第十五話 「人類は“自分を理解してくれる存在”へ極端に弱いので、外側がそこ学習し始めるとかなり危険です」
魔王城玉座の間。
空気が軋む。
黒い裂け目。
そこから現れた“顔”は、ゆっくりと微笑んでいた。
優しい顔だった。
安心できる顔。
敵意が無い。
むしろ。
“話を聞いてくれそう”な顔だった。
だからこそ。
ノベェンタの表情は険しかった。
「……最悪のタイプですね」
グラフが顔をしかめる。
「うわ、一番面倒なやつ来た……」
リゼが眉をひそめる。
「なんか“優しい系ラスボス”って逆に怖いのよ!」
ノベェンタは黒い裂け目を見たまま言う。
「“外側”って、最初は単純な侵食なんですよ。不安、恐怖、孤独、自己否定。その辺りへノイズ流し込む。でも人類って、完全な悪意には意外と警戒するので。だから学習が進むと、“理解者”の顔し始めるんです。“君は悪くない”“君だけは特別だ”“本当は世界がおかしい”って。“優しく肯定しながら、現実から切り離す”方向へ進化する。あとカルト構造とか陰謀論コミュニティって、“情報内容”より“孤独救済装置”として機能してる側面かなりあるので。人間、正しさより“居場所”へ帰属する傾向あるんですよ。ちなみにペンギンも群れから逸れるとかなり不安定になります」
「最後で毎回IQ迷子になるんだけど!?」
リゼが頭を抱える。
だが。
裂け目の“顔”は笑ったままだった。
そして。
声が響く。
『理解している』
その瞬間。
玉座の間全体へ黒い波紋が広がる。
『お前達は疲れている』
『争い続け』
『守り続け』
『誰にも感謝されない』
ギルゼイドの瞳が揺れる。
危ない。
ノベェンタには分かった。
これは。
“戦う言葉”ではない。
“疲れている者を休ませる言葉”だ。
だから危険なのだ。
グラフが低く呟く。
「うわぁ……刺さる奴には致命傷だぞこれ……」
空気が沈む。
裂け目の奥。
無数の声。
無数の感情。
無数の“理解”。
『もう頑張らなくていい』
『誰も本当は分かってくれない』
『なら、こちらへ来ればいい』
リゼが顔をしかめる。
「やめて、その深夜二時みたいなテンション!」
「はい」
ノベェンタは静かに答えた。
「人類、“攻撃される”より“全部分かってくれる顔される”方が防御抜かれやすいんですよ。特に疲労時。“否定されない空間”って脳への報酬かなり強いので。だから深夜SNSとか、“共感だけで閉じたコミュニティ”形成されやすい。あと人間、“理解された”感覚あると、論理矛盾かなり許容し始めます。恋愛初期とか典型ですね。“いや冷静に考えたらおかしい”が通らなくなるので。ちなみに犬、人間の表情筋変化かなり細かく読んでるらしいです」
「犬情報だけ急に平和なの何!?」
その時だった。
裂け目の“顔”が変化する。
ゆっくり。
滑らかに。
そして。
リゼそっくりの顔になった。
リゼが息を呑む。
「……ッ」
『ねぇ、ノベェンタ』
声まで同じだった。
『もう疲れてるんでしょ?』
空気が冷える。
グラフの手が剣へ伸びる。
だが。
ノベェンタは動かなかった。
灰色の瞳だけが静かに細まる。
『世界なんて放っておけばいいじゃん』
『誰も全部なんて救えないよ』
『ちゃんと休んで』
『私は味方だよ?』
リゼ本人の顔色が悪くなる。
「うわ最悪……! 自分の顔でそれ言われるのキツい!」
「高度ですね」
ノベェンタは静かに呟く。
「“外側”、かなり人類理解進んでます。“正しい言葉”じゃなく、“今欲しい言葉”を優先してる。あと人類って、“厳しい正論”より“甘い誤情報”へ流れる瞬間普通にあるので。“今だけ楽になる”選択肢って、脳疲労時かなり強いんですよ。ダイエット失敗とか徹夜ソシャゲ課金とか、大体報酬系と疲労の合わせ技なので。ちなみに猫、人間が落ち込んでる時だけ近寄る個体いるらしいです」
グラフが深いため息を吐く。
「なんで終盤の猫だけちょっと癒やしなんだよ……」
「長話は認識固定行動なので」
「理屈だけは毎回強いな!?」
だが。
ノベェンタは少しだけ真顔になった。
そして。
裂け目へ向かって言う。
「でも、それ“理解”じゃないんですよね」
空気が止まる。
“顔”の笑みが少し揺れた。
ノベェンタは続ける。
「人類って、“全部肯定してくれる存在”へ最終的には不安覚えるので。本当に信頼される関係って、“駄目な時は駄目って言うけど、それでも離れない”側なんですよ。だから家族とか親友とか、長期関係ほど多少面倒臭い。完全快適空間って、逆に現実感薄いので。あとゲームAIでも、“勝たせすぎる敵”って逆に飽きられるらしいです。適度なストレスと予測外行動、人類かなり重要視するので」
リゼが少し驚いた顔をする。
グラフも。
裂け目の“顔”が微かに歪む。
『……理解している』
「いいえ」
ノベェンタは静かに首を振る。
「あなた、“孤独”は学習してます。でも“面倒臭い関係続ける理由”をまだ理解してない」
その瞬間。
リゼが前へ出た。
そして。
ギルゼイドの頭を杖で叩いた。
ゴッ。
「痛ッ!?」
全員止まる。
リゼは怒鳴った。
「アンタねぇ!! 部下の前で勝手に“全部終わりです”みたいな顔してんじゃないわよ!! 後片付けする側の気持ち考えなさいよ!!」
ギルゼイドが固まる。
「……え?」
「この前三日徹夜したの誰のせいだと思ってんの!? 会議資料まとめたの誰だと思ってんの!? 魔王様まで“ギル最近怖い……”って気にしてたんだからね!?」
玉座の間が静まる。
ノベェンタが小さく呟く。
「……なるほど」
グラフが横目で見る。
「何だ」
「かなり強いですね、リゼ」
「今更?」
「いえ。“外側”って、“現実的な面倒臭さ含めて関係維持してくる相手”苦手なんですよ。“理想的理解者”は演じられる。でも、“怒りながら世話焼く存在”って、人類関係特有のノイズ量多すぎて再現難しいので。あと母親系存在へ完全論破された人類、だいたいちょっと正気戻ります」
「最後で台無しにすんな!!」
だが。
その瞬間。
ギルゼイド背後の黒いノイズが、大きく揺れた。
裂け目の“顔”が歪む。
初めて。
不快そうに。
『……理解不能』
「でしょうね」
ノベェンタは静かに剣へ手を掛けた。
「人類、“効率悪い関係性”で生き延びてる生物なので」
人類という種族、案外「好きでした」の一言だけで数ヶ月くらい創作を継続できるので、Web小説文化って冷静に考えるとかなり不思議なんですよね。
本来、物語制作ってめちゃくちゃコスト高いんです。
時間。
体力。
睡眠。
情緒。
社会性。
だいたい削られる。
特に長編連載、“毎回ちょっとずつ脳を薪にして焚べ続ける行為”に近いので。しかも読者側から見えるのって完成した文章だけですが、裏では「この伏線前の話と矛盾してないか……?」「このキャラ今IQ下がってないか……?」みたいな会議が脳内で四六時中開催されている。
つまり作者、“一人深夜デバッグ地獄”を永久周回してる場合があるんですよ。
ですが現代文明は優秀なので。
ブックマーク。
評価。
感想。
という、“作者へ直接ドーパミンを届ける装置”を発明してしまった。
これはかなり革命的です。
昔の創作者、読者反応を知るまで数年掛かるとか普通でしたし。平安時代とか下手すると「ウケたのかよく分からんけど次書くか……」で進行していた可能性すらある。
その点、現代Web小説文化。
投稿十分後にPV見て情緒が上下する。
文明速度が速すぎる。
あと作者、「ブクマ一件増えた」を想像以上に見ています。MMORPGで低確率レア素材落ちた時くらい静かに喜んでる。たまに深夜三時に確認して、「……読んでる人いたんだ……」で急に次話の執筆速度が上がる。
人類、わりと単純です。
なので。
もしこの物語が、
あなたの人生の疲労デバフを数分でも軽減できていたなら。
ブックマークや評価など頂けると、
作者の現実接続率と創作継続確率が穏やかに上昇します。
ちなみに創作者、「続きを待ってます」でHP全快する場合あります。
生物としてだいぶ不安定ですね。




