第二十八話 「人類、“毎週なんとなく行ってしまう店”が存在し始めると、その土地を“帰る場所”として認識し始めるんですよね」
日曜日。
午後四時十二分。
高知県幡多郡大月町。
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休日だった。
東央マテリアル第二工場も静かで、
社宅周辺には潮風と蝉の声だけが流れている。
野部遠汰は、
ジャージ姿でコンビニ袋を片手に歩いていた。
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「……なるほど。休日という概念、人類史的にはかなり最近なんですよね。本来の人類、“日没まで労働して季節で休む”側だったので、“毎週二日休む”って文明側が無理やり脳へ与えてる人工的リズム寄りです。あと休日、人類かなり高確率で“結局いつもの場所”へ戻る傾向あります。行動選択自由度高いのに、脳疲労で慣れた店選ぶので。ちなみにラッコ、お気に入りの石を脇に収納して持ち歩く個体います」
誰もいない道で一人喋っていた。
本人は慣れている。
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大月町。
人口約五千人弱。
空港から車で約三時間。
高校は無い。
幼稚園、小学校、中学校が一つずつ。
コンビニは一軒。
小さなスーパー二軒。
動いている信号は二つ。
そして。
食堂は三軒しかない。
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「……情報圧縮すると、“RPG初期村”みたいな構成ですよね」
野部は歩きながら呟く。
「でも地方共同体、“選択肢少ない=不便”だけで語れないんですよ。“どこ行っても知り合い居る”状態、匿名性低い代わりに孤立もしづらいので。あと人口密度、東京ドームへ二人配置したレベルと言われると急に哲学的です」
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その時。
対向の軽トラが手を振る。
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「おー遠汰くん!」
「こんにちは」
「今日は休みかえ?」
「はい。人類、“休日にジャージ姿でコンビニ向かう状態”へ異常な安心感抱くので、文明成熟度かなり高い行動様式だと思われます」
「相変わらず何言いゆうか分からんねぇ!」
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軽トラは去っていく。
なお。
誰だったかは、
最後まで分からなかった。
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「……なるほど。地方、“誰か分からないけど互いに知ってる”状態かなり存在しますよね。ナンバー、車種、生活圏、顔認識で共同体同期してるので。“あそこの社宅の兄ちゃん”カテゴリへ入ると急に親切イベント増える」
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スーパーへ入る。
時刻。
午後四時二十八分。
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店員が、
静かに半額シールを貼り始めた。
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「早」
野部が呟く。
「なるほど。地方スーパー、“閉店前値引き開始時間”が都市部よりかなり早い傾向ありますよね。物流量と人口密度の関係上、“売れ残りを長時間抱えるコスト”高いので。あと高齢化地域、“夕方以降運転したくない層”多いため、買い物時間前倒しされがちです」
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半額刺身。
半額コロッケ。
半額惣菜。
だが。
野部は結局、
いつもの唐揚げを取った。
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「……人類、“選択肢多い”と言いながら結局いつもの物買う現象ありますよね。脳、“失敗しない経験”へかなり依存するので。“前回美味しかった”の期待値が強すぎる。ちなみにカラス、一度安全確認した餌場へかなり執着します」
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そして。
夕方。
野部は町のお好み焼き屋へ来ていた。
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鉄板。
ソースの匂い。
換気扇。
座敷。
テレビ。
典型的な地方食堂だった。
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「いらっしゃい遠汰くん」
「こんにちは」
「いつもの?」
「はい。唐揚げ定食で」
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お好み焼き屋なのに、
唐揚げ定食。
だが。
野部はかなり気に入っていた。
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「……なるほど。地方飲食店、“店名と人気メニューが一致しない現象”かなりありますよね。ラーメン屋なのにカツ丼強いとか、喫茶店なのにうどん美味いとか。“常連の需要へ最適化した結果、本業概念が崩壊する”ので。ちなみに日本の洋食文化、かなり“なんとなく美味しそうだから混ぜた”で成立してる側面あります」
「また難しいこと言いよう」
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テレビでは、
夕方の時代劇再放送が流れていた。
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風。
木刀。
着流し。
悪代官。
昭和の空気。
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野部は唐揚げを食べながら、
ぼんやり見ていた。
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「……なるほど」
小さく呟く。
「時代劇、“勧善懲悪”というより“安心できる世界構造確認装置”なんですよね。悪人は悪人っぽい顔をして、善人は最後救われる。つまり“世界には最低限の因果応報が存在する”という疑似保証です。あと地方、“夕方に時代劇流れてる店”まだ結構存在していて、あれ共同体側の時間感覚固定装置として優秀なんですよ。ちなみに江戸時代、日本人平均歩行距離かなり長いです」
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その日。
野部は、
少しだけ笑っていた。
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翌週。
また来た。
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さらに翌週。
また来た。
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気付けば。
毎週日曜。
午後四時半。
半額惣菜を買い。
《さくら》で唐揚げ定食を食べ。
時代劇を見る。
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それが、
完全に習慣化していた。
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「……なるほど。人類、“何気なく繰り返してる行動”が定着すると、それを“生活”と呼び始めるんですよね。だから帰属意識って、大イベントより“小さい反復”から形成される。あと常連文化、“店が好き”だけじゃなく“自分がそこに存在していい感覚”を確認してる側面あります」
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その時。
店主が笑いながら言う。
「遠汰くん、最近毎週来ようね」
「はい。人類、“自分の存在を説明不要で受け入れてくれる場所”へ定着しやすいので。あと地方、“また来たね”文化かなり強いですよね。都市部、“客”として扱われますが、地方は途中から“いつもの人”カテゴリへ移行するので」
「まあ、もう常連ながやけん」
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野部は少し止まる。
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常連。
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その言葉が、
妙に胸へ残った。
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店の外。
夕焼け。
港。
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海は異常なほど透明だった。
港の中なのに、
青い熱帯魚が泳いでいる。
イカまで見える。
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「……なるほど。柏島周辺海域、日本でもかなり特殊なんですよね。黒潮直撃するので熱帯魚系流入しやすい。“高知なのに沖縄みたいな魚いる”現象発生するので。あと透明度高すぎて、“港の中に魚群見える”の、都市部育ちには軽くバグです」
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その時。
近くの観光客が騒いだ。
「イルカ!!」
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海。
港の近く。
灰色の背びれ。
二頭。
親子だった。
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「……また来たんですね」
地元のおじさんが笑う。
「あの親子、もう住みようけん」
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イルカ。
柏島。
港から普通に見える。
その映像がSNSで拡散され、
最近かなりバズっていた。
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「なるほど。人類、“野生動物が自分達の生活圏へ適応してる光景”へ異常な感動覚えるんですよね。“選ばれた感”発生するので。あとイルカ、個体ごとに固有音持つと言われていて、実質“名前呼び”文化あります」
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イルカが跳ねる。
夕陽。
港。
静かな海。
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野部は缶コーヒーを開ける。
「……人類、“何も無い田舎”って言い方よくしますが、実際には“都会基準で換算できないものが多い場所”なんですよね。信号少ない。店少ない。電車無い。でも、“海を見ながら名前呼ばれる場所”って、意外と代替効かないので。あと田舎移住、“自然に癒やされる”より“人との距離感へ適応する”方が難易度高いです」
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ホゥ……
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遠くの山。
フクロウ。
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野部は小さく鳴き真似する。
「ホゥ」
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数秒後。
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ホゥ。
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「……返ってきましたね」
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夕焼け。
潮風。
時代劇のエンディング曲が、
店の中から微かに流れていた。
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そして野部遠汰は、
少しずつ。
この町を、
“自分の帰る場所”として認識し始めていた。
ちなみに創作者、「ブックマーク増えてる!」を見ると、ネコが急に知らない段ボールへ入る時くらい反射的にテンション上がります。
人類、“誰かに見つけてもらえた”だけで結構生き延びられる生物なので。
あと感想文化ってかなり特殊で、
昔の作家は数年掛けて本を書いても、読者反応ほぼ届かなかったんですよね。現代は「面白かった」が数秒で飛んでくる。インターネット、時々ちゃんと文明。
ちなみにラッコはお気に入りの石を脇に挟んで寝る個体がいますが、創作者も割と似た感じで、“この感想好き……”を心へ抱えて生き始めます。
なので、
もし少しでも「読んで良かったな」と思って頂けたら、
ブックマークや評価など頂けると嬉しいです。
作者のHPとMPと現実接続率が、
かなり回復します。




