第百三十九話 「“感情”って人類は軽く扱いがちですけど、本来かなり巨大なエネルギーなので。歴史上でも、一人の感情が国家や宗教や戦争を動かしてる事かなり多いんですよね」
午後十一時四十二分。
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東央マテリアル。
営業企画部。
残業後。
静かな夜だった。
蛍光灯。
コピー機待機音。
冷めたコーヒー。
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そして。
給湯室。
ノベェンタが、コーヒーを淹れていた。
「人類、“夜中に飲むコーヒー”身体に悪いって分かってても飲むので。たぶん“安心したい”欲求、健康理論を普通に上回るんですよね」
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佐伯。
「それただのノベェンタさんです」
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アイン、静かに頷く。
「かなり該当しています」
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「ですよね〜!」
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その時だった。
給湯室。
空間が、歪む。
バチィッ——!!
灰色雷光。
白銀粒子。
感情波。
空気が、重くなる。
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アイン、瞬時に前へ。
「佐伯、下がってください」
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ノベェンタ。
静かに目を細める。
「……未来接続型転移ですね」
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「さらっと言わないでください!!」
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次の瞬間。
空間裂開。
白銀光。
そして。
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一人の少女が、落ちてきた。
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長い白銀髪。
赤いメッシュ。
長い耳。
ベルタリュオン系。
だが。
服装は、未来的だった。
白銀コート。
浮遊式情報端末。
感情演算紋様。
そして。
金銀オッドアイ。
少女は、ゆっくり顔を上げる。
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佐伯。
止まる。
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アインも。
完全に、固まった。
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顔立ち。
似すぎていた。
アインに。
そして。
佐伯にも。
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少女は、静かに息を吐く。
「……よかった」
「まだ間に合う世界線だった」
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リゼ。
目。
きらっきら。
「えっ♡」
「えっえっえっ♡♡♡」
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少女。
少しだけ困った顔。
「……初めまして」
「ベルタリュオン中央大学院・時空感情同期学科所属」
「エルフィーナ・アイゼンベルクです」
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佐伯。
「名字ぃぃぃぃぃ!?」
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アイン・相良・アイゼンベルグ。
珍しく、動揺していた。
「……未来個体……?」
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エルフィーナ。
静かに頷く。
「はい」
「私は未来世界線での、二人の娘です」
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佐伯。
真っ赤。
湯気出そう。
「むりむりむりむり!!!!」
「情報量ぉぉぉぉぉ!!」
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リゼ。
尊さ限界突破。
「未来娘きちゃったぁぁぁぁ♡♡♡」
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キノピー。
机の上。
じーっ。
エルフィーナを見ていた。
その表情だけ。
妙に静かだった。
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ノベェンタ。
珍しく、すぐ喋らない。
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エルフィーナは、ゆっくり続けた。
「未来の地球は現在」
「識星ネウロン群に包囲されています」
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空気が止まる。
空間投影。
宇宙。
地球。
そして。
その周囲。
無数。
識晶鉱惑星。
ネウロン。
星団規模。
静かに。
地球を囲っている。
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佐伯、青ざめる。
「……なにこれ」
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エルフィーナ。
静かな声。
「原因は」
「ノベェンタおじさんです」
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ノベェンタ。
少し困った顔。
「……なるほど。人類、“おじさん”呼称に対してわりと複雑な感情抱きやすくて、特に三十代前後って“社会的には中堅扱いされ始める”一方、本人の精神年齢そこまで急成長してないので、“責任だけ増えた元少年”状態になりがちなんですよね。あと統計的にも“自分がおじさんと認識された瞬間”って軽く existential crisis……存在不安に近いショック受ける人そこそこ居るらしく」
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「そこじゃないです!!」
エルフィーナ。
だが。
笑わなかった。
「ノベェンタおじさんの感情不安定化による感情エネルギー大量放射」
「それをネウロン群が感知しました」
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リゼ。
思い出す。
人格収束。
消え始めたノベェンタ達。
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エルフィーナは続ける。
「ニャンベルタン……キノピーは」
「ずっと側でノベェンタおじさんを安定化していました」
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キノピー。
静かだった。
「にゃ」
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「でも」
「もう限界が近いんです」
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空気が、冷える。
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エルフィーナ。
キノピーを見る。
「ニャンベルタンは寿命が近づくと」
「卵へ記憶と観測情報を継承します」
「寿命は約三百万年」
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佐伯。
言葉を失う。
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キノピー。
いつも通り、丸くなっている。
なのに。
急に。
とても、長い時間を生きている存在に見えた。
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エルフィーナ。
「キノピーはかなり前からネウロン接近を察知していました」
「だから卵を温め始めた」
「でも……」
そこで。
初めて。
エルフィーナの声が、少し震えた。
「未来世界線では」
「間に合わなかった」
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誰も。
何も言えない。
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その時。
キノピー。
ゆっくり、エルフィーナの膝へ乗る。
「にゃ〜」
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エルフィーナ。
その瞬間だけ。
15歳の少女みたいに、泣きそうな顔をしていた。
「……久しぶり」
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「キノピー」
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