第百八十話 「“贈り物”って、人類わりと“物を渡す行為”だと思いがちなんですけど。実際には“自分の世界を少しだけ相手へ渡す行為”なので。知性って、共有出来るものが増えるほど仲良くなるんですよね」
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惑星パンドーラ。
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夕方だった。
砂漠の空は赤い。
長い影。
風。
市場の喧騒。
井戸の笑い声。
オアシスの集落は今日も賑やかだった。
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そして。
広場の中央。
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野村部長。
なぜか。
露店を開いていた。
「高知物産展だよぉ」
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佐伯。
「何してるんですか」
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「文化交流」
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「絶対違う」
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だが。
既に遅かった。
机の上。
大月バナナ。
パッションフルーツ。
生姜。
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そして。
謎の黒い棒。
土佐備長炭。
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セレスティア達ハイエルフ。
興味津々だった。
「これは?」
バナナを指差す。
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部長。
「大月町のバナナだぞぉ」
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「へぇ」
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試食。
もぐ。
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沈黙。
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さらに。
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沈黙。
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セレスティア。
止まる。
「……え?」
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隣のハイエルフ。
食べる。
止まる。
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「……え?」
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もう一人。
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「……え?」
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静寂。
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「何ですかこれ」
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「バナナです」
部長。
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「違います」
即答。
「香りが柑橘系です」
「果実酸の構成がおかしい」
「南方果実なのに後味が軽い」
「森林果実と柑橘果実の中間みたいです」
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セレスティア。
真顔。
「めちゃくちゃ美味しいですね」
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部長。
「だろぉ」
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ドヤ顔だった。
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続いて。
パッションフルーツ。
ぱかっ。
黄金色。
濃厚な香り。
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ハイエルフ達。
再び停止。
「神域果樹園クラスですね」
「高級品です」
「これ普通に外交案件です」
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野村部長。
「そんなに?」
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「そんなにです」
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そして。
生姜。
「辛い!?」
「薬草ですか?」
「食べ物です」
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ハイエルフ。
混乱。
だが。
そこまでは普通だった。
問題は最後だった。
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土佐備長炭。
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黒い。
ただの炭に見える。
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セレスティアが持ち上げる。
「これは?」
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野村部長。
少し誇らしそうだった。
「土佐備長炭だなぁ」
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「高知の宝だ」
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静寂。
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セレスティア。
観察。
軽く叩く。
カン——……
澄んだ音。
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ハイエルフ全員。
止まる。
「……」
「……」
「……」
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空気が変わった。
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ノヴァン。
「おい」
「その反応知ってるぞ」
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セレスティア。
真顔。
「少々お待ちください」
さらに調べる。
表面。
密度。
音。
断面。
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沈黙。
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そして。
ハイエルフ達。
一斉にざわつく。
「えっ」
「嘘でしょう」
「何ですかこれ」
「密度がおかしい」
「樹木由来?」
「千年保存可能では?」
「浄化触媒になりますよね?」
「魔力導線に使えます」
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「え?」
部長。
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セレスティア。
真顔。
「神樹級素材です」
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沈黙。
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野村部長。
「炭だよぉ!?」
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ハイエルフ。
「いや待ってください本当に意味が分かりません。これ樹炭ですよね? 何故こんな位相安定性を持っているんです? 白炭化工程で結晶構造どうなったんですか? 魔力共鳴率が古代神樹の外殻材と近いんですが? 音響反応も異常ですし、内部空隙率と密度の両立もおかしいですし、これ普通なら世界樹管理局特級認定素材案件です。浄化炉に入れたら千年級祭壇の維持効率上がりますし、精霊導管へ組み込んだら魔力損失率かなり削減出来ますし、下手すると古代王朝時代の聖域設備より性能高い可能性あります。あと何ですかこの美しい黒色。樹木由来でこの完成度ちょっと意味分からないです。ヤバみが深いです。わかりみも深いです。普通に神話素材です。これを“炭だよぉ”で済ませている文明、かなり解像度バグっています」
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沈黙。
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野村部長。
「高知県民もびっくりだよぉ」
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ノベェンタ。
目が輝く。
「おぉ……」
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「始まった」
佐伯。
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「土佐備長炭、非常に面白いんですよね。日本三大備長炭の一つであり、高知県は白炭生産量日本一です。主原料はウバメガシやカシ類。千度以上の超高温で焼き上げるため内部構造が極めて緻密になります。だから長時間燃焼しますし、火力安定性も高い。さらに吸着性能にも優れる。あと叩くと金属みたいな音します。つまり人類、“木を焼いたら神話級素材になりました”を割と昔からやっています」
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沈黙。
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セレスティア。
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「それなです」
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「完全それなです」
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「解像度高いですね」
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しれっと波長も合っていた。
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夜。
巨大な焚き火。
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砂漠の民。
ハイエルフ。
東央マテリアル営業企画部。
全員集まっていた。
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火が揺れる。
星が輝く。
風が吹く。
世界樹は夜空へ枝を広げている。
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まるで。
宇宙へ手を伸ばしているみたいに。
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少年が言った。
「綺麗だなぁ」
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妹が頷く。
「うん」
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静寂。
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セレスティアが空を見る。
「昔」
「私達は星を観測していました」
「未来を知るために」
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一拍。
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「でも最近は違います」
「最近は」
少し笑う。
「誰かと見るために観ています」
静かな声だった。
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リゼが微笑む。
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ノヴァンも笑う。
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野村部長は何か感動していた。
「良いなぁ……」
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その時。
世界樹が光る。
白銀。
優しい光。
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【……ホシ】
【……キレイ】
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誰も驚かなかった。
もう。
当たり前だった。
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【……ミンナ】
【……イッショ】
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風が吹く。
砂漠の民。
ハイエルフ。
会社員。
猫。
惑星。
全部。
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同じ星空を見上げていた。
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そして。
世界樹は。
少しだけ誇らしそうに。
宇宙へ向かって囁く。
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【……ダイジョウブ】
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【……ウチュウノ】
【……ダイジョウブ】
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その言葉は。
星々の間を渡り。
誰も知らない遥かな場所へ。
静かに。
優しく。
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旅していった。
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