第百三十一話 「“優しさへ依存する社会”は、一見平和でも、自分で感情を生み出せなくなると崩れ始めるので、文明かなり難しいバランスゲームなんですよね」
午後七時二十一分。
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東央マテリアル。
第七補正執行室。
静かな残業時間。
キーボード音。
エアコン。
コーヒー香。
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営業企画部。
空気が重かった。
立体投影。
ベルタリュオン全域感情波モニター。
数値。
乱高下。
【猫動画感情依存率】
【ノベェンタ訪問同期率】
【感情安定外部依存度】
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そして。
赤文字。
【統一システム過負荷】
【長期維持不能】
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佐伯。
「……そんなに悪いんですか」
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オリジンの声は、静かだった。
『想定以上です』
『ベルタリュオン人類は現在、“外部安心供給”へ適応し始めています』
『結果』
『自発的感情生成率が低下しています』
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リゼ、少し不安そう。
「優しさが……逆に依存になっちゃったって事ですか……?」
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『はい』
投影切替。
前回。
アイン帰還時データ。
【感情同期波安定率・急上昇】
【統一システム稼働率・低下成功】
【個体感情自律率・増加】
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そして。
【適性種アイン存在下において、惑星精神安定性向上確認】
営業企画部。
静まる。
アインは、静かにデータを見ていた。
理解していた。
つまり。
自分が。
必要なのだと。
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オリジン。
『結論を報告します』
【アイン観測官】
【長期帰還命令発令】
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佐伯。
止まる。
胸の奥が、冷えた。
「……長期って」
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『現時点では未定です』
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アインは、ゆっくり目を閉じる。
「……承認します」
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佐伯。
何か言おうとして。
でも。
言葉が出ない。
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ノベェンタは、静かにコーヒーを飲む。
「文明、“楽な安定方法”へ適応すると戻れなくなりやすいので。人類もSNS通知や短尺動画へ脳報酬回路最適化されると、“自分で感情生成する筋力”落ちやすいんですよ。幸福、“受け取るだけ”だと依存化します」
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佐伯。
小さく俯く。
理解してしまった。
アインは、必要だから帰る。
誰かを助ける為に。
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深夜。
東央マテリアル給湯室。
蛍光灯。
コーヒーメーカー。
小さな換気音。
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異世界線転移準備。
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空間が、白銀色に揺れていた。
アイン。
白銀外套。
ベルタリュオン帰還装束。
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佐伯は、その前に立っていた。
言いたい事。
いっぱいあった。
でも。
最初に出た言葉は。
「……私も行けたら良かったのに」
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アイン、少しだけ目を伏せる。
「佐伯は適性種ではありません」
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「分かってます」
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「現在のベルタリュオンでは、生存維持が困難です」
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「……分かってますって」
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少しだけ。
声が震える。
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アインは、静かに近づいた。
「ですが」
金色瞳。
まっすぐ。
「私は」
「帰る理由を、もう知っています」
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佐伯。
息が止まる。
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アインは、胸元を見る。
マクラメペンダント。
あの種。
淡く、揺れていた。
「……なので」
「戻ります」
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その瞬間。
空間転移起動。
白銀光。
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佐伯。
思わず叫ぶ。
「絶対帰ってきてくださいね!!」
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アイン。
少しだけ笑った。
「はい」
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そして。
消えた。
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ベルタリュオン。
白銀都市。
長期帰還後。
最初の数週間。
奇跡的安定。
【統一システム稼働率】
【70%】
なのに。
感情波安定。
誰もが驚いていた。
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アインが居るだけで。
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人々は、少し安心できた。
感情を。
“自分で保てる”。
そんな感覚が、生まれ始めていた。
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だが。
それは同時に。
個の発生でもあった。
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ある日。
中央浮遊都市。
広場。
怒声。
『同期率低下は危険だ!』
『いや、もっと下げるべきだ!』
『感情自由化を進めろ!!』
『また古代崩壊を繰り返す気か!?』
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ベルタリュオン人達。
初めて。
“意見対立”を始めていた。
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空気が揺れる。
感情同期網。
不安連鎖。
【恐怖】
【動揺】
【拒絶】
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そして。
維持局試算。
【統一システム完全復帰時】
【文明崩壊率:82%】
理由。
一度。
“個”を知ってしまったから。
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今さら全同期へ戻れば。
人格衝突が起きる。
ベルタリュオン全域が、パニックになる。
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アインは、必死に叫ぶ。
「落ち着いてください!!」
「争う必要はありません!!」
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だが。
感情波暴走。
群衆。
押し合い。
混乱。
その時。
誰かが転倒する。
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アイン。
反射的に飛び込む。
助けようとして。
ぶつかる。
揺れる。
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そして。
胸元。
佐伯から貰ったペンダントが。
外れた。
ゆっくり。
白銀都市の地面へ落ちる。
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カラン——。
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その瞬間。
地球。
東央マテリアル。
モニター室。
リアルタイム観測映像。
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佐伯。
立ち上がる。
目を見開く。
「……っ!!」
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ペンダント中心。
あの種が。
白銀色へ。
脈動した。
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佐伯、叫ぶ。
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「アイン先輩ぃぃぃぃぃぃっ!!!」
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