第百七十七話 「“家族”って、人類わりと“最初から与えられるもの”だと思いがちなんですけど。実際には“一緒に時間を過ごした結果できる関係性”なので。知性って、気付いた頃には居場所を作っているんです」
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惑星パンドーラ。
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朝だった。
砂漠の朝は早い。
まだ涼しい風。
白み始めた空。
遠くで鳴く鳥。
井戸へ向かう人々。
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そして。
東央マテリアル営業企画部。
完全に馴染んでいた。
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「部長ー!」
砂漠の少年が走ってくる。
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野村部長。
振り向く。
「おぉー!」
「魚焼くの上手くなったかー!?」
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「なったー!!」
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「よし!」
「今夜見せろ!」
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ハイタッチ。
少年。
満面の笑み。
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佐伯が呆れた。
「何なんですかその関係」
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「友達だよぉ」
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「年齢差」
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「関係ない」
即答。
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市場では。
キノピー。
完全に現地猫化。
「この果物うまいにゃ」
「持っていくにゃ」
「これはサービスにゃ」
「ありがとうにゃ」
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もう誰も違和感を持たない。
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リンベル。
商人達へ。
「在庫管理にゃ」
「需要予測にゃ」
「物流最適化にゃ」
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砂漠の民。
「なるほど!」
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普通に講義が始まる。
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アインは学校にいた。
黒板。
子供達。
「先生ー」
「先生ではありません」
「先生だー」
「先生です」
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認めた。
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人類。
慣れると雑になる。
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ノベェンタはその光景を見ながら少し笑った。
「そういえば社員旅行でしたね」
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「社員旅行にしてはスケールがおかしいけどね」
リゼ。
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「異世界ですし」
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「それで済ませるの?」
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「最近よく済ませています」
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少し笑う。
平和だった。
不思議なくらい。
平和だった。
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その時。
遠くから。
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「おーい!」
佐伯だった。
歩いてくる。
少しゆっくり。
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そして。
お腹が目立ち始めていた。
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リゼが自然に近寄る。
「大丈夫?」
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「大丈夫です」
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「無理してない?」
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「してないです」
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「でも重いです」
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「でしょうね」
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少し笑う。
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佐伯も笑った。
「最近すごいんですよ」
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「何が?」
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「動くんです」
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静寂。
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自然と全員の視線がお腹へ向く。
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「昨日なんて夜中に起こされました」
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「蹴ったのか?」
野村部長。
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「多分です」
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「元気だなぁ」
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アインが静かに近付く。
そっと手を当てた。
少しだけ。
本当に少しだけ。
表情が柔らかくなる。
「元気ですね」
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佐伯が笑う。
「でしょう?」
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その光景を見ながら。
ノベェンタがぽつりと言った。
「興味深いですね」
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「始まった」
佐伯。
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「人類、“子供が生まれる”という表現を使いますけど、実際にはかなり不思議な現象なんですよね。遺伝子だけ見るなら父母の情報混合なんですが、人類はそこへ期待や願いや物語まで同時投入する。つまり生物学的には新個体生成なんですけど、社会学的には未来への投資です。さらに面白いのは、生まれる前から関係が存在している事です。名前を考える。服を買う。部屋を作る。つまり本人まだ登場していないのに共同体へ参加している。知性体、“未来の関係性”を先に愛する能力があります」
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静寂。
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珍しく。
誰もツッコまなかった。
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佐伯がお腹を撫でる。
優しく。
「そうですね」
「もう居る感じします」
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風が吹く。
その時。
リゼが隣を見る。
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ノベェンタ。
空を見ていた。
少しだけ。
優しい顔だった。
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「野部くん」
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「はい」
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「あなたも変わったわね」
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「そうでしょうか」
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「そうよ」
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「前ならもっと理論から入ってた」
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「今も理論です」
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「今は人から入ってる」
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静寂。
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ノベェンタは少し考えた。
そして。
「かもしれません」
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リゼが少し笑う。
「成長したじゃない」
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「リゼのおかげですね」
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静寂。
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風。
砂。
遠くの笑い声。
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リゼは一瞬だけ止まった。
「……急にそういう事言うのやめて」
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「何故です?」
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「心臓に悪いから」
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「体調不良ですか」
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「違う」
即答だった。
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ノベェンタは少し首を傾げる。
分かっていない。
たぶん。
全く。
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だが。
リゼは少しだけ笑った。
それで良かった。
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その時だった。
世界樹が光る。
ふわり。
白銀の粒子。
空。
風。
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【……チイサイ】
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全員。
空を見る。
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【……ナカニ】
【……イノチ】
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沈黙。
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佐伯。
「聞こえてるんですかね」
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ノベェンタ。
「聞こえていると思います」
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世界樹が揺れる。
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【……ダイジョウブ?】
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今度は。
佐伯へ。
向けられていた。
佐伯は少し驚いて。
それから笑った。
「大丈夫ですよ」
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お腹へ手を当てる。
「たぶん元気です」
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風が吹く。
世界樹の葉が揺れる。
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【……ヨカッタ】
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静寂。
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そして。
市場の向こうで。
子供達が笑う。
大人達が笑う。
仲間達が笑う。
世界も笑う。
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パンドーラは今日も。
少しずつ。
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誰かになっていた。
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