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『境界断ちのノベェンタ』 〜観測整合維持局 第七補正執行室 野部遠汰の場合〜  作者: nobunobuwo


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第百三十話 「人類、“誰を敵と認識するか”より、“誰を毎日見ているか”の方へ感情を引っ張られやすいので、国境より先に生活圏が共同体を作ります」


 午後六時二分。



 東央マテリアル。


 第七補正執行室。


 残業時間帯。


 エアコン音。


 コピー機。


 コーヒー香。



 そして。


 空間警報。


【外側干渉反応】


【戦争世界線】


【感情増幅型汚染波確認】



 営業企画部。


 全員、止まる。



 立体投影。


 赤黒い地図。


 二つの国。


《ガルディア帝国》


《ルミナス王国》


 国境地帯。



 オリジンの声が響く。


『本来、局地的小競合いのみで終わるはずだった世界線です』


『しかし』


『外側が“敵意認識”を増幅しています』



 地図拡大。


 山岳地帯。


 雪解け川。


 小さな二つの村。


《帝国側・ルド村》


《王国側・ミレア村》



 ノベェンタは、静かに画面を見る。


「……辺境ですね」



 アイン、頷く。


「物流線が細い。相互協力しないと冬季生存率が下がる地域です」



 オリジン。


『実際、両村は百年以上交流状態でした』


『国籍は異なりますが』


『婚姻』


『共同農地』


『川の管理』


『冬季備蓄』


『全部共有しています』



 佐伯、困惑。


「じゃあ何で戦争に……?」



 投影切替。


 帝国上層部。


 王国軍議。



 どちらも。


 国境を知らない。



 地図だけ見ていた。



『辺境制圧』


『緩衝地帯確保』


『先制展開』



 ノベェンタは、静かにコーヒーを置いた。


「人類、“遠い場所ほど抽象化しやすい”ので。地図上だと“国境地帯”でも、現地側から見ると“隣のおじさんの畑”なんですよ。戦争起きやすい理由の一つ、“意思決定者と生活者の距離”です」



 空間転移。


 給湯室。


 湯気。


 コーヒー香。



 そして。


 次の瞬間。


 異世界。




 雪解け季節。


 山岳国境地帯。


 冷たい風。


 草原。


 遠い羊の鳴き声。


 二つの村。


 川一本だけを挟んで並んでいた。



 国境。



 だが。


 柵も。


 壁も。


 ほとんど無い。


 子供達は、普通に行き来していた。


 洗濯物。


 干し肉。


 煙突。


 生活。



 ただの。


 生活だった。



 その時。


 遠くから。


 軍勢。


 帝国軍。


 王国辺境伯軍。


 両方、接近していた。



 だが。


 空気が妙だった。


「……おい」


 帝国兵士。


 止まる。


「お前、ミレア村のパン屋の息子じゃねぇか」



 王国兵士も、止まる。


「えっ」


「ガルド兄ちゃん!?」



「なんで軍服着てんだよ」


「そっちこそ」



 別方向。



「えっ叔父さん!?」


「お前徴兵されたのか!?」



 さらに。



「おい待てその槍うちで作ったやつだろ!!」


「修理代まだ払ってねぇぞ!!」



 戦場。


 なのに。


 知り合いだらけだった。



 佐伯。


 困惑。


「えぇ……」



 アインは、静かに周囲を見る。


「本来なら戦争継続不能な状態です」



 だが。


 その瞬間。



 空が歪む。


 黒い波。


【敵】


【敵】


【敵】


【奪え】


【疑え】


 外側。


 感情増幅。



 兵士達の瞳が、少しずつ濁る。


 空気が変わる。


 疑心。


 怒り。


 不安。


 それが、増幅されていく。



 佐伯。


「まずいです……!」



 村人達も、ざわつき始める。


『裏切る気か?』


『先に攻めるべきじゃ』


『信用するな』



 恐怖は、感染する。



 その時。


 ノベェンタ。


 前へ出た。


 静かに。


 黒い剣。


 抜刀。


 バチ……。


 灰色雷光。


 空気が震える。


 そして。


 ノベェンタは、静かに呟いた。


「人類、“今どの感情へ意識フォーカスしているか”で現実認識かなり変わるので。脳、“危険へ集中すると危険証拠ばかり拾う”仕様なんですよ。逆に安心状態だと、“協力可能性”を探し始める。つまり日常感情、“認識フィルター調整装置”なんです」



 黒雷。


 膨張。


 空間全域へ。


 巨大魔法陣展開。


 文字列。


 感情波。


 光粒子。


 そして。


 ノベェンタ。


 必殺技詠唱。


「——《毎日一緒にパン焼いて雪かきして子供育てて川を補修して祭りで酒飲んでた相手を急に“敵性存在”へ認識変更するの、人類感情OSかなり無理あるので“生活実感”側へ周波数再固定する超広域日常回帰式グランドエモーション・リカバリーバースト》!!」



挿絵(By みてみん)



 ドゴォォォォォォォォォッ!!!!


 灰色雷光。


 空へ。


 感情波が、村全域へ広がる。



 次の瞬間。


 兵士達の脳裏へ。


 記憶。


 一緒に魚を獲った日。


 祭り。


 収穫。


 結婚式。


 吹雪の日の助け合い。



 生活。


 感情。


 日々。


 それが、戻ってくる。



 帝国兵士。


 震える。


「……俺」


「この前、こいつの妹の結婚式出たわ……」



 王国兵士も、剣を下ろす。


「俺、こいつの親父に小さい頃めちゃくちゃ怒られてた……」



 外側の黒波が、少しずつ崩れていく。



 リゼは、涙ぐんでいた。


「周波数って……こういう事なんですね……」



 ノベェンタ、静かに頷く。


「人類、“何を見続けるか”で感情状態固定されやすいので。毎日怒り情報ばかり摂取すると世界が敵だらけに見えるし、逆に安心や感謝へ意識向けると、“助け合い可能性”を脳が探し始める。感情、“世界認識チューナー”なんですよ」



 その時。


 一人の老婆が、前へ出る。


 ミレア村。


 白髪。


 ゆっくり。


 帝国兵士へ言った。


「……寒いだろ」


 鍋を差し出す。


「スープ飲んでけ」



 そして。


 帝国兵士。


 泣いた。


 戦争より先に。



挿絵(By みてみん)



 人間だったから。


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