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『境界断ちのノベェンタ』 〜観測整合維持局 第七補正執行室 野部遠汰の場合〜  作者: nobunobuwo


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第百五十話 「“無意味な好き”って人類わりと非効率扱いしがちなんですけど、実際には“役に立たない愛着”の方が精神を長期安定させるので。文明、かなり“無駄を大事にする力”で延命してるんですよね」


 精神世界。



 夕焼け。


 浮遊大陸。


 ドラゴン。


 宇宙海賊。


 飛空挺。


 青春。


 文化祭。


 意味不明なほど、“好き”が混ざり合った世界。



 その中心で。


 外側人格は、静かに立ち尽くしていた。


「…………」



 世界樹の葉が揺れる。


 鈴が鳴る。



 チリン。



 その小さな音へ、外側人格は少し反応した。


「……それ」



 リンベルが首を傾げる。


「にゃ?」



「どうして鳴らすの?」



 キノピーが、のんびり尻尾を揺らす。


「そこに居るからにゃ」


「居ると鳴るにゃ」



 外側人格が、少し止まる。


「……居る」



 ノベェンタが、静かに笑った。


「人類、“確認”好きなんですよね」


「既読とか、挨拶とか、“帰ったよ”とか。“そこに居る”を何度も確認する。あと猫飼ってる人類、姿見えないと鈴音だけで安心したりします。実際、“存在確認音”ってかなり精神安定へ関与してる可能性あります」



 外側人格は、ゆっくり鈴を見る。


「…………」


「……知らなかった」


 その声は、少し寂しそうだった。




 現実世界。



 東央マテリアル。


 休憩室。



 リゼが、ノベェンタの脳波を見ていた。


「……安定してる」



 アインが驚く。


「え?」



「さっきまで暴走寸前だったのに……」



 モニター。


 人格層波形が、緩やかになっている。



 オリジンが静かに言った。


『外側人格側で、侵食行動停止を確認』


『……会話しています』



 佐伯が困惑する。


「会話って……何を……?」



 オリジンは、少しだけ間を置いた。


『恐らく』


『“人類とは何か”を』




 精神世界。



 ホバーバイクが空を横切る。


 ドラゴンが鳴く。


 宇宙クジラが夕空を泳ぐ。



 その景色を見ながら、外側人格が呟いた。


「……効率が悪い」


「統一性が無い」


「無意味が多い」



 ノベェンタは頷く。


「はい」


「かなり多いです」


「人類、“必要じゃない好き”を大量に抱える生物なので。あと文明発展、“効率化”だけで進んだわけじゃなく、“なんか面白いから”で発展した技術かなりあります。宇宙開発もロマン寄りですし」



 外側人格が、ゆっくり空を見る。


「…………」


「……どうして」


「消さないの?」


 その声は、本気だった。


「苦しいのに」


「非合理なのに」


「孤独になるのに」



 静寂。


 風。


 鈴。


 チリン。



 ノベェンタは、少し考えた。


「……たぶん」


「“苦しいから要らない”だけでは決めないんですよ」



 外側人格が、静かに見る。



 ノベェンタは続けた。


「例えば青春って、だいたい苦しいです」


「恋愛も苦しいですし、友達もすれ違いますし、文化祭準備は疲れるし、部活は筋肉痛になります。あとオタク文化、“推しが尊すぎて苦しい”とか普通に言いますので」



 リンベルが頷く。


「言いますにゃ」


「かなり言いますにゃ」



「でも」


 ノベェンタは、空を見上げた。


 飛空挺。


 夕焼け。


 笑い声。


「人類、“苦しいけど好き”を捨てきれないんですよね」



 その瞬間。


 外側人格の輪郭が、少し揺れた。


「…………」


「……わからない」


 小さい声。


「でも」


 鈴を見る。


「……きらいじゃない」



 世界樹が、静かに発光した。



 その時だった。


 空。


 巨大なヒビ。


 黒いノイズ。



 精神世界全体が、わずかに揺れる。



 オリジンの声が響いた。



『野部遠汰』


『注意してください』


『外側側観測圧力、急上昇』



 ノベェンタの表情が変わる。


 空の向こう。


 “見ている”。


 巨大な何かが。



 外側人格が、少し震えた。



「……来る」



「“向こう”が」



 夕焼け空へ。



 黒い瞳が、ゆっくり開き始めていた。


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