表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『境界断ちのノベェンタ』 〜「観測者が意思決定した瞬間、世界線は収束します」意識高い系エリート社畜、たまに世界を救う  作者: nobunobuwo


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/81

第十三話 「人類は“教える側”になった瞬間、自分が何も理解していなかった事実へ突然気付きます」

 午後六時二十三分。


 東央マテリアル本社工場。


 外は雨だった。


 春の終わり。


 湿気を含んだ空気が工場地帯へ重く沈み、巨大配管の隙間を抜ける蒸気が白く滲んでいる。


 営業企画部。


 定時は過ぎていた。


 だが当然のように誰も帰っていない。


 人類は、「定時」という概念を発明した後、それを守らない文化を形成した珍しい生物である。


 遠汰は缶コーヒーを開けながら呟いた。


「……なるほど。“新人教育期間”って、実際には教育される側より“教える側の認識崩壊”が発生しやすいんですよね。人間、自分が無意識で出来てることほど説明できないので。“なんとなく空気で理解してたルール”を言語化要求された瞬間、急に社会システムの曖昧さへ気付き始める。あと日本企業、“昔からこうだから”を仕様書代わりに使う傾向かなり強いです。ちなみにタコは瓶の開け方、一回覚えるとかなり長期記憶します」


「最後のタコ何なんですか!」


 課長が半ギレで言った。


 午後六時。


 会議三連続。


 役員修正二回。


 電話十七件。


 もう魂が半分くらい蒸発していた。


 その横で。


 アインが静かにノートPCを見ている。


 新人なのに、異様に仕事が速い。


 速すぎる。


 しかも。


 “誰がどの言い方すると機嫌悪くならないか”の学習速度が異常だった。


「野部先輩」


「はい」


「“一旦持ち帰ります”という発言ですが、実際には六割程度“今は決めたくない”を意味していますね」


「かなり正確です」


「“検討します”は?」


「三割くらい断ってます」


「興味深いです。人類、直接拒絶より“関係維持優先型曖昧表現”を多用しますね」


「日本社会、“空気損傷コスト”高いので。あと会議って、実際には結論出す場より“誰がどこまで怒ってるか確認する場”になってるケース結構あります。ちなみにニホンザル、視線圧だけで上下関係調整するらしいです」


「会議を猿で説明しないでください」


 課長が即座に切った。


 周囲社員たちは思っていた。


(なんかまた変な会話してる……)


 だが。


 不思議と嫌な感じはしなかった。


 その時だった。


 フロア奥。


「……え?」


 小さな声。


 営業企画部、新人女性社員——佐伯美咲。


 今年入社。


 まだ研修バッジも外れていない。


 彼女が、固まっていた。


 モニターを見たまま。


 顔色が白い。


「どうした?」


 先輩社員が近づく。


 佐伯は震える声で言った。


「……データ、消えました」


 空気が止まる。


「は?」


「来週提出の原価調整資料、全部……」


「バックアップは!?」


「……取って、ないです……」


 静寂。


 あまりにも“新入社員らしい絶望”だった。


 課長が頭を抱える。


「胃が死ぬ胃が死ぬ!」


 周囲がざわつく。


「三週間分だぞ……」


「役員会資料も入ってたよな……?」


「マジか……」


 佐伯の目に涙が浮かぶ。


「す、すみません……私……」


 その瞬間。


 空気が、微かに軋んだ。


 ピシ。


 ほんの小さい音。


 誰にも聞こえない。


 だが。


 遠汰とアインだけは反応した。


 灰色の瞳。


 焦点の合わない瞳。


 同時に細まる。


「……なるほど」


 遠汰が静かに呟く。


「軽度認識侵食ですね」


 アインが頷く。


「“失敗による自己否定”へ接続しています」


 見えていた。


 佐伯の背後。


 薄い黒い靄。


 囁き。


『お前はダメだ』


『迷惑しかかけない』


『社会に向いてない』


 現代型侵食。


 暴力ではない。


 “自分で自分を壊す方向”へ誘導するタイプ。


 しかも。


 会社という閉鎖環境と最悪に相性が良い。


 遠汰は小さくため息を吐いた。


「人類、“失敗=存在価値否定”へ直結しやすいんですよね。特に新入社員期って、“社会へ居場所あるか”を脳が常時判定してるので、小さいミスでも終末感覚えやすい。あと日本社会、“迷惑かける恐怖”かなり強めに教育される傾向あります。ちなみにオオカミ、群れから孤立するとストレス値かなり上がるらしいです」


「雑学で追い詰めないで!」


 課長が叫ぶ。


 だが。


 その声で少しだけ空気が戻る。


 佐伯が涙を拭く。


「……すみません……」


 遠汰は彼女のPCを見る。


 数秒。


 キーボードを叩く。


 カタカタ。


「……あー、なるほど。自動同期ズレですね。クラウド側へ古い一時保存残ってます」


「え?」


「完全消失ではないです。あと人類、“全部終わった”と思った時ほど、実際にはまだ終わってないケース結構あります。脳って危機時、可能性より最悪側へ予測飛びやすいので。ちなみにハムスターもパニック時かなり視野狭くなるらしいです」


「最後にハムスターいる?」


 隣席の先輩が反射で突っ込んだ。


 数秒後。


 画面が戻る。


 フォルダ復元。


 資料一覧。


「あ……」


 佐伯の目が見開かれる。


「あ、ある……」


 フロア全体がざわつく。


「戻った!?」


「野部また何した!?」


 遠汰はコーヒーを飲む。


「一時保存拾っただけです」


 本当は違う。


 0.3秒だけ。


 “情報位相”へ触れた。


 消失しかけた認識を、現実側へ引き戻した。


 アインだけが静かに見ていた。


 佐伯は何度も頭を下げる。


「すみません……ありがとうございます……」


 その時。


 遠汰は少しだけ真面目な声で言った。


「……まあ、人類って普通にミスしますからね」


 フロアが少し静かになる。


「会社って、“失敗しない人”より、“失敗後まだ戻ってこれる人”の方が重要だったりするので。あと社会って、意外と“誰かが昔同じ失敗してる”パターン多いんですよ。だからマニュアルって、大体“先人類のやらかし記録集”なんです。ちなみに航空業界、安全マニュアルかなり“過去の地獄”積み重ねで出来てます」


「航空業界大変そうしか残らんし……」


 課長が疲れた顔で呟く。


 佐伯が少し笑った。


 本当に少しだけ。


 その瞬間。


 背後の黒い靄が薄れる。


 アインが静かに呟く。


「……侵食率低下」


「はい」


 遠汰は小さく頷いた。


「人類、“責められなかった”だけで戻る時あるので」


 アインは少し沈黙する。


 そして。


「……非合理的です」


「ええ」


 遠汰は笑った。


「でも人類って、“許された記憶”で結構長く生き延びるんですよ」


今日もなんだか平和だった。

人類という種族、案外「好きでした」の一言だけで数ヶ月くらい創作を継続できるので、Web小説文化って冷静に考えるとかなり不思議なんですよね。


 本来、物語制作ってめちゃくちゃコスト高いんです。


 時間。

 体力。

 睡眠。

 情緒。

 社会性。


 だいたい削られる。


 特に長編連載、“毎回ちょっとずつ脳を薪にして焚べ続ける行為”に近いので。しかも読者側から見えるのって完成した文章だけですが、裏では「この伏線前の話と矛盾してないか……?」「このキャラ今IQ下がってないか……?」みたいな会議が脳内で四六時中開催されている。


 つまり作者、“一人深夜デバッグ地獄”を永久周回してる場合があるんですよ。


 ですが現代文明は優秀なので。


 ブックマーク。

 評価。

 感想。


 という、“作者へ直接ドーパミンを届ける装置”を発明してしまった。


 これはかなり革命的です。


 昔の創作者、読者反応を知るまで数年掛かるとか普通でしたし。平安時代とか下手すると「ウケたのかよく分からんけど次書くか……」で進行していた可能性すらある。


 その点、現代Web小説文化。


 投稿十分後にPV見て情緒が上下する。


 文明速度が速すぎる。


 あと作者、「ブクマ一件増えた」を想像以上に見ています。MMORPGで低確率レア素材落ちた時くらい静かに喜んでる。たまに深夜三時に確認して、「……読んでる人いたんだ……」で急に次話の執筆速度が上がる。


 人類、わりと単純です。


 なので。


 もしこの物語が、

 あなたの人生の疲労デバフを数分でも軽減できていたなら。


 ブックマークや評価など頂けると、

 作者の現実接続率と創作継続確率が穏やかに上昇します。


 ちなみに創作者、「続きを待ってます」でHP全快する場合あります。


 生物としてだいぶ不安定ですね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ