第百三十二話 「“争いを止めたい”という感情と、“自分が正しい”という感情は非常に近い位置へ存在するので、理想主義者ほど時々いちばん危険なんですよね」
ベルタリュオン星。
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中央感情同期都市。
白銀広場。
空気が、壊れていた。
【同期率低下】
【個体感情差異拡大】
【意見衝突発生】
【暴力行為確認】
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ベルタリュオン人達。
混乱していた。
これまで。
“争い”そのものが、ほぼ存在しなかった。
感情同期網。
誰かが怒れば、皆が苦しくなる。
だから。
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争いは起きない。
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だが今。
アイン帰還による適性安定化。
同期率七割運用。
個体感情分離。
結果。
ベルタリュオン人達は、初めて。
“自分だけの感情”を、強く持ち始めていた。
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「違います!!」
「その観測案では都市東区感情流量が偏ります!!」
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「ですが西区維持率を優先すべきでしょう!?」
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「なぜ私の不安を無視するのですか!?」
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感情。
ぶつかる。
同期網が弱いからこそ。
初めて。
“他人の理解できなさ”が生まれる。
そして。
ベルタリュオン人達は、それに耐性が無かった。
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中央管理塔。
オリジン。
白銀瞳が揺れている。
『……予測以上です』
『個体感情独立化が急激すぎる』
『このままでは』
【文明規模精神分裂発生確率:42%】
会議室。
凍る。
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その時。
地球。
東央マテリアル営業企画部。
給湯室。
ノベェンタ、紙コップコーヒー片手。
静かに画面を見ていた。
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佐伯。
隣。
不安そう。
「……アイン先輩……」
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モニターの向こう。
白銀都市。
怒声。
恐怖。
不安。
ベルタリュオン全体が、軋んでいた。
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ノベェンタは、静かに口を開く。
「人類、“全員同じ感情”状態の方が実はかなり特殊なんですよね。地球文明、むしろ“不一致前提”で社会設計されてるので。民主主義とか、“絶対分かり合えない人間同士がとりあえず殴り合わない方法”を何千年も試行錯誤した結果ですし」
「あと」
「感情って、本来かなり面倒なんですよ。嫉妬、独占欲、不安、承認欲求。この辺、“個”があるから発生する。でも逆に、“自分だけの感情”があるから芸術も恋愛も文化も生まれるんです」
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リゼ。
真顔で頷く。
「つまり……」
「ケンカも“愛の途中”って事ですねぇぇぇぇ〜〜〜♡」
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「リゼさんその解釈かなり危ないです」
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キノピー。
「にゃ〜」
完全に他人事。
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その瞬間。
ベルタリュオン。
中央広場。
暴動発生。
【同期回帰派】
【個体独立派】
ついに。
殴り合いが始まった。
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アイン。
人混みへ飛び込む。
「やめてください!!」
だが。
止まらない。
「あなた達は理解していません!!」
「怖いんです!!」
「感情がわからないんですよ!?」
ベルタリュオン人達。
泣いていた。
怒りながら。
怖がっていた。
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アインは、その中心で止まる。
理解してしまった。
これは。
悪意じゃない。
“恐怖”だ。
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その時。
誰かにぶつかられる。
ガッ。
首元。
マクラメペンダント。
切れる。
落下。
カラン——。
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地面へ転がる、綺麗な種。
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佐伯が、地球側モニター越しに叫ぶ。
「アイン先輩!!」
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その瞬間。
ベルタリュオン全土。
空気が、止まった。
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虹色の種。
ダンジョンドロップ。
白銀発光。
脈動。
そして。
ドクン。
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まるで。
星そのものが、心臓を打ったみたいだった。
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