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『境界断ちのノベェンタ』 〜観測整合維持局 第七補正執行室 野部遠汰の場合〜  作者: nobunobuwo


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第百十九話 「人類、“誰かと一緒にゆっくりする時間”へ想像以上に救われるので、恋愛感情は『刺激』より『安心』から始まる事もかなり多いです」


 午前五時十八分。



 高知県西部。


 山奥。


 《月山リトリートヴィレッジ》。


 朝霧。


 杉の香り。


 川音。


 遠くで鳥が鳴く。


 木製デッキ。


 ヨガマット。


 朝日が、山の向こうからゆっくり昇っていた。



 ノベェンタは、静かに座っていた。


 裸足。


 深呼吸。


 スマホ無し。


 通知無し。


 世界が、静かだった。



 リゼが、隣でゆっくり呼吸する。


「吸って〜」


「吐いて〜」



 朝の空気が、肺へ入る。


 妙に落ち着く。



挿絵(By みてみん)



 ノベェンタは、空を見る。


 雲。


 光。


 風。


 何も起きない。


 世界が崩壊しない。


 外側も来ない。


 宇宙文明も無い。



 ただ。


 朝だった。



「……人類、“何も起きない時間”を贅沢だと思える時、ちょっと回復してるので。現代、“刺激”多過ぎて脳が常時戦闘状態なんですよ」



 リゼ、柔らかく笑う。


「野部君、ずっと修正してたものね」



 ノベェンタ、少し黙る。


 ベルタリュオン。


 外側。


 多世界人格。


 色んなものを、背負い過ぎていた。



 リゼは、静かに隣へ座る。


「“頑張り続けないと価値が無い”って、思い込みやすいのよね」


「でも本当は」


「ぼーっと空見てるだけでも、人は存在してていいの」



 風。


 朝日。


 静かな時間。



 ノベェンタ。


 少しだけ、力が抜ける。


「……人類、“救われた瞬間”って、派手な奇跡より“誰かが隣で呼吸合わせてくれる時”だったりするので」



 リゼ。


 少し驚いて。


 そして。


 嬉しそうに笑った。


「それ、かなり大事な感覚よ」



 ノベェンタは、静かにリゼを見る。



 朝日が、彼女の髪を透かしていた。


 柔らかい。


 暖かい。


 そして。


 妙に安心する。


 ノベェンタ、少しだけ視線を逸らす。


「……人類、“安心出来る相手”へわりと簡単に感情揺れるので」



 リゼ。


 一瞬だけ止まる。


 だが。


 何も言わず、少しだけ笑った。




 一方その頃。


 東央マテリアル第二社宅。



 野村部長の部屋。


 昼。


 カーテン閉鎖。


 机。


 魔法陣。


 ノート。


 お笑い芸人動画。


 スグドモール。


 完全にハマっていた。


【なるほどでゴザル……】


【“ボケを放置すると空気が死ぬ”】


【つまりツッコミとは文明維持……】


 超高速メモ。


【わかりみが深い】


【いやそれは違うのでゴザル】


【急に何言ってるでゴザルか】


【空気読むのでゴザル】


 部長、目を輝かせる。



「師匠!!」


「最近めちゃくちゃ理解速度上がってません!?」



 スグドモール。


 真顔。


【わかりみがすぎるでゴザル】



 部長。


 感動。


「現代適応してるぅぅぅぅ!!」



 その時。


 テレビ。


 芸人。


『なんでやねん!!』


 スグドモール。


 立ち上がる。


【速い!!】


【否定速度が速いでゴザル!!】


【これが高等ツッコミ術式……!!】


 完全に研究者の目だった。




 一方その頃。


 地方都市郊外。


 築浅中古デザイナー住宅。


 夕方。


 キッチン。


 アイン。


 真剣な顔で、説明書を読んでいた。


 家具組み立て。



 だが。


 ネジが余っている。



 佐伯、苦笑。


「アイン先輩、絶対説明書全部読んでからやるタイプですよね」



 アイン。


 真顔。


「当然です」


「合理性が高い」



 その瞬間。


 棚。


 グラッ。


 崩壊。



「……何故ですか」



 佐伯、吹き出す。


「ネジ余ってるからですよ!!」



 夕方の家。


 笑い声。


 静かな生活音。



 アインは、少しだけ止まる。


 ……心地良かった。



 その後。


 スーパー。


 買い物カゴ。


 夕飯材料。


 佐伯が野菜を見る。



 アインが真剣に豆腐を選ぶ。



「……アイン先輩、豆腐そんな真剣に見ます?」


「品質差があります」


「あと地球の豆腐文化、かなり奥深い」



 佐伯、笑う。



 普通だった。


 あまりにも普通。


 でも。


 その普通が、妙に楽しかった。



 夜。


 離れ。


 木の匂い。


 間接照明。


 組み立て途中の家具。


 窓の外。


 虫の声。



 佐伯、床へ座る。


「……なんか」


「ここ落ち着きますね」



 アイン。


 少し黙る。


 そして。


 ぽつり。


「……佐伯主任が居るからです」



 佐伯、完全停止。



 アイン。


 自分で言って、止まる。


 耳。


 赤い。


「……違います」


「空間設計の話です」


「木材反響率」


「照明色温度」


「心理的安心感」


 早口。



 佐伯、顔真っ赤。


「だから誤魔化す時だけ説明多いんですよ!!」



 静かな夜。



 アインは、少しだけ笑った。



 ベルタリュオンでは、無かった表情だった。


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