙に動きやすい。



 佐伯が感動していた。



「野部さん、そのマント普通に格好いいですね……」


「ありがとうございます。ちなみに○ルセルク、“ダークファンタジーの金字塔”扱いされますが、本質的には“人間が理不尽へどう抗うか”の物語なんですよね。あと九〇年代漫画、“筋肉量と情念密度”かなり高い傾向あります。デジタル作画普及前、物理的作業量で画面圧成立してたので」


「また急に語り始めた」



 アインが静かに近づく。



 彼は。


 スーツだった。


 普通に。



「野部先輩」


「はい」


「何故、あなたは毎回“妙に似合う”方向へ寄るのですか」


「人類、“好きなものを全力でやってる人”へ説得力感じやすいので」


「回答になっていません」



 そこへ。


 小学生くらいの男の子。



「……ガッツだ」



 目が輝いている。



「剣、重い?」



 ノベェンタ。


 少ししゃがむ。



「かなり重いです。ちなみに中世ヨーロッパ剣、“実際は軽い”説有名ですが、巨大剣カテゴリは普通に筋力必要です。あとフィクション武器、人類“非合理だけど象徴性高い物”かなり好きなので。“デカい剣”、実用性より“意志の重さ”表現へ寄ってる。ロボットアニメの変形機構とかも本来かなり無茶です」


「すげぇ……」



 男の子。


 嬉しそうだった。



 その時。


 ノベェンタは少しだけ目を細める。



「……でも、好きな作品って、“現実逃避”だけじゃないんですよね」


「?」



「人類、“物語見てる時”かなり本気で生き方学習してるので。“こういう人になりたい”“こういう時助けたい”“こういう風に立ち上がりたい”って。だからオタク文化、“ただの娯楽”扱いされがちですが、実際には現代型人格形成装置寄りなんですよ。あとコミケ、“好き”だけで数万人が秩序形成してる時点でかなり異常文明です」



 リゼが笑う。



「アンタ、そういう時だけ妙に良い事言うわよね」


「八割雑談です」


「残り二割で世界救うのやめなさいよ」



 その時。



 シャッター音。



「すみません!! 写真いいですか!?」



 囲まれる。


 ガッツ姿のノベェンタ。



 佐伯が笑う。



「野部さん、めちゃくちゃ人気ですよ」


「なるほど。コミケ、“共通文脈所有者同士の一時共同体”なんですよね。“その作品知ってる”だけで初対面でも会話成立するので。あとオタク、“推し語り”始まると急に早口になりますが、あれ脳内情報圧縮解除されてる状態です。ちなみにアニメイベント会場、人類の瞬間最大感情密度かなり高い部類です」


「野部さんも今かなり早口です」


「はい。楽しいので」



 リゼとアイン。


 一瞬止まる。



「……今、自分で認めたわよね」


「観測しました」



 ノベェンタは。


 巨大な黒い剣を背負ったまま。


 少しだけ笑っていた。

ちなみに人類、“無料で読ませてもらったので逆に評価押しづらい”という謎の遠慮を発動することがありますが、創作者側はわりと「そのボタンで今日を生きてる」みたいな所あります。


 動物で言うと、

 カピバラが「ここ安全そう」と判断した温泉へじわじわ集まり始める現象に少し近い。


 安心できる場所って、

 生物かなり繰り返し来るので。


 あとブックマーク文化って冷静に考えると凄くて、

 現代人類、「この物語、あとでまた読みたい」を可視化できるんですよね。


 数百年前の作家、

 多分めちゃくちゃ羨ましがる。


 なので、

 もし「この空気ちょっと好きだな」と思って頂けたら、

 評価やブクマなど頂けると嬉しいです。


 作者の情緒と更新速度へ、

 ほんのりバフが掛かります。

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