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『境界断ちのノベェンタ』 〜観測整合維持局 第七補正執行室 野部遠汰の場合〜  作者: nobunobuwo


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第百四十四話 「“存在確認”って現代人かなり軽視しがちなんですけど、人類、わりと本能レベルで“誰かが応答してくれる”だけで精神安定するので。逆に“完全無反応状態”って、かなり危険なんですよね」


 ベルタリュオン。



 白銀中央研究層。


 世界樹観測基部。


 巨大だった。


 かつて、佐伯のマクラメペンダントから落ちた種。


 そこから生まれた世界樹は。


 今や。


 星そのものを、ゆっくり抱き始めていた。


 白銀色の根。


 発光する樹皮。


 枝葉を流れる感情波。


 風が吹くたび。


 鈴の音が、小さく鳴る。


 チリン。


 チリン。



 ベルタリュオン人達は、いつの間にか鈴を持つようになっていた。


 胸元。


 腕。


 杖。


 髪飾り。


 それは装飾ではない。


 “存在宣言”。


「私はここにいる」


 その、小さな証明だった。




 中央研究区画。


 リゼとエルが、巨大投影端末を見上げていた。


 空間へ浮かぶ、ネウロン星団群。


 数。


 多すぎる。


 地球を囲むように、静かに接近している。



 リゼが低く呟く。


「……やっぱり、“孤独”へ引っ張られてる」



 エルが頷く。


「ネウロンって、“存在確認の飢餓状態”なんです」



 世界樹端末。


 感情波ログ。


 そこへ。


 小さい鈴波形が、重なっていく。


 チリン。


 チリン。


 チリン。



 エルが静かに言った。


「でも」


「鈴波形には反応してる」



 リゼ。


 少しだけ目を見開く。


「……存在同期」



「はい」


「ネウロンは、“誰かが居る”波動へ微弱共鳴しています」



 リゼの瞳が、研究者の目になる。


「……なら」


「“感情を広げるアンカー”を作ればいい」



 エルが振り向く。


「アンカー?」



 リゼ。


 高速で端末を操作し始める。


「鈴は、“存在固定媒体”」


「世界樹は、“感情増幅媒体”」


「なら」


「その中間を作る」



 空間投影。


 小型槍状装置。


 先端へ。


 小さい鈴。


 そして。


 東央マテリアル製特殊繊維。


 感情共鳴回路。



 エルが息を呑む。


「……感情増幅アンカー」



 リゼ。


 笑った。


「“私はここにいる”を宇宙規模で伝えるのよ」




 三日後。


 モルモール船団。


 超長距離航行艦ルーメル


 宇宙。


 黒い。


 静かすぎる。


 だからこそ。


 小さい鈴音が、妙に響いていた。



 チリン。



 スグドモールが、アンカーを見つめる。


「……ニャンベルタン文明由来か」



挿絵(By みてみん)



 若いモルモール兵士が聞く。


「本当にこんなので止まるんですか?」



 スグドモール。


 静かに答える。


「止めるのではない」


「思い出させるのだ」


「“孤独ではない”事を」



 宇宙窓。


 その先。


 無数のネウロン。


 巨大。


 黒い。


 まるで、星そのもの。


 だが。


 どこか。


 寂しそうだった。



「全艦」


「アンカー射出準備、射出!」



 宇宙空間。


 無数の光。


 鈴付きアンカーが、ネウロン群へ突き刺さっていく。



 チリン。



 チリン。



 チリン。



 宇宙なのに。


 音が、聞こえる気がした。



 そして。



 最後の一基。


 打ち込み完了。



 その瞬間だった。


 世界樹観測室。



 エルの顔色が変わる。


「……え?」



 波形異常。


 共鳴率急上昇。


 ネウロン全域同期。



 リゼが叫ぶ。


「待って!!」


「これ、“繋がり過ぎてる”!!」



 次の瞬間。



 宇宙全域。


 ネウロン群が。


 一斉に加速した。


「進行速度上昇!!」


「地球接触予測、前倒し!!」



 エルが震える。


「そんな……!」



 リゼ。


 歯を食いしばる。


「“存在を感じた”から……!」


「会いに来てる!!」




 世界樹基部。



 キノピー。


 静かに立っていた。


 鈴が鳴る。



 チリン。



 その隣。


 卵。


 まだ、孵化していない。



 エルが苦しそうに言う。


「……再誕の儀」


「間に合わない……!」



 キノピーは、静かに卵を見る。


 それから。


 小さく笑った。


「……しかたないにゃ」



 瞬間。


 金色感情波、解放。


 世界樹全体へ、巨大波動が流れる。


 鈴。


 無数の鈴。


 ベルタリュオン全土。


 チリン。


 チリン。


 チリン。



 キノピーの声。


「届けるにゃ」


「“みんな居る”って」



 世界樹が輝く。


 感情増幅。


 波動拡散。



 だが。



 届かない。


 あと少し。


 ほんの少しだけ、足りない。



 キノピーの身体が、揺れる。


 弱っていた。


 寿命。


 再誕直前。


 限界。



 その時。



 ベルタリュオン中。


 人々が、一斉に鈴を鳴らし始めた。


 子供。


 老人。


 研究者。


 兵士。


 チリン。


 チリン。


 チリン。


 感情波。


 “私はここにいる”


 “あなたもいる”


 “ひとりじゃない”



 だが。



 それでも。


 わずかに、届かない。



 そして。



 ノベェンタ。


 立ち尽くしていた。


 苦しい。


 キノピーが弱っている。


 でも。


 宇宙規模危機。


 鈴。


 世界樹。


 感情共鳴。


 巨大波動。


 その状況に。


 脳のどこかが、高揚してしまう。


 バイブスが、上がる。


「……っ」


 自分が、嫌だった。


 キノピーを見ろ。


 苦しそうだ。



 なのに。


 どこかで。


 “燃えている”。


 最低だ。



 しかも。


 再誕すれば。


 新しいニャンベルタンが生まれる。


 記憶は継承される。


 でも。


 それは。


 “今のキノピー”ではない。


 寂しい。


 苦しい。


 怖い。



 その瞬間。


 ノベェンタの背後。


 黒いノイズ。


 複数人格。


『また失うのか』


『お前は結局守れない』


『だから不安定なんだ』


『消えろ』


 頭痛。


 感情波、乱れる。


 世界樹出力低下。



 エルが叫ぶ。


「ノベェンタおじさん!!」



 だが。



 ノベェンタ自身が。


 もう。



 自分を、掴めなくなり始めていた。


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