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『境界断ちのノベェンタ』 〜観測整合維持局 第七補正執行室 野部遠汰の場合〜  作者: nobunobuwo


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第百四十七話 「“住める場所”って、空気や水だけじゃなく“ここに居ていい”って迎え入れられる感覚も大事なので。文明って結局、“誰と生きるか”で居心地かなり変わるんですよね」


 宇宙。



 ネウロン外殻宙域。


 モルモール船団。


 静かだった。


 黒い。


 巨大。


 星みたいなネウロン群が、ゆっくり漂っている。



 だが。



 以前とは違った。


 怖くない。


 むしろ。


 どこか、暖かい。



 スグドモールが、観測窓を見つめる。


「……大気層安定」


「重力制御、正常」


「内部生態圏……存在確認」



 若いモルモール研究員が、震え声で言った。


「長老……」


「これ……」


「住めます」



 静寂。



 船団全体が、止まる。



「…………」


「…………」



「えっ」


 スグドモール、ゆっくり振り返る。



「ネウロン内部は」


「居住可能空間です」


「しかも」


「こちらの感情波へ反応して環境最適化しています」



 別の研究員が叫ぶ。


「感情で空調変わった!?」


「めちゃくちゃ住みやすいです!!」



 スグドモールは、静かに笑った。


「……そうか」


「寂しかったのだな」



 窓の向こう。


 巨大ネウロンが、ゆっくり明滅する。


 まるで。


 嬉しそうに。



 その時。



 船団全域へ、鈴のような微弱波動が響いた。


【——歓迎】


 モルモール達、静止。


「…………」


「…………」


「喋ったぁぁぁ!?」



 スグドモール、少しだけ涙ぐむ。


「……長い旅になりそうだ」




 数日後。



 ベルタリュオン。


 白銀墓標区。


 静かな風。


 鈴。


 チリン。



 モルモール長老が、キノピーとリンベルへ頭を下げていた。


「ニャンベルタン殿」


「今回もまた、救われました」



 キノピーは、墓石を見つめる。


 古い墓。


 100万年前。


 ベルタリュオン危機時。


 消えたモルモール達の名前。


 キノピーは、静かに鈴を鳴らした。


 チリン。


「……今回は」


「誰も消えなくて良かったにゃ」



 長老は、深く頷く。


「ええ」


「だから我々は旅立てます」



 リンベルが、不思議そうに首を傾げる。


「旅ですにゃ?」



「うむ」


 長老は笑った。



「今度は、“孤独だった星達”と共に」


 宇宙の彼方。


 ネウロン群が、静かに明滅していた。




 地球。



 アインと佐伯の家。


 夜。


 縁側。


 風鈴。



 エルが、静かに夜空を見上げていた。


「……そろそろ」



「戻るんだね」


 佐伯が、少し寂しそうに言う。



 エルは笑った。


「未来世界線、もしかしたら楽しみなので」


「リゼ博士とノベェンタおじさんが」



 佐伯、苦笑する。


「ありそうね……」



 少し沈黙。



 それから。


 エルが、こっそり耳打ちした。


「……お母さん」



「え?」



「私の誕生日、一年半後です」



 静止。



 佐伯、固まる。


「…………」


「…………ぇ」


 数秒後。


「えぇぇぇぇぇぇ!?!?」


 真っ赤。



 エル、吹き出す。


「未来では、その反応ずっとネタにされてます」



「む、無理無理無理!!」


「まだ心の準備が!!」



 アイン、奥から顔を出す。


「どうしたの?」



 佐伯、爆発寸前。


「な、なんでもないっ!!」



 エル、夜空を見上げる。


 優しい顔だった。


「……また来ます」



 空間が、淡く揺れる。


 未来世界線シフト。


 消える直前。



 エルは、少しだけ笑った。


「ちゃんと、生まれますから」



 光。


 そして。


 消えた。



 佐伯は、しばらく真っ赤なままだった。




 東央マテリアル。



 営業企画部。



 野村部長、絶叫。


「鈴がまた売れたぁぁぁぁ!!」



 机。


 注文書。


 山。


「海外スピリチュアル市場!?」


「アウトドア層!?」


「ペットアクセサリー業界まで来た!?」



 ノベェンタ、コーヒー飲みながら頷く。


「“存在確認需要”ですね。現代人、“私はここに居る”感覚かなり不足しやすいので。あと鈴音って、聴覚的には高周波寄りですが、心理的には安心感へ繋がりやすい説あります」



 野村部長、興奮。


「世界を救う企業になってきたな東央マテリアル!!」



 リンベル、チリンと鳴らす。


「現在、部長さん感情波形かなり浮かれていますにゃ」



「分かるの!?」




 深夜。



 残業。


 静かなオフィス。


 誰もいない。


 カタカタ。


 キーボード音だけ。


 ノベェンタは、資料をまとめながら止まった。


「……ん?」



 空気。


 違和感。


 視線。


 観測されている。


 しかも。


 近い。



 ノベェンタの灰色の瞳が、ゆっくり細くなる。


「……なるほど」


「まだ、“外側”終わってませんか」



 その瞬間。



 オフィス窓。


 夜景へ、一瞬だけ黒いノイズが走る。



 まるで。


 “何か”が。



 向こう側から、覗いているみたいに。


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