表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『境界断ちのノベェンタ』 〜観測整合維持局 第七補正執行室 野部遠汰の場合〜  作者: nobunobuwo


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
168/183

第百六十八話 「“壊れる”って、人類わりと“弱かったから”だと思いがちなんですけど。実際には“抱え続けた結果”だったりするので。知性って、優しいほど限界まで我慢してしまうんですよね」



 暗闇。



 何も無い世界。


 野部遠汰。


 レムナント。


 二人は並んで歩いていた。


 静かだった。


 敵同士とは思えないほど。


挿絵(By みてみん)



 しばらくして。


 ノベェンタが口を開く。


「聞きたい事があります」



「分かってる」


 レムナントは前を見たまま答えた。


「何故こうなったのか、だろ」



「はい」



 静寂。



 レムナントは少しだけ笑う。


 疲れたように。


 諦めたように。


「お前」



「はい」



「自分が何なのか理解しているか」



 ノベェンタは少し考える。


「東央マテリアル営業企画部所属の平社員です」



「違う」



「違いましたか」



「そこじゃない」



 静寂。



 レムナントは額を押さえた。


「本当に変わらないな」



「よく言われます」



「言われるだろうな」



 一拍。



 レムナントは空を見る。


 空は無い。


 だが。


 見る癖だけは残っていた。


「本来」


「他世界線人格は融合する」



 ノベェンタは黙って聞く。



「流れ込んで」


「経験になる」


「知識になる」


「感情になる」


「そして自分になる」



「お前がそうだ」



 静寂。



「だが」


 レムナントの声が少しだけ低くなる。


「俺は違った」



 暗闇が揺れる。


 その瞬間。


 たくさんの人影が現れた。


 王。


 勇者。


 教師。


 研究者。


 農夫。


 兵士。


 漁師。


 老人。


 子供。


 全員。


 野部遠汰。



「融合しなかった」


 静かな声。


「一人も」



 ノベェンタは足を止めた。


「……一人も?」



「そうだ」



「声だけ残った」


「感情だけ残った」


「記憶だけ残った」


「後悔だけ残った」


「絶望だけ残った」



 影達が揺れる。


 泣いている。


 怒っている。


 苦しんでいる。


 笑っている。


 全部。


 バラバラだった。



「理解出来なかった」


「統合出来なかった」


「自分にならなかった」



「俺は観測異常だった」


「人格融合不全体だった」



 静寂。



 ノベェンタは黙る。



 レムナントは続けた。


「最初は何とかしようと思った」


「全員の話を聞いた」


「全員を理解しようとした」


「全員を救おうとした」



「だが終わらない」


「終わる訳がない」


「融合しないんだからな」



 暗闇が震える。



「助けられなかった」


「救えなかった」


「守れなかった」


「間に合わなかった」



 たくさんの声。


 たくさんの人生。


 たくさんの後悔。


 全部が。


 レムナントの中に居た。



「だから俺は集めた」


「消えないなら」


「せめて忘れないように」


「誰も覚えていないなら」


「俺だけは覚えていようと」


挿絵(By みてみん)



 静寂。



 その声に。


 怒りは無かった。


 ただ。


 疲労だけがあった。



「そして気付いた」


 レムナントが笑う。


 苦く。


 寂しく。


「俺自身が」


「残骸になっていた」



「レムナント」



「残余」


「取り残されたもの」


「それが俺だ」



 ノベェンタは黙って聞いていた。



 否定出来ない。


 責められない。


 ただ。


 聞く事しか出来なかった。



「だから」


 レムナントは言う。


「お前が欲しかった」


「本人格が欲しかった」


「中心が欲しかった」


「核が欲しかった」



「帰れると思った」



 静寂。



「お前へ戻れば」


「終われると思った」


「静かになれると思った」


「消えられると思った」



 暗闇。


 何も無い世界。


 その中で。


 初めて。


 レムナントは本音を語った。



「……疲れたんだ」


 小さな声。


 本当に。


 小さな声だった。


「もう」


「ずっと前から」



 ノベェンタは何も言わなかった。


 言えなかった。


 目の前に居るのは。


 怪物ではなかった。


 悪役でもなかった。



 ただ。


 壊れてしまった野部遠汰だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ