第百七十話 「“許す”って、人類わりと“悪かった事を無かった事にする行為”だと思いがちなんですけど。実際には“理解した上で未来を選ぶ行為”なので。知性って、相手を裁くより先に理由を知ろうとするんです」
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暗闇。
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何も無い世界。
レムナントは黙っていた。
さっきから。
ずっと。
黙っていた。
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ノベェンタも急かさない。
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静寂。
長い沈黙。
やがて。
レムナントが口を開いた。
「お前」
「馬鹿なのか?」
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ノベェンタは少し考えた。
「わりとよく言われますね」
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「褒めてない」
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「知っています」
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静寂。
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レムナントは額を押さえた。
「俺はお前を刺した」
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「はい」
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「仲間も傷付けた」
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「そうですね」
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「人格も奪った」
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「かなり奪いましたね」
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「なら何で預かるとか言う」
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ノベェンタは少しだけ首を傾げる。
「困っているみたいでしたので」
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レムナント。
沈黙。
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「理由になってない」
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「なってます」
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「なってない」
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「人類、困ってる人いたら助ける文化ありますので」
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「俺は人じゃない」
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「そこは微妙ですね」
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静寂。
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レムナントは思わず笑いそうになる。
だが。
堪えた。
真面目な話だ。
笑う所ではない。
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「お前」
「分かってないな」
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「俺は壊れてる」
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暗闇が揺れる。
灰色の瞳。
少しだけ。
寂しそうだった。
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「俺は観測異常だ」
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「本来居ちゃいけなかった」
「融合出来ない」
「統合出来ない」
「だから分離した」
「だから残った」
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静寂。
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「お前と違う」
「俺は失敗作だ」
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その言葉。
暗闇に響く。
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だが。
ノベェンタは。
即座に首を振った。
「違います」
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レムナントが眉をひそめる。
「何がだ」
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「失敗作ではありません」
「失敗した結果生まれた存在かもしれませんが」
「失敗作ではありません」
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静寂。
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「……同じだろ」
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「違います」
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「例えば船が難破したとして」
「漂流者は事故の結果ですが」
「漂流者そのものは事故じゃありません」
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レムナント。
沈黙。
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「また変な例え始まったな」
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「分かりやすいと思ったんですが」
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「余計分かりにくい」
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静寂。
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だが。
少しだけ。
空気が柔らかくなった。
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その時だった。
レムナントの背後。
無数の人格達が揺れる。
王。
勇者。
研究者。
漁師。
教師。
兵士。
無数。
無数。
無数。
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そして。
初めて。
ノベェンタは気付いた。
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その全員が。
レムナントを見ていた。
まるで。
何かを待つように。
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「……」
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レムナントも気付いていた。
だから。
顔を逸らした。
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「見るな」
小さな声。
「お前達を集めたのは俺だ」
「だから」
「最後まで俺が抱える」
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だが。
誰も答えない。
人格達は。
ただ静かに見ていた。
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その視線が。
何故か。
痛かった。
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ノベェンタはその様子を見ていた。
そして。
ゆっくり言う。
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「あなた」
「優しいですね」
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レムナントが振り向く。
「は?」
「何言ってる」
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「いや」
「かなり」
「優しいですよ」
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静寂。
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「何処がだ」
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「だって」
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「本当に要らないと思っていたなら」
「集めませんので」
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レムナントが固まる。
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「……」
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「捨てられた人格が可哀想だったんでしょう?」
「忘れられた人格が嫌だったんでしょう?」
「だから」
「拾った」
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静寂。
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レムナントは答えない。
答えられない。
それは。
図星だった。
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「お前」
「本当に嫌な所見抜くな」
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「よく言われます」
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「褒めてない」
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少しだけ。
本当に少しだけ。
レムナントは笑った。
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そして。
初めて。
人格達の方を見た。
無数の野部遠汰達。
彼らは静かだった。
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だが。
その瞳には。
確かに。
何かがあった。
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まるで。
長い旅の終わりを待つような。
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そんな目だった。
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