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『境界断ちのノベェンタ』 〜観測整合維持局 第七補正執行室 野部遠汰の場合〜  作者: nobunobuwo


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第百八十一話 「“偶然”って、人類わりと“意味の無い出来事”だと思いがちなんですけど。実際には“後から意味が生まれる余白”なので。知性って、案外そこへ物語を住まわせるんですよね」



 惑星パンドーラ。



 朝。


 空は高かった。


 白い雲。


 乾いた風。


 市場の喧騒。


 井戸の笑い声。


 平和だった。



 だが。


 オアシス外れ。


 飛行船停泊場。


 そこだけは少し騒がしかった。



「帰れません」


 セレスティア。


 真顔。



 沈黙。



「え?」


 野村部長。



「帰れません」



「二回言った」


 佐伯。



 飛行船。


 白銀。


 巨大。


 神秘的。



 そして。


 故障中だった。


 ハイエルフ技術者達。


 資料。


 魔法陣。


 結晶。


 測定器。


 全員困っていた。



「位相循環炉心の出力が安定しません」


「精霊流導管が共振しています」


「触媒層が劣化しています」


 完全に分からない。



 野村部長。


「なるほどぉ」



「分かったんですか?」


 佐伯。



「全く分からん」


 即答だった。



 ノヴァン。


 少し笑う。


「正直で良いな」



 その時だった。


 野村部長。


 ふと。


 荷物を見る。



 土佐備長炭。


 まだ余っていた。



 そして。


「これ」


「使えないのぉ?」



 静寂。



 全員。


「は?」



 セレスティア。


「いや」



「流石にそれは」



 その時。


 ノベェンタ。


 反応。


「待ってください」



 始まった。



「興味深いですね。土佐備長炭、高密度炭素構造を持ちますし、表面積と吸着性能も優秀ですし、音響共振特性も独特です。さらにハイエルフ側が言う位相触媒という概念、実質的にはエネルギー伝達効率向上媒体の可能性があります。だとすると結晶触媒と炭素触媒の複合構造で局所的安定化が発生するかもしれません。あと人類文明、割と“何か余ったので入れてみたら成功した”で発展しています。青カビから抗生物質出ますし、電子レンジも偶然ですし、ポストイットも失敗接着剤です。つまり文明、“とりあえずやってみる精神”がわりと強いんですよね」



 沈黙。



 セレスティア。


「……やってみますか」



 リゼ。


「やるんだ」




 三時間後。


 飛行船。


 起動。



 静寂。



 そして。


 ブォォォォォ……


 白銀の光。


 浮上。


 成功。



 さらに。


 測定担当ハイエルフ。


 青ざめる。


「出力上昇」


「百三十二パーセント」


「巡航効率向上」


「魔力損失率大幅低下」


「航続距離予測更新」


「最新型艦性能を超過」



 沈黙。



「何故」


「何故ですか」


「意味が分かりません」


 技術者達。


 混乱。



 セレスティア。


 備長炭を見る。


「神樹級素材です」



挿絵(By みてみん)



 再認定だった。



 野村部長。


「炭だよぉ」




 夕方。


 広場。


 焚き火。



 飛行船は明日出発する。


 今回の調査任務。


 世界樹異常観測。


 未来予測崩壊調査。


 パンドーラ変質現象確認。



 全て。


 予定以上の成果だった。


 ハイエルフ達も理解していた。


 世界は壊れていない。


 むしろ。


 成長している。



 だから。


 最後の宴だった。



 砂漠の民。


 ハイエルフ。


 東央マテリアル営業企画部。


 全員集まっている。



 その時。


 セレスティアが言った。


「結局」


「これは行き当たりばったりですね」



 野村部長。


 首を振る。


「違うなぁ」



「行き当たりぼっちりだなぁ」



 静寂。



 ハイエルフ達。


「ぼっちり?」



 部長。


 少し笑う。


「高知の言葉だ」


「ちょうど良い」


「ぴったり」


「そんな意味だなぁ」



 風が吹く。



「人生なぁ」


「思い通りにならん事ばっかりだ」


「でも何だかんだ」


「最後は何とかなる」


「振り返ると、いつも大丈夫なんだよなぁ」


「だから」


 少し笑う。


「ぼっちりなんだよぉ」



 静寂。



 ノヴァンが笑う。


「分かる」



 セレスティアも頷く。


「わかりみが深いですね」



 ノベェンタ。


「かなりぼっちりです」



 リゼ。


「ぽっちり……」




 その時。


 世界樹が光る。


 白銀。


 優しい光。



【……ボッチリ】



 沈黙。



 全員。


「覚えた!?」



【……ボッチリ】



 少し嬉しそうだった。


 笑いが広がる。


 風が吹く。


 星が瞬く。



 そして。


 ノベェンタが静かに空を見上げた。


「興味深いですね」



「始まった」


 佐伯。



「人類、“運が良かった”で片付けがちなんですけど、実際には誰かが試して、誰かが信じて、誰かが諦めなかった結果だったりするんですよね。つまり偶然というより関係性の累積です。あと文明史わりとこれの連続です。結果だけ見ると奇跡なんですが、途中には必ず変な人が居ます。大体居ます」



 沈黙。



 野村部長。


「変な人って誰だろうなぁ」



 全員。


 部長を見る。



「何でぇ!?」



 爆笑。


 その笑い声を聞きながら。


 世界樹は。


 静かに空を見上げた。



 そして。


 初めて。


 感謝するみたいに。


 宇宙へ向かって囁いた。



【……アリガトウ】



 静寂。



【……ウチュウ】


【……アリガトウ】


挿絵(By みてみん)



 誰も知らない。


 けれど。


 どこか遠くで。


 何かが。


 少しだけ。



 微笑んだ気がした。


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