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『境界断ちのノベェンタ』 〜観測整合維持局 第七補正執行室 野部遠汰の場合〜  作者: nobunobuwo


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第百六十九話 「“救い”って、人類わりと“元に戻ること”だと思いがちなんですけど。実際には“もう戻れないと理解した上で前へ進むこと”なので。知性って、失ったものより残ったものを選ぶ時に成長します」



 暗闇。



 何も無い世界。


 ノベェンタ。


 レムナント。


 二人は向かい合っていた。


 静かだった。


 長い沈黙。



 先に口を開いたのは。


 レムナントだった。


「なぁ」


「お前なら…俺をどうする?」



 ノベェンタは少し考えた。


「どうするとは?」



 レムナントは笑う。


 疲れたように。


「殺すのか」


「消すのか」


「回収するのか」



「それとも許すのか」



「俺はお前を刺したぞ」


「人格も奪った」


「世界も壊した」


「お前達を苦しめた」



 静寂。



 だが。


 ノベェンタは首を傾げた。


「そうですね」


「やりましたね」


「かなり」



 レムナント。



 沈黙。



「否定しないのか」



「事実ですので」



 静寂。



 そして。


 ノベェンタは続けた。


「でも」


「少し分かりました」



 レムナントが目を細める。


「何がだ」



 ノベェンタは周囲を見る。


 暗闇。


 何も無い。


 誰も居ない。


 孤独。



 そして。


 ゆっくり言った。


「あなた」


「ずっと一人だったんですね」



 レムナントは笑わなかった。


 怒らなかった。


 否定もしなかった。


 ただ。


 黙った。


 長く。


 長く。


 黙った。



「……違う」


 小さな声。


「一人じゃない」


 黒い空間が揺れる。


 無数の影。


 王。


 勇者。


 研究者。


 兵士。


 漁師。


 教師。


 商人。


 無数の野部遠汰。


「俺はずっと」


「こいつらと居た」



 だが。


 その声は。


 少しだけ。


 寂しそうだった。



 ノベェンタは静かに言う。


「違います」



 レムナントが顔を上げる。


「何?」



「その人達は」


「あなたじゃありません」



 静寂。



 レムナントの瞳が揺れた。


「……」



「あなたも知っていたはずです」


「だから集めた」


「だから離せなかった」



「だって」


「本当に欲しかったのは」


「仲間じゃなくて」


「自分自身だったんですから」



 静寂。



 何も言えない。


 レムナントは。


 何も。



 言えなかった。



 何故なら。


 その通りだった。



 自分は。


 ずっと。


 戻りたかった。


 中心へ。


 原点へ。


 野部遠汰へ。



 観測異常として切り離された。


 あの日から。



 ずっと。



「……帰りたかった」


 初めてだった。


 レムナントが本音を口にしたのは。


「帰りたかったんだ」



 声が震える。


「俺は」


「ずっと」


「帰りたかった」



 静寂。



 ノベェンタは黙って聞いていた。



「でも出来なかった」


「融合出来ない」


「戻れない」


「繋がれない」



「だから集めた」


「足りない部分を」


「埋めようとして」



「ずっと」


「ずっと」


「ずっとだ」



 暗闇が揺れる。


 無数の人格達。


 その全てが。


 悲しそうだった。



 ノベェンタはゆっくり言う。


「なら」


「終わりにしましょう」



 レムナントが顔を上げる。


「……何?」



「もう」


「抱えなくていいです」



 静寂。



 ノベェンタは。


 微笑んだ。


「あなたが集めた、その人達」


「私のところへ来てもらいます」



 レムナントの瞳が開く。


「は?」



「だって元々私の所へ来る予定だったんでしょう?」



「いや」


「そういう問題じゃ」



「ありますよ」



「人類、荷物抱え込み過ぎる傾向ありますので」


「あと引っ越し業者へ頼んだ方が楽な場合もあります」



 レムナント。


 沈黙。



「今そんな話してないだろ」



「してますよ」



「してない」



「してます」



「してない」



 静寂。



 そして。


 何故か。


 レムナントは少し笑った。


 本当に。


 少しだけ。


 久しぶりに。


挿絵(By みてみん)



 笑った。


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