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『境界断ちのノベェンタ』 〜観測整合維持局 第七補正執行室 野部遠汰の場合〜  作者: nobunobuwo


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第百五十一話 「“理解したい”って感情、人類わりと美徳扱いしますけど。実際には“相手を変えたい欲求”とかなり混ざりやすいので。“知る”って、本来かなり怖い行為なんですよね」


 精神世界。



 夕焼け空。


 飛空挺。


 宇宙クジラ。


 ドラゴン。


 青春。


 文化祭。


 宇宙海賊。


 その全部を。



 空の向こうに現れた“巨大な瞳”が、静かに見下ろしていた。


 ギギギギ……


 空間そのものが、軋む。



 外側人格が、震えていた。


「……だめ」


「見つかった」



 ノベェンタが空を見上げる。


 瞳。


 巨大。


 輪郭不定。


 だが。


 “見ようとしている”意志だけは、異様なほど鮮明だった。



 オリジンの声が響く。


『外側観測群です』


『接触ではありません』


『……興味です』



 リンベルが、鈴を鳴らす。


 チリン。



 しかし。


 今回は、空気が戻らない。


 むしろ。


 瞳が、少し近づいた。


『観測』


 声。


 空全体から響く。


『何故』


『何故そこまで不合理を維持する』


『何故崩壊しない』


 精神世界が、わずかに軋む。



 宇宙海賊が消えかける。


 ドラゴンの輪郭が乱れる。


 飛空挺がノイズ化する。



 ノベェンタは、少し困った顔をした。


「……なるほど」


「“解析”始めると、夢側から壊れるタイプですね」


「人類もこれ結構あります。“好きなもの理屈で完全分解すると急に冷める現象”。音楽とか恋愛とか、“説明可能になった瞬間に魔法感消える”ケースあるので。あと手品、“仕組み知っても楽しい派”と“知らない方が幸せ派”かなり分かれます」



 瞳が、静止する。


『……魔法?』



 ノベェンタは頷いた。


「はい」


「人類、“意味以上の意味”作りたがるんですよね」


「ただの鈴に“おかえり”感じたり、ただの夕焼けに青春感じたり。“物理現象”へ感情重ねて生きてる。あと観光地、“実際行くとただの石”なのに感動したりします」



 外側観測群が、静かに揺れる。


『非合理』



「はい」



『無駄』



「かなり」



『理解不能』



 ノベェンタは、少し笑った。


「でも」


「人類、“分からないから好き”もあるんですよね」



 その瞬間。


 空間が止まる。


 瞳。


 外側人格。


 全部が、一瞬だけ静止した。


『……分からない』


『のに?』



「はい」


 ノベェンタは、夕焼けを見上げた。


「猫とか典型です」


「何考えてるか分かりませんし、急に走りますし、深夜に暴れますし。でも人類かなり猫好きです。あと恋愛も、“完全理解できる相手”より、“分からない部分ある相手”へ惹かれるケース結構あります」



 キノピーが、ドヤ顔で頷く。


「にゃ」


「我々、かなり人気にゃ」



 リンベルも胸を張る。


「最強生物ですにゃ」



「そこは否定できません」



 だが。


 その瞬間だった。


 空の巨大な瞳が、急に揺れる。


 ギギギギギ……


『理解』


『理解したい』


『理解できない』


『理解したい』



 空間ノイズ。


 世界が軋む。



 リゼの声が、遠くから響いた。


『野部くん!!』


『まずい!!』


『外側側、感情発振してる!!』



 オリジンも、珍しく焦っていた。


『観測群全体へ、情動波及発生』


『未知への恐怖ではありません』


『これは——』



 少し間。


『憧れです』



 静寂。


 その瞬間。


 精神世界の夕焼けが、一気に鮮やかになった。


 ドラゴン。


 宇宙海賊。


 飛空挺。


 青春。


 全部が、少しだけ輝きを増す。



 外側人格が、小さく呟いた。


「……きれい」


 その声は。



 初めて、少しだけ“人間っぽかった”。


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