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『境界断ちのノベェンタ』 〜観測整合維持局 第七補正執行室 野部遠汰の場合〜  作者: nobunobuwo


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第百二十五話 「“みんなで繋がる”は安心なんですが、“全部同じ感情”へ近づき過ぎると、文明は最終的に“自分で心を動かす方法”を忘れるので、優しさだけでも世界わりと壊れるんですよね」


 午前九時二分。



 東央マテリアル。


 営業企画部。


 始業直後。


 コピー機。


 キーボード。


 遠くの工場駆動音。


 平和だった。



 だが。


 営業企画部中央。


 ベルタリュオン中央維持局、緊急投影通信。


 白銀文字列。


【猫動画定期供給後】


【文明安定率・継続上昇】


【ノベェンタ定期訪問後】


【感情暴走率・大幅低下】


 さらに。


【供給停止シミュレーション】


【文明不安定化】


【感情波乱高下】


【旧同期依存状態へ回帰】


【予測期間】


【三年以内】



 佐伯、コーヒーを吹きそうになる。


「完全に依存症の診断結果じゃないですか!?」



 オリジン。


 淡々としていた。


『事実です』


『現在ベルタリュオン市民の七十八%が』


【ノベェンタ欠乏反応】


『を示しています』



 野村部長。


 胃を押さえる。


「栄養素みたいな扱いほんとやめてください……」



 アイン。


 静かに目を伏せる。


「……文明が、“外部感情供給”へ依存しています」



 ベルタリュオン。


 感情同期文明。


 この星最大の特徴。


 ベルタリュオン人達。


 全意識同期。


 惑星規模共有精神圏。


 誰か一人の感情が、星全体へ微弱伝播する。


 喜び。


 恐怖。


 戸惑い。


 安心。


 全部。



 繋がっている。


 それは本来。


 争いを減らすための、優しい文明だった。


 他人の痛みが分かる。


 孤独が薄れる。


 誰かの幸せを共有できる。



 だが。


 数百万年。


 長過ぎた。


 感情を共有し続けた結果。


 ベルタリュオン人達は、少しずつ。



 “自分一人の感情”を、作れなくなっていった。



 さらに。


 古代感情戦争。


 かつて。


 一人の怒りが、星全体へ伝播し。


 文明規模暴走が起きた。


 だから彼らは。


 “個”を恐れる。


 違いを恐れる。


 孤独を恐れる。



 そして。


 猫動画とノベェンタへ、安定を依存し始めていた。



 オリジンの声。


『現状維持が最も安全です』


『猫動画とノベェンタ観測官による定期安定供給を継続すべきと判断します』



 その時。


 ノベェンタ。


 静かにコーヒーを置いた。


 カタン。


「……それ、“生きてる”じゃなく、“停止しないよう延命してる”状態なので」



 空気が止まる。



 ノベェンタ。


 立体資料展開。


【感情自立化計画】


【個別人格循環再構築プロジェクト】



 佐伯。


 嫌な顔。


「また企画書長いですよね……?」



「百九十一ページです」



「増えてるぅぅぅ!!」



 しかも。


 図解。


 脚注。


 参考文献。


 謎の猫イラスト付き。



 ノベェンタは、普通に続ける。


「ベルタリュオン文明、“感情共有効率”を極限まで高めた結果、“個人感情生成能力”が弱体化してるんですよ。これ、人類史でいう“共同体依存による主体性喪失”とかなり近いです」



 資料切替。


【趣味】


【推し】


【違和感】


【孤独】


【自意識】


【個性】



「人類、“面倒な個体差”があるせいで争うんですが。その代わり、“自分だけの感情”が発生する。だから文化が増えるし、芸術も恋愛もオタク文化も発展するんですよ」



 さらに。


 ノベェンタ、止まらない。


「あと人類、“推し”見つけると生存効率関係なく人生頑張り始めるので。かなり意味不明なんですが、“誰かを好きになる”って、脳へ“明日も生きろ”って命令出す機能に近いんですよね。ちなみに古代ローマでも戦士達が推し剣闘士居たので、人類わりと昔から様子おかしいです」



 佐伯。


「急に世界史豆知識ぶち込まないでください!」



 リゼ。


 キラキラした顔。


「でも素敵ですよねぇ〜♡ “自分だけの好き”って、その人だけの宇宙ですもん♡」



 だが。


 その瞬間。


 ベルタリュオン通信網。


 激しく乱れる。


『個別感情……!?』


『危険です!!』


『また争いが始まる!!』


『古代感情戦争を繰り返すのですか!?』


 白銀空間。


 赤色ノイズ。


 同期暴走。


『違いは恐怖です!!』


『個は孤独を生みます!!』


『怖い!!』



 感情が、全員へ伝播する。



 恐怖。


 不安。


 混乱。


 一気感染。



 営業企画部の窓ガラスが、ビリビリ震え始めた。



 その時。


 紫煙。


 転送魔法陣。


 ぬるっと出現。


 スグドモール。


「やれやれでゴザル〜」


 巨大杖。


 紫色魔法陣展開。


「《超広域感情鎮静安定術式・モフモフヒーリングユニバース》でゴザル♡」



 ぽわぁぁぁぁ……。



 温泉みたいな、安心感。


 ベルタリュオン全域。


 少しずつ、安定。


『……落ち着いてきました』


『呼吸を忘れていました』


『なんか猫を撫でたいです』



 佐伯。


「毎回なんなんですかその癒し性能……」



 だが。


 ベルタリュオン人達。


 まだ震えていた。


『でも怖いのです』


『違えば争う』


『孤独になる』


『また傷つく』



 その時。


 ノベェンタ。


 立ち上がる。


 黒コート。


 灰色粒子。


 空気が変わる。


 バチッ。


 黒雷。


 天井照明が、一瞬だけ落ちる。



 そして。


 笑った。


「いや人類、普通に毎日揉めてますよ?」


 全員、止まる。


「ラーメン硬め派と柔らかめ派で空気悪くなりますし。“エアコン二十六度適温派”と“寒い派”の戦争、会社で毎年発生してます。あとSNS、“知らない人同士が急に怒り始める現象”かなり頻発してるので、地球文明わりと危ういです」



 佐伯。


「地球文明の嫌なリアル出さないでください!」



 だが。


 ノベェンタの声。


 少しだけ、優しかった。


「でも」


 灰色雷光。


 バチバチバチッ!!


「違うから、“あなたじゃなきゃ駄目”が生まれるんですよ」



 営業企画部。


 空間が、軋む。


 黒い粒子が、星空みたいに舞い始める。


 ノベェンタの背後。


 超巨大灰色魔法陣。


 無数の異世界文字列。


 さらに。


 歴代ラーメン湯気みたいな謎エネルギーまで噴出。



 佐伯。


「なんで必殺技の演出に生活感混ざってるんですか!?」



 ノベェンタ。


 完全に主人公モード。


「人類、“誰かと違う”から孤独になるんですけど」


 灰色光。


 銀河規模拡大。


「同時に、“誰かと違う”から、“この人じゃなきゃ駄目”も発生するんですよぉぉぉぉぉ!!!!」



 黒雷、爆発。


 ドゴォォォォォォォォォッ!!!!



 営業企画部の床、少し浮く。



 野村部長。


「毎回会社壊れそうになるのなんなんですかぁぁぁ!?」



 ノベェンタ、右手を掲げる。


 灰色宇宙。


 猫型銀河。


 量子文字列。


 社宅給湯室。


 全部混ざる。


「《超銀河個別感情自立循環型・“みんな違ってみんな面倒だけどそれでも推しと趣味と深夜コンビニがあるから人類なんだかんだ明日も生きていけるよね”インディビジュアル・コスモス・アルティメット・オーバードライブ・零式》!!!!」


挿絵(By みてみん)



 ギュォォォォォォォォォッ!!!!


 灰色光柱。


 ベルタリュオン感情同期網へ直撃。



 その瞬間。


 感情が、分かれる。


 猫好き。


 音楽好き。


 料理好き。


 昼寝好き。


 変な石集める人。


 意味なく遠回りする人。


 深夜にポテチ食べる人。


 観葉植物へ話しかける人。



 小さな違い。


 小さな“個”。



 だが。


 全部、美しかった。


 ベルタリュオン人達。


 戸惑いながら、周囲を見る。


『……隣の人と少し違う』


『でも』


『なんか面白い……?』


 オリジン。


 静かに解析。


【個別感情循環確認】


【自発的幸福生成反応確認】


【文明依存率・低下傾向】



 佐伯、目を見開く。


「成功してる……」



 アイン。


 少しだけ、笑った。


「……ベルタリュオンは、“生きる”を思い出し始めています」



 その時。


 ベルタリュオン通信窓。


 一人の市民が、震えながら言った。



『……私』


『今日から、盆栽やってみたいです』



 リゼ。


 キラキラした顔。


「いいですねぇ〜♡ “自分だけの小宇宙”って感じしますぅ♡」



 ノベェンタ。


 真顔。



「急に趣味が老成し過ぎなんですよね……」


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