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『境界断ちのノベェンタ』 〜観測整合維持局 第七補正執行室 野部遠汰の場合〜  作者: nobunobuwo


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第百十七話 「異世界帰還というものは“世界を救った直後でも普通に会社へ戻される”ので、主人公補正より先に社会性が試されます」


 午後六時四十二分。



 東央マテリアル。


 本社工場。


 営業企画部横。


 給湯室。


 古い電気ポット。


 微妙に湿った床。


 誰かの置きっぱなしマグカップ。


 インスタント味噌汁の匂い。



 そして。


 空間が裂けた。


 ビキィィィィ……。


 黒い量子文字列。


 紫電。


 ラメ。


 完全に会社で出していいエフェクトではない。


 給湯室中央。


 黒い裂け目から、ノベェンタが出てきた。


 白銀粒子。


 黒外套。


 紫色因果波。


 ベルタリュオン帰還直後なので、主人公オーラがまだ漏れている。



 しかし。


 次の瞬間。


 チーン♪


 電子レンジ終了音。


 現実。


 ノベェンタ、静かに頷く。


「……人類、“壮大な冒険後に日常音聞く”と急に現実戻るので。RPG後半でコンビニ入った時みたいな感覚あるんですよ」



 佐伯、即ツッコミ。


「いやその帰還方法やめてください!! 給湯室が異世界転移ポイントになってるんですよ!!」



 その時。


 裂け目。


 まだ閉じない。


 嫌な沈黙。



 ノベェンタ、察する。


「……あ」



 次の瞬間。


 ドゴォォォォン!!


 紫煙。


 爆発。


 給湯室棚崩壊。


「ど、どどどどどどどどどどぉぉぉぉ!!」


 転がり出てきた。


 スグドモール。


 しかも。


 給湯室の床で盛大に滑る。


「ぬぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 頭からゴミ箱へ突っ込む。



 佐伯、遠い目。


「……なんで来てるんですか」



 スグドモール、ゴミ箱から起き上がる。


 しかし。


 念話。


 超高速。


【拙者も原因不明で位相同期してしまったのでゴザルゥゥゥゥ!!!!!】



「原因不明で異世界来ないでください!!」



 その時。


 給湯室入口。


 ガチャ。


 現れたのは。


 野村部長。


 両手に、自家焙煎コーヒーセット。



 部長。


 スグドモールを見る。


 ローブ。


 杖。


 長耳。


 紫魔法陣。


 完全に。


 魔導師。



 部長。


 震える。


「…………本物?」



 スグドモール、超真顔。


【本物でゴザル?】



 部長。


 カップ落とす。


「魔法使いだぁぁぁぁぁぁ!!!!」



 五分後。



 何故か。


 営業企画部休憩スペース。


 コーヒー。


 異世界魔導師。


 ツッコミ講座。


 意味不明空間が完成していた。



 スグドモール。


 佐伯へ土下座。


【佐伯殿!!】


【拙者へツッコミ道を伝授して欲しいでゴザルゥゥゥ!!】



 佐伯、頭抱える。


「だからなんなんですかその“ツッコミ道”ってぇ!!」



 スグドモール、超真剣。


【ツッコミとは!!】


【暴走概念を現実へ固定する高等認識制御術式!!】


【即時状況修正能力!!】


【文明維持級技術でゴザル!!】



 佐伯、泣きそう。


「違いますよぉ!! ただの苦労人体質ですってば!!」



 その横。


 野村部長。


 目がキラキラしていた。


「……あの」


「私も」


「弟子入りできます?」



 全員。


 止まる。



 部長、超真剣。


「昔から魔法使いになりたかったんです」


「あと最近、自家焙煎やってると“火属性適性”感じるので」



 佐伯、崩れる。


「部長まで何言ってるんですかぁぁぁ!!」



 スグドモール。


 野村部長を見る。


 長い沈黙。


 そして。


【……素質ある目をしてるでゴザル】



 部長。


 感動。


「本当ですか!?」



 ノベェンタ、静かにコーヒー飲む。


「人類、“中年になってから突然ファンタジー適性目覚める”ケースわりとあるので。盆栽、キャンプ、革細工、自家焙煎。“自分だけの世界観”作り始める時期なんですよ」



 佐伯、即ツッコミ。


「魔法使いと趣味を同列にしないでください!!」



 その時。


 スグドモール。


 ふと。


 真顔になる。


【……ノベェンタ殿】


【少し】


【二人で話したいでゴザル】



 空気が変わる。



 ノベェンタも、静かに頷く。



 数分後。


 工場屋上。


 夜。


 巨大配管。


 蒸気。


 工場夜景。


 赤い警告灯。


 遠くで、大型機械の低い駆動音。



 スグドモールは、夜空を見上げていた。


 珍しく。


 静かだった。


【……ノベェンタ殿】


【拙者】


【怖いのでゴザル】



 ノベェンタ、黙って聞いている。



 スグドモールの杖。


 紫色の光。


 空間へ、複雑な魔法陣が展開される。


 未来観測術式。


 時間波動。


 因果線。


 そして。


 映る。


 黒い宇宙。


 無数の“ノベェンタ”。


 崩壊。


 侵食。


 人格分裂。


 境界消失。


 世界線融合。


 感情暴走。



 そして。


 巨大な“何か”。


 人型。



 だが。


 顔が、無数。


 全部。


 ノベェンタだった。


挿絵(By みてみん)



 スグドモール、震える。


【ノベェンタ殿は】


【世界線へ愛され過ぎているのでゴザル】


【普通の生命体は】


【そんな大量の可能性を受け止められない】


 魔法陣。


 さらに変化。


 ノベェンタの周囲へ、大量の人格残滓。


 増えていく。


 増え続ける。



【いずれ】


【“どれが本当の自分か”】


【わからなくなる可能性があるでゴザル】



 工場夜景。


 蒸気。


 静かな夜。



 ノベェンタは、しばらく黙っていた。


 そして。


 少し笑う。


「……人類、“色んな自分”抱えながら生きてるので」


 夜風。


 黒外套が揺れる。


「会社の自分。友達の前の自分。一人の時の自分。昔の自分。理想の自分。“本当の自分”って、多分最初から一個じゃないんですよ」



 スグドモール。


 止まる。



 だが。


 ノベェンタは、静かに空を見る。



 その目だけは。



 少しだけ、遠かった。


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