表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『境界断ちのノベェンタ』 〜観測整合維持局 第七補正執行室 野部遠汰の場合〜  作者: nobunobuwo


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
121/183

第百二十一話 「人類は“誰かが居る部屋”へ帰るだけで、思った以上に精神を維持しています」


 午後九時四十分。



 高知県西部。


 夜。


 湿った潮風。


 遠くの波音。


 白い街灯。


 そして。


 少し広すぎる家。


 アインへ支給された、中古一軒家。


 デザイナー住宅。


 木製フローリング。


 吹き抜け。


 間接照明。


 観葉植物。


 離れ付き。


 妙にオシャレだった。



 佐伯は、リビング中央で止まる。


「……やっぱ広いですねここ」



 静かだった。


 いつもなら。


 ここにアインが居る。


 コーヒー。


 無音。


 静かな会話。


 意味不明な地球文化分析。



 だが今。


 広い。


 静かすぎる。



 佐伯は、ソファーへ座る。


 その瞬間。


 少しだけ理解した。


 “人が居た空間”って。


 居なくなると、空気ごと変わる。



 スマホ通知。


 ピコン。


【ベルタリュオン通信接続】


 立体窓。


 白銀光。


 アインが映る。


 背後。


 ベルタリュオン中央都市。


 白い塔。


 半透明街路。


 浮遊光粒子。


 幻想的だった。



 そして。


 アインの周囲。


 めちゃくちゃ人が居た。


【地球文化講義お願いします!!】


【“それな”とは!?】


【鍋料理共同体論もっと!!】


【ニャンベルタン動画第二弾!!】



 佐伯、思わず吹き出す。


「人気者すぎません?」



 アイン。


 少し困った顔。


「……感情同期網経由で、“地球文化が妙にエモい”と判断されています」



「エモい判定なんだ……」



「特に」



 アイン。


 少し真顔。


「“帰宅後、コンビニ袋を机へ置いてため息を吐く会社員映像”の反響が大きいです」



 佐伯。


 止まる。


「そんなの共有したんですか!?」



「ベルタリュオン側、“疲れた状態でも生き続ける人類”へ強い興味を示しています」



「文明研究対象みたいに言わないでください!」



 その時。


 通信奥。


 ベルタリュオン人達。


 ざわつく。


【サエキ!!】


【伝説級ツッコミ個体!!】


【アイン精神安定要因!!】



 佐伯。


 真顔。


「なんか私まで神格化され始めてません?」



 その瞬間。


 画面奥。


 スグドモールが滑り込んできた。


 半透明エルフ。


 長耳。


 ボサボサ銀髪。


 しかも。


 何故か号泣していた。


『さ、佐伯殿ぉぉぉ!!』


『つ、ツッコミとは……!!』


『こ、ここまで文明を支える概念だったのでごじゃるかぁぁぁ!!』



 佐伯。


 頭抱える。


「また変な方向へ行ってる!!」



 スグドモール、高速念話。


『べ、ベルタリュオンでは長年、“否定しない文化”が強すぎたのでごじゃる!!』


『だ、だから適切なツッコミによる“優しい軌道修正”概念が革命級なのでごじゃる!!』


『つ、つまり佐伯殿は感情文明安定装置!!』



 佐伯。


 遠い目。


「ツッコミへ文明レベルの意味付けしないでください……」



 だが。


 少しだけ笑った。


 なんだかんだ。


 アインが向こうで、ちゃんと居場所作っている。


 それが。


 少し嬉しかった。



 その時。


 アイン。


 ふと静かになる。


 背後の歓声。


 白銀都市。



 でも。


 その灰色の視線だけが、静かに佐伯を見る。


「……そちらは」



「はい?」



「家、問題ありませんか」



 佐伯、少し止まる。


 そして。


 少し笑った。


「……静かですね」



 アイン。


 止まる。



 佐伯は、リビングを見る。


 広いソファー。


 コーヒーカップ。


 観葉植物。


 吹き抜け。


 生活感。


 でも。


 やっぱり。


 居ない。



「なんか」


「アインさん居るの、普通になってたみたいです」



挿絵(By みてみん)



 静かな声だった。


 ベルタリュオン。


 歓声。


 でも。


 アインの周囲だけ、少し静かになる。


 アインは。


 初めて理解していた。



 “帰る場所がある感覚”。



 ベルタリュオンでは。


 全員が繋がっていた。


 だから。


 孤独は少ない。


 でも逆に。


 “誰か一人に待たれる感覚”も、存在しなかった。



 胸の奥。


 妙な熱。


 理解不能。



 だが。


 嫌ではない。



 アインは、小さく息を吐く。


「……こちらでも」


「サエキの不在感覚、報告されています」



 佐伯。


「えっ」


「ベルタリュオン人、“ツッコミ不足”で少し情緒不安定化しました」



 佐伯、吹き出す。


「なんなんですかその文明!!」



 だが。


 笑った瞬間。


 少しだけ。


 寂しさが、薄くなった。



 アインはそれを見る。


 そして。


 静かに言った。


「……あと二十七日です」



 佐伯。


 止まる。



 アイン。


 ほんの少しだけ。


 柔らかく笑った。


「ちゃんと、“ただいま”と言いに戻ります」



 その瞬間。


 佐伯の胸が。



 少しだけ、苦しくなるくらい熱くなった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ