第百二十一話 「人類は“誰かが居る部屋”へ帰るだけで、思った以上に精神を維持しています」
午後九時四十分。
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高知県西部。
夜。
湿った潮風。
遠くの波音。
白い街灯。
そして。
少し広すぎる家。
アインへ支給された、中古一軒家。
デザイナー住宅。
木製フローリング。
吹き抜け。
間接照明。
観葉植物。
離れ付き。
妙にオシャレだった。
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佐伯は、リビング中央で止まる。
「……やっぱ広いですねここ」
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静かだった。
いつもなら。
ここにアインが居る。
コーヒー。
無音。
静かな会話。
意味不明な地球文化分析。
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だが今。
広い。
静かすぎる。
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佐伯は、ソファーへ座る。
その瞬間。
少しだけ理解した。
“人が居た空間”って。
居なくなると、空気ごと変わる。
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スマホ通知。
ピコン。
【ベルタリュオン通信接続】
立体窓。
白銀光。
アインが映る。
背後。
ベルタリュオン中央都市。
白い塔。
半透明街路。
浮遊光粒子。
幻想的だった。
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そして。
アインの周囲。
めちゃくちゃ人が居た。
【地球文化講義お願いします!!】
【“それな”とは!?】
【鍋料理共同体論もっと!!】
【ニャンベルタン動画第二弾!!】
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佐伯、思わず吹き出す。
「人気者すぎません?」
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アイン。
少し困った顔。
「……感情同期網経由で、“地球文化が妙にエモい”と判断されています」
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「エモい判定なんだ……」
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「特に」
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アイン。
少し真顔。
「“帰宅後、コンビニ袋を机へ置いてため息を吐く会社員映像”の反響が大きいです」
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佐伯。
止まる。
「そんなの共有したんですか!?」
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「ベルタリュオン側、“疲れた状態でも生き続ける人類”へ強い興味を示しています」
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「文明研究対象みたいに言わないでください!」
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その時。
通信奥。
ベルタリュオン人達。
ざわつく。
【サエキ!!】
【伝説級ツッコミ個体!!】
【アイン精神安定要因!!】
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佐伯。
真顔。
「なんか私まで神格化され始めてません?」
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その瞬間。
画面奥。
スグドモールが滑り込んできた。
半透明エルフ。
長耳。
ボサボサ銀髪。
しかも。
何故か号泣していた。
『さ、佐伯殿ぉぉぉ!!』
『つ、ツッコミとは……!!』
『こ、ここまで文明を支える概念だったのでごじゃるかぁぁぁ!!』
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佐伯。
頭抱える。
「また変な方向へ行ってる!!」
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スグドモール、高速念話。
『べ、ベルタリュオンでは長年、“否定しない文化”が強すぎたのでごじゃる!!』
『だ、だから適切なツッコミによる“優しい軌道修正”概念が革命級なのでごじゃる!!』
『つ、つまり佐伯殿は感情文明安定装置!!』
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佐伯。
遠い目。
「ツッコミへ文明レベルの意味付けしないでください……」
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だが。
少しだけ笑った。
なんだかんだ。
アインが向こうで、ちゃんと居場所作っている。
それが。
少し嬉しかった。
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その時。
アイン。
ふと静かになる。
背後の歓声。
白銀都市。
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でも。
その灰色の視線だけが、静かに佐伯を見る。
「……そちらは」
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「はい?」
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「家、問題ありませんか」
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佐伯、少し止まる。
そして。
少し笑った。
「……静かですね」
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アイン。
止まる。
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佐伯は、リビングを見る。
広いソファー。
コーヒーカップ。
観葉植物。
吹き抜け。
生活感。
でも。
やっぱり。
居ない。
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「なんか」
「アインさん居るの、普通になってたみたいです」
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静かな声だった。
ベルタリュオン。
歓声。
でも。
アインの周囲だけ、少し静かになる。
アインは。
初めて理解していた。
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“帰る場所がある感覚”。
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ベルタリュオンでは。
全員が繋がっていた。
だから。
孤独は少ない。
でも逆に。
“誰か一人に待たれる感覚”も、存在しなかった。
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胸の奥。
妙な熱。
理解不能。
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だが。
嫌ではない。
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アインは、小さく息を吐く。
「……こちらでも」
「サエキの不在感覚、報告されています」
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佐伯。
「えっ」
「ベルタリュオン人、“ツッコミ不足”で少し情緒不安定化しました」
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佐伯、吹き出す。
「なんなんですかその文明!!」
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だが。
笑った瞬間。
少しだけ。
寂しさが、薄くなった。
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アインはそれを見る。
そして。
静かに言った。
「……あと二十七日です」
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佐伯。
止まる。
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アイン。
ほんの少しだけ。
柔らかく笑った。
「ちゃんと、“ただいま”と言いに戻ります」
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その瞬間。
佐伯の胸が。
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少しだけ、苦しくなるくらい熱くなった。
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