第二十七話 「人類、“便利な素材”を発明すると最初は感動するんですが、だいたい数年後に“その便利さの副作用どこ行った?”問題へ直面するんですよね」
高知県。
幡多郡大月町。
東央マテリアル第二工場。
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午前七時四十二分。
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工場内は、
朝から異様な熱気に包まれていた。
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電話。
FAX。
メール通知。
物流確認。
営業問い合わせ。
サンプル依頼。
海外バイヤー。
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工場の空気そのものが、
“売れすぎている時特有の軽い恐慌状態”へ入っていた。
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「野部くん!!」
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営業企画部。
野村部長が、
顔を真っ赤にして飛び込んでくる。
ネクタイが半分曲がっていた。
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「大変だ!!」
「人類社会における“大変”という単語、情報圧縮率が高すぎて危険なんですよね。納期遅延から文明崩壊まで同じ語彙で処理されるので。ちなみに日本語、“やばい”も万能化しすぎていて、感情表現が量子状態化しています」
「いいから現実へ戻ってこい!! 受注が止まらん!!」
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机へ叩きつけられる大量の資料。
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アウトドアメーカー。
海外スポーツブランド。
救助隊装備。
軍警察系。
医療系。
防災。
登山。
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全部。
東央マテリアル製の新型高性能繊維——
《AMF-47》。
通称。
《ヒマラヤ・スキン》。
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超軽量。
超耐水。
高耐寒。
耐切創性能。
さらに柔軟。
しかも長時間着用でも蒸れにくい。
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ヒマラヤ遠征中。
現地登山隊の命を救った装備として、
世界的に拡散。
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SNS。
動画。
登山コミュニティ。
極地研究チーム。
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そこから火がついた。
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「……なるほど」
野部遠汰は静かに資料を見る。
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「典型的“極限環境神話化現象”ですね。人類、“死にかけた状況で役立った物品”へ宗教的信頼形成し始めるので。“エベレストで使われた”“南極で生還した”“特殊部隊採用”辺り、性能説明超えて信仰ラベル化します。あとアウトドア文化圏、“道具へ人格投影する人類”かなり多いです。“このジャケットは俺を守った”みたいな関係性発生するので。ちなみに羽毛素材として有名なアイダーダック、人類が巣を壊さず羽だけ回収する珍しい共生型採取文化あります」
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営業企画部が静まる。
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若手社員が小声で言う。
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「毎回ちょっと勉強になるの腹立つな……」
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野村部長が頭を抱える。
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「最後の鳥情報で脳が脱線するんだよ!!」
「認知負荷緩衝です」
「便利概念みたいに言うな!」
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その時。
営業企画部の扉が静かに開いた。
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「……失礼します」
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アインだった。
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黒スーツ。
姿勢完璧。
髪も整っている。
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だが。
空気が少しだけ重い。
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「野部先輩」
「はい」
「確認ですが、今回のネパール案件へ私は同行許可されていませんでした」
「はい」
「何故でしょうか」
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声は丁寧。
完璧に丁寧。
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だが。
妙に圧があった。
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九条理沙が静かにコーヒーを飲む。
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なお現在。
彼女は正式に東央マテリアル所属となっていた。
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肩書きは——
《外部戦略観測アドバイザー》。
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実質フリー活動可能。
成果報酬型。
高待遇。
出社自由。
野部関連案件への優先アクセス権付き。
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つまり。
かなり特例だった。
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「九条さんの採用、だいぶ異例ですよね」
野部が言う。
九条は肩をすくめる。
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「そりゃね。会社側、“ヒマラヤ案件で売上前年比二・七倍”とか見せられたら、そりゃ柔軟にもなるわよ」
「人類、“利益発生した瞬間に価値観更新速度上がる”傾向ありますので。あと組織、“前例がない”より“儲かった実績がない”を恐れてる場合多いです」
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野村部長が真顔で頷く。
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「それはちょっと分かる」
「理解しないでください部長。資本主義へ飲まれます」
「もう飲まれとるわ営業は!!」
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「で」
アインが静かに言う。
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「なんで私は置いていかれたんですか」
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野部は少し考える。
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「標高五千メートル級環境へ新人修正係を投入した場合、労災報告書が哲学論文化する可能性あるためです」
「意味が分かりません」
「あと九条さんが“この子絶対酸素薄い場所で静かに倒れる”と」
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アインが九条を見る。
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九条は静かに目を逸らした。
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「……だってアイン、健康診断で採血だけで顔真っ白だったじゃない」
「針が苦手なだけです」
「人類、“苦手対象へ理性で勝てない”現象かなり普遍的なので問題ありません。ちなみにラクダ、高温耐性ばかり注目されますが、実際は寒暖差耐性も異常に高いです」
「先輩」
「はい」
「今ラクダ関係あります?」
「乾燥地帯つながりです」
「繋がってるようで繋がってません」
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アインは少し沈黙し。
そして。
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「……私も、野部先輩の観測補助へ参加したかったです」
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かなり小さい声だった。
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営業企画部が静まる。
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野村部長が小声で呟く。
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「……なんか娘に怒られてる父親みたいやな野部くん」
「なるほど。人類、“同行イベントから除外される”と共同体疎外感覚えやすいんですよね。修学旅行欠席者現象と近いです。“危険だった話”ほど共有欲求強まるので。ちなみにオオカミ、群れ移動時に置いていかれる個体かなりストレス値上がるらしいです」
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アインが真顔で返す。
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「その例え、地味に傷つきます」
「失礼しました。ではペンギンへ変更します」
「何も改善してません」
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その瞬間だった。
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工場の照明が、
一瞬だけ暗くなる。
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ピシッ。
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窓ガラス。
その表面へ、
黒い“繊維状の染み”が浮かび上がった。
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九条の顔が変わる。
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「……来た」
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アインの瞳も細まる。
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修正係の顔だった。
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黒い染み。
そこから、
大量の衣類が垂れ下がっている。
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新品。
タグ付き。
未使用。
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だが。
全部、
少しずつ溶けていた。
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『もっと作れ』
『もっと売れ』
『もっと消費しろ』
『流行を止めるな』
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低い声。
広告。
SNS。
セール通知。
承認欲求。
全部混ざった声。
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野部が静かに言う。
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「……なるほど。“欲望最適化型”ですね」
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黒い染みが広がる。
受注画面。
広告ポスター。
サンプル生地。
全部へ黒いノイズが走る。
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「人類、“必要”より“新しさ”へ脳報酬反応強いので。“まだ使える”より“新商品欲しい”が勝つ瞬間あるんですよね。あと衣類文化、“自己表現”と“消費依存”がかなり近接してるので危険です。“新しい服を着る=新しい自分になれる”という認識、広告側が長年強化してます。ちなみにミンクやセーブル等の毛皮文化、人類史では階級記号として機能していた期間かなり長いです」
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野村部長が顔をしかめる。
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「じゃあ売れすぎるの、まずいのか?」
「いえ」
野部は首を振る。
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「技術進歩そのものは必要です。問題は、“便利だから無限生産していい”へ接続することですね。繊維産業、環境負荷かなり高いので。染色、水資源、マイクロプラスチック、廃棄衣類、低賃金労働。人類、“安い服を大量消費できる状態”をかなり無理して維持しています」
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営業企画部が少し静かになる。
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アインが黒い染みを見る。
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「……ですが」
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全員が見る。
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「この素材は、人命救助へ使用されたのでしょう」
「はい」
「であれば、“作ること”そのものは否定されるべきではありません」
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黒い染みが揺れる。
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『……中間』
『曖昧』
『最適化不能』
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アインは続ける。
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「問題は、“何のために使用するか”です。“必要な技術”と“無制限消費”は別概念です」
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九条が少し笑った。
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「かなり人類っぽくなったじゃない」
「不本意です」
「でも良い方向」
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野部の灰色の瞳が細くなる。
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「……なるほど」
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静かに剣へ手を掛ける。
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「“便利=悪”へ単純化しない辺り、人類社会適応かなり進みましたね。人類、“善悪二択”へ圧縮し始めると大体思考停止するので。本来必要なのは、“便利だけど制御必要”という面倒な中間運用です。ちなみにアルパカとリャマ、人類かなり混同しますが顔と耳形状で識別可能です」
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アインが即座に返す。
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「最後だけ動物図鑑に戻るの何なんですか」
「会話の呼吸調整です」
「雑学を換気扇みたいに言わないでください」
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黒い染みが広がる。
だが。
揺らいでいた。
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『理解不能』
『消費を否定しない』
『しかし制御を望む』
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野部は静かに笑った。
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「はい。そこなんですよ」
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黒い剣。
ゆっくり抜かれる。
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「人類、“便利だから使う”し、“でも使いすぎると怖い”とも思う生物なので。矛盾してますが、その矛盾込みで社会維持してるんですよね。あと衣類、人類にとって単なる布じゃなく“記憶媒体”寄りです。“祖父の上着”“初デートの服”“亡くなった人の匂い残ったパーカー”とか、布へ感情保存する。ちなみにジャコウウシの産毛“キヴィアック”、極寒地で非常に高性能ですが、一頭から採取量少なすぎて“歩く高級素材”状態です」
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九条が半笑いで言う。
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「急に豆知識で締めようとするのやめなさいよ」
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黒い染みが歪む。
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『理解不能』
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「でしょうね」
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一閃。
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境界断ち。
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黒い染みが音もなく裂ける。
照明が戻る。
機械音。
潮風。
現実。
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静寂。
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数秒後。
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野村部長がPCを見て絶叫した。
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「うわぁぁぁまた海外発注増えてる!!」
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営業企画部へ、
少しだけ笑いが戻る。
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夕方。
工場裏。
海。
オレンジ色の空。
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アインが静かに立っていた。
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「野部先輩」
「はい」
「次回の境界観測任務には同行希望を提出します」
「なるほど。“一緒に行きたい”を修正係フォーマットへ翻訳しましたね」
「違います」
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即答。
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だが耳だけ少し赤かった。
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野部は缶コーヒーを開ける。
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「ちなみにシロナガスクジラ、人類史上最大級の動物ですが、主食ほぼ小型甲殻類なんですよね。巨大存在ほど小さいもの大量摂取して維持される辺り、文明構造と少し似ています」
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アインは少し沈黙し。
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「……先輩」
「はい」
「それは、“今ここで絶対必要な知識”ですか」
野部は少し考えた。
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「人類、“別に今必要じゃない情報”を共有することで関係維持してる部分ありますので、かなり重要です」
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アインは小さく息を吐く。
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「……少しだけ理解できてしまう自分が嫌です」
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潮風が吹く。
港。
工場。
笑い声。
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世界は今日も、
少し面倒なまま続いていた。
ちなみに創作者、「ブックマーク増えてる!」を見ると、ネコが急に知らない段ボールへ入る時くらい反射的にテンション上がります。
人類、“誰かに見つけてもらえた”だけで結構生き延びられる生物なので。
あと感想文化ってかなり特殊で、
昔の作家は数年掛けて本を書いても、読者反応ほぼ届かなかったんですよね。現代は「面白かった」が数秒で飛んでくる。インターネット、時々ちゃんと文明。
ちなみにラッコはお気に入りの石を脇に挟んで寝る個体がいますが、創作者も割と似た感じで、“この感想好き……”を心へ抱えて生き始めます。
なので、
もし少しでも「読んで良かったな」と思って頂けたら、
ブックマークや評価など頂けると嬉しいです。
作者のHPとMPと現実接続率が、
かなり回復します。




