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『境界断ちのノベェンタ』 〜観測整合維持局 第七補正執行室 野部遠汰の場合〜  作者: nobunobuwo


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第百十五話 「文明というものは“便利なシステム”だけでは維持できず、最後は『誰かが居てくれると安心する』という感情へ回帰します」


 ベルタリュオン星。



 中央観測統合城塞オリジン・コア


 都市中央。


 空へ突き刺さる、超巨大白銀構造体。


 塔ではない。


 都市そのものだった。


 大陸規模。


 幾重にも重なる空間層。


 無数の浮遊回廊。


 白銀の情報粒子。


 空中を流れる感情波動。



 そして。


 この星最大の特徴。


 ベルタリュオン人達。


 全意識同期。


 惑星規模共有精神圏。



 誰か一人の感情が、星全体へ微弱伝播する。



 喜び。


 恐怖。


 戸惑い。


 安心。


 全部。


 繋がっている。


 だから。


 今。


 惑星全域が、ざわついていた。


【ノベェンタ来訪】


【感情波異常増加】


【未知】


【安心感】


【うるさい】


【でも気になる】



 ノベェンタは、白銀回廊を歩いていた。


 長い外套。


 黒い粒子。


 紫電。


 足元へ広がる黒い因果波紋。


 通るたび。


 白銀建築群へ、黒いラメみたいな光が反射する。



 ベルタリュオン人達。


 立ち止まる。


 半透明の肌。


 銀色の長耳。


 淡く光る瞳。


 その視線が、全部ノベェンタへ集まっていた。


 惑星全域へ、感情波が伝播する。


【高濃度感情固定体】


【存在感強すぎ】


【何故か安心】


【少しうるさい】


【だが嫌ではない】



 ノベェンタは、静かに周囲を見る。


「……人類、“街全体が自分を見てる”状況かなり苦手なんですが、同時に“主人公感”へ妙なテンション上がる生物でもあるので。文化祭ステージとか表彰式とか、“うわ恥ずかしい”と“ちょっと気持ちいい”同時発生しがちなんですよ」



 佐伯の通信窓。


 即ツッコミ。


「そんなテンションで異星文明の中心歩かないでください!!」



 だが。


 その瞬間。


 惑星全域。


 感情波が、少しだけ跳ねた。


【ツッコミ】


【安定感】


【なるほど】


【この役割重要】



 佐伯。


 青ざめる。


「なんで私まで惑星規模で解析されてるんですかぁぁぁ!?」



 スグドモール。


 横で超真剣。


 メモ取ってる。


【なるほどでゴザル】


【“即時現実補正型感情制御”】


【高度過ぎるでゴザル】



「ち、違いますってぇぇぇ!!」



 その時。


 巨大白銀門。


 開く。


 ゴゴゴゴゴ……。


 内部。


 光の海だった。


 床が無い。


 壁が無い。


 重力方向すら曖昧。


 宇宙そのものみたいな、超高次空間。


 白い粒子。


 無数。


 星空みたいに漂っている。



 そして。


 中央。


 巨大な存在。


 白銀の長髪。


 半透明の身体。


 幾重にも重なる光輪。


 惑星そのものみたいな、圧倒的存在感。


 オリジン。


 ベルタリュオン文明統合観測体。


 惑星意識核。


 その瞳が、静かにノベェンタを見る。


 瞬間。


 惑星全域。


 感情同期。


 静止。


【最高位観測開始】


 ノベェンタの外套が、ふわりと揺れた。


 黒い量子文字列。


 紫電。


 光の海へ、黒い波紋が広がっていく。


 オリジン。


 静かに語る。


「……ノベェンタ」


「あなたの存在により、ベルタリュオン全域の感情波安定率が上昇しています」


「感情同期網の揺らぎが減少」


「生体維持率向上」


「精神崩壊率低下」


「確認されました」



 そして。


 オリジンの瞳が、少しだけ揺れる。


「……ですが」


「問題があります」


 空間全域へ、白い情報波が流れる。


 大量の波形。


 DNA構造。


 感情共鳴率。


 世界線適合数値。


 ノベェンタ周囲へ、立体投影されていく。


「現在の安定化は」


「ノベェンタ、あなた自身を中心に成立しています」


「つまり」


「あなたが居なくなれば、再び崩壊は始まる」


 ベルタリュオン全域。


 感情波が揺れる。


【不安】


【拒絶恐怖】


【帰ってしまう】



 アイン。


 静かに目を閉じた。


 理解していた。


 結局。


 “適性個体”が必要。


 それが、ベルタリュオン側の結論だった。



 オリジン。


 静かに続ける。


「……願います」


「ノベェンタ」


「ベルタリュオンへ、定住を」


 惑星全域。


 静止。


 誰も、声を出せない。



 佐伯ですら、黙っていた。



 ノベェンタは、少しだけ空を見上げる。


 三つの衛星。


 白銀都市。


 感情同期文明。


 静かな滅びへ向かっていた星。


 そして。


 今。


 少しずつ、熱を取り戻し始めている。


 ノベェンタは、静かに笑った。


「……いや」


「普通に無理ですね」



 全員。


 停止。



 ノベェンタは、あっけらかんとしていた。


「人類、“住み慣れた場所”への愛着かなり強いので。コンビニ位置とか通勤ルートとか、冷蔵庫開けた時の安心感とか。“日常”ってわりと魂へ根付いてるんですよ」



 佐伯。


 少しだけ、安心した顔。



 アインも、静かに目を開く。



 だが。


 ノベェンタ。


 続けた。


「でも」


 黒い粒子。


 ふわり。


「一回シフト成功してるので。“通う”くらいなら普通に出来ますよ」



 静寂。


 そして。


 惑星全域。


 感情波、一斉爆発。


【えっ】


【来る】


【また来る】


【定期訪問!?】


【嬉しい】


【何故か安心】


 ベルタリュオン全域へ、初めて“歓声”みたいな感情波が広がる。



 オリジン。


 少しだけ。


 本当に少しだけ。


 笑った。


「……理解しました」


「それでも」


「十分です」



 その横。


 スグドモール。


 突然。


 佐伯へ向かって土下座。


【佐伯殿ォォォォォ!!!!】



 佐伯。


「またですか!?」


【拙者を弟子入りさせて欲しいでゴザルゥゥゥゥ!!!!!】



「はぁ!?」



挿絵(By みてみん)



 スグドモール。


 超真剣。


【ノベェンタ殿の暴走妄想を即時補正しつつ感情波を安定化させるその技術!!】


【あれこそ真の高等魔導技術でゴザル!!】


【ツッコミ道を学ばせて欲しいでゴザルゥゥゥ!!】



 ベルタリュオン人達。


 一斉同期。


【ツッコミ】


【高度文化】


【重要技術】


【なるほど】



 佐伯、頭抱える。


「なんで異星文明でツッコミが神聖技術扱いされてるんですかぁぁぁぁ!!!」


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