第百四十一話 「“遊牧文明”って定住文明より弱く見られがちですけど、実際は逆で。固定拠点を持たず長期間存続できる文明って、“環境変化への適応力”が異常に高いんですよね」
宇宙辺境。
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暗黒重力域。
ブラックホール《ヴァル=グラヴィス》。
光すら、歪む宙域。
恒星光は細く伸び。
空間は、ゆっくり波打っている。
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そこを漂っていた。
《モルモール遊星群》
巨大重力帆船群。
紫色帆。
青白い魔力炉。
浮遊都市船。
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まるで。
宇宙を旅する村だった。
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船と船を繋ぐ回廊。
子供達の笑い声。
漂うスープの香り。
重力農園。
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文明なのに。
どこか、“帰る場所”だった。
その中心。
旗艦《モル=アルディア》。
観測甲板。
巨大観測リングが、ブラックホール周囲を走査していた。
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その時。
紫色魔法陣。
空間転移。
スグドモール到着。
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船員達、一斉敬礼。
「スグドモール殿!!」
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スグドモール。
珍しく。
かなり真剣だった。
「長老へ会わせて欲しいでゴザル」
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数分後。
中央会議区。
円形広間。
星図。
古い航路板。
重力羅針盤。
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そして。
中央座席。
長老モル=グランダ。
長い耳。
白い毛並み。
深い皺。
だが。
その瞳だけは、星みたいに綺麗だった。
「久しいでゴザルな」
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スグドモール。
静かに頭を下げる。
「緊急事態でゴザル」
「ネウロン群が動き始めた可能性が高い」
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空気が止まる。
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観測士達、一斉起動。
宇宙投影。
銀河地図。
重力流。
感情波観測線。
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そして。
遠方星域。
無数の銀色反応。
識星ネウロン群。
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長老。
静かに目を閉じる。
「……ついに来たでゴザルか」
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観測士が叫ぶ。
「感情波集中先確認!!」
「地球宙域!!」
「予想到達時期——」
数式。
重力予測線。
空間収束演算。
そして。
「約十六年後!!」
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スグドモール。
拳を握る。
「……まだ時間はあるでゴザル」
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長老。
ゆっくり頷く。
「ならば」
「皆にも口伝を伝える時でゴザルな」
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空気が変わる。
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古い灯火。
静かな宇宙音。
長老は、遠い星を見るみたいに語り始めた。
「百万年前」
「ベルタリュオン危機」
「識星ネウロン接触」
「我らは」
「ニャンベルタン様と共に戦ったでゴザル」
紫色重力帆。
ブラックホール航路。
銀河規模術式。
記録映像が浮かぶ。
巨大黒猫型重力紋様。
宇宙を走る航路。
《超銀河境界誘導式 “ニャンダム・アストラルロード”》
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若い船員達。
静かに見入っていた。
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長老。
「だが」
「奇跡には代償もあった」
映像切り替え。
崩壊する船。
重力嵐。
空間断裂。
数隻の船団が、ブラックホールへ消えていく。
悲鳴。
叫び。
だが。
最後まで、航路を維持していた。
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長老、静かに目を伏せる。
「友を失ったでゴザル」
「家族も」
「帰る場所も」
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だが。
長老は、微かに笑った。
「それでも」
「ベルタリュオンと出会えた」
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映像。
白銀文明。
交流。
祭り。
感情歌。
宇宙航路。
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モルモール達は、ベルタリュオンと友になった。
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文化交換。
交易。
長い友好。
結果として。
両文明は繁栄した。
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長老は、静かに続ける。
「そしてニャンベルタン様は」
「未来へ言葉を残したでゴザル」
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空気が、張る。
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長老。
ゆっくり告げた。
「——もし再誕の儀を行う時」
「再び厄災が来るであろう」
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スグドモール、目を閉じる。
卵。
灰色分身。
キノピー。
全部、繋がる。
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若い船員が震える。
「なら……逃げるべきでは」
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その瞬間。
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長老。
静かに笑った。
「逃げたいでゴザルよ」
「本当は」
「怖いに決まってるでゴザル」
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だが。
窓の向こう。
ベルタリュオン方向。
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長老は、優しい目をした。
「でも」
「思い出があるでゴザル」
祭り。
歌。
笑顔。
白銀の海。
ニャンベルタン。
「大切な友が居るでゴザル」
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そして。
長老、ゆっくり立ち上がる。
「まだ時間はある」
「ならば」
「次のニャンベルタン様と共に立ち向かうだけでゴザル」
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その瞬間。
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観測甲板。
紫色重力帆、一斉展開。
船団全域へ、灯火がともる。
モルモール遊星群。
再結束。
ブラックホールの光が。
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静かに、船団を照らしていた。
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