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『境界断ちのノベェンタ』 〜「観測者が意思決定した瞬間、世界線は収束します」意識高い系エリート社畜、たまに世界を救う  作者: nobunobuwo


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第二十六話 「人類は“人生を自分で選んだ”と思うことで精神の整合性を保っていますが、実際には“その時もっとも断れなかった流れ”へ滑り込んでいる場合がかなり多いんですよね」


 まだノベェンタでは無い二〇一八年。


 千葉県市川市。


 午前〇時五十八分。


 総武線の終電が遠くで走り去り、

 住宅街へ微かな振動だけを残していた。


 築二十五年。


 六畳一間。


 ユニットバス。


 蛍光灯。


 机の上には論文。


 参考資料。


 企業説明会のパンフレット。


 そして。


 大量の内定通知書。



 野部遠汰。


 二十四歳。


 東京のエリート大学院。


 量子情報理論研究室所属。


 当時から有名だった。


 良い意味でも。


 悪い意味でも。


「……なるほど。就職活動というものは、“能力評価イベント”を装っていますが、実態としては“この人を毎日同じ空間へ配置して組織が耐久可能か”を測定する長期ストレス試験なんですよね。だから面接官、“志望動機”聞いてるようで実際には“会議室で突然量子論と深海魚の話を始めないか”を観測してる。あと日本の新卒一括採用、海外勢から見ると“若者を年度単位で同期召喚する巨大儀式”にかなり近いらしいです」


「野部」


 研究室の先輩が死んだ目で言う。


「お前また面接で余計なこと言っただろ」


「かなり抑えました」


「どこがだよ、なんで面接でクレームくるんだよ」



 だが。


 企業側の評価自体は高かった。


 論理能力。


 研究実績。


 発想力。


 記憶力。


 全部優秀。


 しかも。


 本人は会話不能ではない。


 むしろ妙に人懐っこい。


 ただ。


 長い。



「野部くん」


 指導教授が資料を見ながら言う。


「また内定増えたそうじゃないか」


「はい。人類、“既に誰かが評価した個体”へ安心感抱きやすいので、一社内定出ると他社も急に欲しがり始める現象ありますよね。恋愛市場でも“恋人できた途端モテる”みたいな話ありますが、あれ社会的信用を第三者評価として参照してるので」


「……で、どこ行くんだ」


 野部は少し黙った。


 机には大手企業の封筒。


 東京。


 横浜。


 大阪。


 研究職。


 開発職。


 かなり条件は良い。


 普通なら。


 都会に残る。


 そういう流れだった。



 だが。


 冬。


 十二月。


 母から電話が来た。



『遠汰、ごめんね』


 その一言で、

 だいたい理解した。


 借金。


 保証。


 返済。


 親戚。


 仕事。


 地方。


 高知。


 幡多郡大月町。


 言葉が流れていく。



 野部は静かに窓を見る。


 市川の夜景。


 コンビニ。


 首都高。


 人工光。


「……なるほど」


 小さく呟く。


「人類、“人生の分岐点”って劇的イベントだと思いがちですが、実際には“電話一本”とか“断れない空気”で決定する場合かなり多いんですよね。あと家族問題、“自己責任論”だけで切断できるほど単純じゃないので。“自分の人生を生きろ”って正論、共同体責任感強い個体ほど実行難易度高い。ちなみに日本、“長男が何となく責任引き受ける文化”まだかなり残存しています」


 母は泣いていた。


『せっかく良い会社いっぱい決まってたのに……』


「いえ」


 野部は少し笑う。


「人類、“予定していた人生”より“流れ着いた人生”へ後から意味見出す能力かなり高いので。あと田舎移住、“自然に癒やされる”みたいな広告されますが、実際は“車がないと生活が詰む”から始まります」



 研究室。


 年末。


「はぁ!?」


 先輩が叫んだ。


「高知ィ!?」


「はい」


「なんでまた!! お前なら東京の研究職余裕だったろ!?」


「なるほど。これは典型的“合理的キャリア形成”と“共同体責任感”の衝突ですね。人類、期待値最大化だけで人生決めると、後から罪悪感による精神バグ発生する場合あるので。あと地方、“旅行で行く”のと“実際住む”ので難易度かなり違います。湿度、虫、車社会、情報伝播速度で大体カルチャーショック受ける」


「絶対お前向いてねぇって!!」


「多分そうですね」


「認めるな!!」



 卒業式。


 東京。


 春。


 桜。


 スーツ。


 写真。


 笑顔。


 典型的“人生イベント”。


 だが。


 野部遠汰だけ、

 妙に実感が薄かった。



「……なるほど。卒業式って、“人生の区切り”というより“共同幻想としての節目演出”側面強いんですよね。実際には翌日から急に人格変わるわけじゃないので。あと桜文化、日本人かなり感情投影してますが、ソメイヨシノってクローン増殖主体なので遺伝子的にはほぼ同一存在群です。つまり“個性的な景色”へ見えて、実態は超管理型コピー集団という」


「野部」


「はい」


「今日くらい普通に感傷的になるもんだぞ」


「努力します」



 二週間後。


 高知県。


 幡多郡大月町。


 東央マテリアル第二社宅。



 潮風。


 排熱。


 古い建物。


 山。


 港。


 そして。


 異様に広い空。



「……広」


 野部は第一声でそう言った。


 社宅前。


 軽トラ。


 漁港。


 夕焼け。


 静かな道。


 都会とは、

 音の種類そのものが違った。



「なるほど。田舎、“静か”だと思われがちですが、実際には自然側の音圧かなり強いんですよ。虫、カエル、風、防災無線、犬、あと鳥。都市部育ち、人間由来ノイズへ適応してるので、“自然音だけの空間”逆に脳が落ち着かない場合あります」


 社宅管理のおじさんが笑う。


「兄ちゃん東京?」


「千葉です」


「ほぼ東京やね」


「人類、“東京”概念かなり厳密に扱いますよね。千葉・埼玉・神奈川周辺、“自分は東京ではないが東京圏ではある”という複雑なアイデンティティ形成しがちなので」


「変わっちゅう兄ちゃんやな!」



 そして。


 野部はすぐに、

 田舎特有の“距離感”を知ることになる。



 ある日。


 社宅から車で出勤中。


 対向車の軽トラが、

 急に手を振ってきた。


「……?」


 野部も困惑しながら軽く会釈する。


 だが。


 次の軽トラも振る。


 また次も。



「……なるほど。地方、“車のナンバーと車種で誰か識別する文化”ありますよね。都市部だと移動空間は匿名ですが、地方は“移動中も共同体内部”なので。“あ、あそこの社宅の兄ちゃんや”で認識される。あと軽トラ比率高すぎて、逆に個体識別能力進化してる地域あります」


 会社の先輩が笑う。


「もう野部くんの車、みんな覚えようで」


「情報伝播速度がSNS並ですね」


「幡多なめたらいかんで」



 さらに。


 人間距離も近い。



「遠汰くーん!」


 スーパー。


 コンビニ。


 漁港。


 知らない人から下の名前で呼ばれる。



「……なるほど。同じ苗字個体が多すぎる共同体では、“下の名前呼び”へ自然移行するんですね。海外圏っぽいフレンドリー文化形成されるの、識別コスト削減としてかなり合理的です。“山岡さん”が複数存在すると、社会システム側が限界迎えるので」


「この辺、山岡さんとかざまにおるけん」


「なるほど。局所姓密度問題ですね」



 そして。


 虫。



 社宅。


 夜。


 風呂上がり。


 天井。



「……でか」


 蜘蛛。


 大きい。


 かなり大きい。


 東京基準だと、

 軽くイベントサイズだった。



「なるほど。田舎移住初期、“虫サイズのスケール感”で文明圏の違い実感するケースありますよね。都市部、“小型虫類”基準で生きてるので、地方の大型蜘蛛見ると脳が“これは自然ではなく中ボスでは?”判定し始める。ちなみにアシダカグモ、人類側へかなり有益な益虫で、ゴキブリ捕食効率高いです」


 数秒後。


「……いやでも怖いものは怖いですね」



 さらに。


 夜。


 社宅裏の山。


 ホゥ……ホゥ……



「フクロウですね」


 地元社員が言う。


「真似したら返事するで」


「そんなRPGみたいなイベントあります?」


「やってみ」



 野部。


「ホゥ」



 数秒後。



 ホゥ。



「……返ってきた」


「返ってくるろう」


「なるほど。フクロウ、一部種は縄張り確認や個体通信で鳴き返す習性あるんですね。つまり人類、“山へ向かって鳴くと鳥類からレスポンス返る環境”で生活してる。情報圧縮するとかなりファンタジーです」



 さらに。


 会社の飲み会。



「野部くん、“サソリモドキ”知っちょう?」


「名前だけは」


「この辺、出る地区あるで」


「……なるほど。田舎、“虫情報”が急にモンスターハンター地方掲示板化する現象ありますよね。“あそこの山、巨大ムカデ出る”とか“川の奥に変なのいる”とか、文明圏なのに未踏区域感残ってる。ちなみにサソリモドキ、名前は怖いですが毒針なく、外敵へ酢酸系液体噴射するタイプなので“歩く酢の匂い袋”寄り生物です」


「詳しいな!?」


「人類、知らない虫への恐怖軽減のため知識取得したがる傾向ありますので」



 だが。


 不思議と。


 野部遠汰は、

 この町を嫌いになれなかった。



 夕方。


 港。


 缶コーヒー。


 防波堤。


 オレンジ色の海。



「……人類、“自分で選ばなかった場所”には意味が無いと思いがちですが、実際には“後から意味を発生させる能力”かなり高いので。あと地方移住、“人生リセット”ではなく“前の自分を抱えたまま景色だけ変わる”感覚なんですよね。だから最初、“癒やし”より“孤独”来る人かなり多い。でも幡多、“放っとかない文化”かなり強いので、完全孤立しづらい」


 潮風。


 夕日。


 静かな海。


 そして。


 まだこの時の野部遠汰は知らない。


 この町が。


 この世界の“境界”へ、

 最も近い場所の一つだったことを。

ちなみに創作者、「ブックマーク増えてる!」を見ると、ネコが急に知らない段ボールへ入る時くらい反射的にテンション上がります。


 人類、“誰かに見つけてもらえた”だけで結構生き延びられる生物なので。


 あと感想文化ってかなり特殊で、

 昔の作家は数年掛けて本を書いても、読者反応ほぼ届かなかったんですよね。現代は「面白かった」が数秒で飛んでくる。インターネット、時々ちゃんと文明。


 ちなみにラッコはお気に入りの石を脇に挟んで寝る個体がいますが、創作者も割と似た感じで、“この感想好き……”を心へ抱えて生き始めます。


 なので、

 もし少しでも「読んで良かったな」と思って頂けたら、

 ブックマークや評価など頂けると嬉しいです。


 作者のHPとMPと現実接続率が、

 かなり回復します。

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