第百四十六話 「“可愛い”って、実は“守りたい”“一緒に居たい”“失いたくない”を同時発生させる超高密度感情なので。文明が子猫で救われても、生物としてはわりと正常反応なんですよね」
ベルタリュオン。
⸻
世界樹中央基部。
⸻
ネウロン群は、停止していた。
宇宙空間。
黒い星々は。
まるで。
“安心したように”漂っている。
世界樹を流れる感情波も、穏やかだった。
その中心。
キノピーは、子猫を抱えて座っていた。
ふわふわ。
小さい。
丸い。
そして。
めちゃくちゃ可愛い。
⸻
ノベェンタが、しゃがみ込む。
「……なるほど」
「人類、“可愛い”へ遭遇するとIQ下がる説ありますが、ベルタリュオン人でも同現象確認できそうですね。あと幼体保護本能、種族超えて発動するケース結構あります。パンダとか典型です」
⸻
リゼが即座に返す。
「今それ説明してる場合!?」
⸻
周囲。
⸻
ベルタリュオン研究者達。
全員。
子猫を見て固まっていた。
「…………」
「…………」
「…………尊い」
⸻
次の瞬間。
感情波。
爆発。
世界樹が、キラキラし始める。
⸻
エルが叫ぶ。
「感情出力上がってる!!」
「なんでですか!?」
⸻
ノベェンタ。
真顔。
「“可愛い”は高密度感情エネルギーなので」
⸻
「急に宇宙法則みたいに言わないで!!」
⸻
キノピーは、まだ少し混乱していた。
腕の中。
子猫が、じーっと見上げてくる。
「……にゃ」
「……な、なんにゃ」
すると。
⸻
ノベェンタが、ポケットから小さな鈴を取り出した。
ネパール。
ラミラから貰った鈴。
二つあったうちの一つは、既にキノピーの首元で揺れている。
残る一つ。
小さい銀色の鈴。
⸻
チリン。
⸻
ノベェンタは、そっと子猫へ付けてあげた。
「……お揃いですね」
キノピーの鈴。
子猫の鈴。
同じ音。
⸻
その瞬間だった。
⸻
チリン。
⸻
共鳴。
白銀光。
世界樹全体へ、波紋が走る。
⸻
子猫の瞳が、金色へ輝いた。
「——接続確認しましたにゃ」
⸻
全員、固まる。
⸻
「…………」
「…………」
⸻
「喋ったにゃ!?」
キノピーが飛び上がる。
⸻
子猫は、きょとんとしていた。
「母体ニャンベルタン個体認識完了ですにゃ」
⸻
「えっ」
⸻
「長期孤独状態、本当にお疲れ様でしたにゃ」
⸻
「えっ」
⸻
「感情波形かなり摩耗してましたにゃ」
⸻
「えっっ」
⸻
キノピー、混乱。
「な、なんでそんな母親みたいに喋るにゃ!?」
⸻
子猫。
首を傾げる。
「継承情報内で“保護対象認識”が強く形成されていますにゃ」
⸻
ノベェンタ、吹き出す。
「なるほど。“守られる側”じゃなく、“守る側”認識なんですね」
⸻
リゼが笑いを堪える。
「キノピー、完全に子育てされる側じゃない……」
⸻
キノピー、ぷるぷる震える。
「にゃぁぁぁ……」
⸻
その時。
子猫が、キノピーへすり寄った。
鈴。
チリン。
「でも」
「やっと会えましたにゃ」
⸻
キノピーの目が、潤む。
「……ほんとに、いたにゃ」
300万年。
ずっと。
ひとりだった。
でも。
今。
隣に、同じ鈴の音がある。
キノピーは、泣き笑いみたいな顔になった。
⸻
「名前……つけるにゃ」
子猫が見上げる。
⸻
「名前ですにゃ?」
キノピーは少し考え。
⸻
それから。
⸻
小さく笑った。
「リンベルにゃ」
鈴。
ベル。
繋がる音。
⸻
リンベルは、嬉しそうに鈴を鳴らした。
チリン。
⸻
その瞬間。
⸻
ベルタリュオン人達。
限界突破。
「ぅわぁぁぁぁぁ♡♡♡」
「生きてるぅぅぅぅ♡♡♡」
「動画じゃないぃぃぃ♡♡♡」
「触っていいですか!?!?」
感情波。
大爆発。
世界樹、異常発光。
⸻
エルが叫ぶ。
「文明出力が上がってる!!」
⸻
リゼが笑う。
「滅亡寸前からの回復理由が“子猫”なのよこの文明!!」
⸻
⸻
数日後。
⸻
東央マテリアル。
給湯室。
リンベル、いた。
チリン。
⸻
野村部長、硬直。
「…………」
⸻
リンベル、見上げる。
「こんにちはですにゃ」
⸻
野村部長。
コーヒー吹いた。
「喋ったぁぁぁぁぁ!?」
⸻
佐伯、しゃがみ込む。
「ちっちゃ……♡」
⸻
アイン、完全に崩壊。
「むりです♡♡♡」
「かわいすぎます♡♡♡」
⸻
リンベル、首を傾げる。
「感情波形、大変愉快ですにゃ」
⸻
ノベェンタ。
コーヒー飲みながら頷く。
「人類、“可愛い”へ遭遇すると語彙崩壊しやすいので。あと幼体へ赤ちゃん言葉使い始める現象、脳が保護モード入ってる可能性あります」
⸻
野村部長が震える。
「いや待て野部くん!!」
「この子どう説明するんだ会社へ!?」
⸻
ノベェンタ。
真顔。
「海外提携先マスコットです」
⸻
「無理あるだろ!!」
⸻
リンベル。
チリン。
嬉しそうに鳴らした。
⸻
⸻
その夜。
屋上。
静かな風。
街灯。
鈴の音。
⸻
ノベェンタとリゼが、並んで座っていた。
「……終わったわね」
⸻
「はい」
⸻
「いや、まだ終わってないんでしょうけど」
⸻
ノベェンタは、少し笑う。
「人類、“ひと段落すると終わった気になる”習性ありますので」
⸻
「便利に使うわねその言い回し」
⸻
静かな夜風。
遠く。
⸻
リンベルの鈴音。
チリン。
⸻
リゼが小さく呟く。
「……良かった」
⸻
「キノピーも」
⸻
「野部くんも」
⸻
ノベェンタは、少し黙った。
⸻
それから。
⸻
「……はい」
⸻
静かな返事。
夜空。
星。
⸻
そして。
⸻
鈴の音だけが、優しく響いていた。
⸻
ちなみにWeb小説文化における「ブックマーク」と「評価」という行為、人類史的にはかなり面白いんですよね。
昔の物語って、基本的に“王侯貴族か宗教組織のスポンサー付き”だったんです。つまり創作者、「面白い作品を書けば読まれる」以前に、“まず飯を食える環境”が必要だった。
ですが現代インターネット文明、人類はついに「好き」を直接数値化して作者へ投げるシステムを作ってしまった。
ブクマ。
感想。
評価。
レビュー。
これ全部、“面白かった”を可視化するための現代型焚き火なんですよ。
特にWeb小説作者、“更新通知”と“評価ポイント上昇”で寿命が数日延びる傾向あります。MMORPGでレアドロップ出た瞬間テンション上がるのとかなり近い。あと深夜二時に「ブクマ増えてる……」を見ると、脳内で謎の生存肯定感が発生するので。人類、意外と「読んでる人いるよ」の一言で頑張れてしまう生物なんです。
なので。
もし少しでも面白かったら、
ブックマークや評価を頂けると、
作者のHPとMPと現実接続率がだいぶ安定します。
ちなみに創作者、「次も書こう」と思える最大理由、“誰かが続きを待ってる”なんですよね。
では。
あなたの読書人生へ、
少しでも妙な彩りを追加できていたなら幸いです。




