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『境界断ちのノベェンタ』 〜観測整合維持局 第七補正執行室 野部遠汰の場合〜  作者: nobunobuwo


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第百三十四話 「“森を見ると安心する”のは人類が生存可能圏を本能で理解しているからなので、文明崩壊寸前で巨大樹が生える展開、実はかなり理にかなってるんですよね」


 ベルタリュオン星。



 中央感情同期都市。


 白銀広場。


 空。


 巨大樹が、揺れていた。


 葉は白銀。


 だが。


 角度によって、淡い虹色が混ざる。


 枝葉の隙間。


 星空が見える。


 ベルタリュオンの空は、いつも少し青白い。


 感情共鳴粒子が、大気中を漂っているからだった。


 その粒子が今。


 世界樹の葉へ吸い込まれ。


 柔らかな光となって、都市全体へ降り注いでいる。


 暴動は止まっていた。


 だが。


 広場は、酷い状態だった。


 崩れた白銀床。


 割れた感情結晶。


 転倒した観測端末。


 感情暴走による衝撃痕。


 そして。


 負傷者。


「こっちへ!!」


「まだ呼吸が不安定です!!」


 ベルタリュオン人達が、混乱の中で助け合っている。


 その中心。


 紫色法衣。


 スグドモール。


 走っていた。


「次!!」


「次の負傷者どこでゴザル!!」


 両手。


 紫色魔法陣。


「《超感情循環安定癒術式・グランドヒーリングモフリッシュ》!!」


 バァァァァァァッ——!!


 柔らかな紫光。


 傷口が塞がる。


 呼吸が戻る。


 乱れていた感情波が安定する。


 倒れていたベルタリュオン人。


 涙を流す。


「……怖かった……」


挿絵(By みてみん)


 スグドモール。


 静かに額へ手を置く。


「大丈夫でゴザル」


「怖がったままでも、生きていて良いのでゴザル」



 その言葉に。


 周囲のベルタリュオン人達も、少しだけ泣いた。


 感情を隠さなくていい。


 違ってもいい。


 その感覚自体が、この星にはまだ新しかった。



 その少し離れた場所。


 アイン。


 膝をついていた。


 白銀外套。


 破れている。


 頬には、うっすら血。


 呼吸も荒い。


 だが。


 巨大樹を見上げる瞳だけは、静かだった。


「……安定している……」



 世界樹から広がる、柔らかな感情波。


 同期網とは違う。


 強制共有ではない。


 “個”を保ったまま。


 不安だけを、少し和らげている。



 アイン。


 理解していた。


 これは。


 ベルタリュオンが、初めて手にした。


 “自分自身から生まれる安定”。



 その時。


 地球。


 東央マテリアル営業企画部。


 給湯室。



 佐伯。


 モニターへ駆け寄る。


「アイン先輩!!」



 画面。


 傷だらけ。


 でも。


 ちゃんと立っている。



 その瞬間。


 佐伯。


 涙が、一気に溢れた。


「よかったぁぁぁぁぁ……!!」


「ほんとに……!!」


「無事で……!!」


 ボロボロ泣く。


 肩が震える。


 ここ数日。


 ずっと怖かった。


 ベルタリュオンへ行けない。


 助けにも行けない。


 ただ見るしか出来ない。


 その苦しさが、一気に溢れていた。



 リゼ。


 そんな佐伯を、後ろから抱きしめる。


「よかったですねぇぇぇぇぇぇ♡」


「ちゃんと戻ってきますよぉぉぉ♡」


「絶対大丈夫ですぅぅぅ♡」



「リゼさん距離近いですぅぅぅ!!」


 でも。


 佐伯。


 少しだけ、笑ってしまう。



 キノピー。


 机の上。


 しっぽ、ぶわぶわ。


「にゃっふぅ〜〜〜♡」


 完全にテンション高い。



 そして。


 その横。


 ノベェンタ。


 静かに眼鏡を押し上げる。


 だが。


 背後。


 灰色粒子。


 数式。


 謎の樹木ホログラム。


 めちゃくちゃ演出が出ていた。


「……これ、かなり重要ですね」


 バチッ。


 灰色雷光。


「そもそも集合意識文明って、“全員で同じ方向を見る事”には強いんですよ。でも、“個人の感情から新しい文化を生む”のが苦手になりやすい。地球文明でも管理強度が高い社会ほど、芸術や突発的発明が停滞しやすい傾向ありますし」


 バチバチッ。


 背後へ、銀河規模の樹木演算図。


「でも植物って逆なんですよね。一本一本は独立してるのに、地下の菌糸ネットワーク経由で情報共有してる。“森全体で助け合う個体群”なんです。しかも実際、樹木は危険察知すると周囲へ化学信号飛ばしてます。つまり地球の森って、かなり緩やかな集合知性体なんですよ」


 ゴォォォォ……。


 ノベェンタのコーヒー。


 なぜか浮く。


「たぶん今のベルタリュオン、“統一”から“共存”へ移行し始めてます。同期網で全部を揃えるんじゃなく、“違う感情を持ったまま支え合う文明”へ変化してる」





挿絵(By みてみん)




 佐伯。


 涙目のまま、聞いていた。



 ノベェンタは続ける。


「あと、人類って昔から“大木”を神聖視しやすいんですよ。理由の一つ、木の下は安全だったからです。日陰、果実、燃料、雨避け。つまり“生存率が上がる場所”だった。だから本能的に安心感と結び付きやすい」


 バァァァァァァ……。


 背後の世界樹ホログラム。


 さらに巨大化。


「なので今ベルタリュオン人達が落ち着いてるの、単純な精神安定波だけじゃない可能性あります。“この場所なら生きられる”っていう、生物本能側の安心感まで刺激されてるかもしれない」



 キノピー。


 しっぽ、ぴこぴこ。



 ノベェンタ。


 静かな口調のまま。


 でも。


 完全に楽しそうだった。


「……もしこの仮説合ってるなら」


「ベルタリュオン文明、初めて“自分達だけで感情を育てる段階”へ入り始めた事になりますね」



 モニターの向こう。



 白銀世界樹が、静かに揺れていた。


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