第百十三話 「主人公覚醒演出というものは“理屈で勝てない状況”になった瞬間、人類が『もう雰囲気で押し切るしかねぇ!!』を極限まで美しくした文化です」
ベルタリュオン星。
⸻
第七白層都市。
空。
崩壊。
黒い裂け目が、恒星みたいに脈動していた。
都市上空を覆う、巨大外宇宙侵食存在。
無数の眼。
無数の触腕。
無数の感情捕食器官。
それは。
“生物”というより。
宇宙規模の災害だった。
白銀都市群。
崩壊進行。
重力制御塔、点滅。
空中庭園、落下。
感情同期波動網、不安定化。
ベルタリュオン人達の半透明な身体が、恐怖で揺らいでいる。
【感情制御限界】
【波動維持困難】
【存在崩壊率上昇】
都市全域へ、絶望が広がり始める。
⸻
その中心。
浮遊歩道。
ノベェンタだけが、静かだった。
黒い外套。
白銀都市の光を吸い込むみたいに、裾が揺れている。
その周囲。
黒い量子文字列。
紫電。
粒子。
感情波。
空間そのものが、ノベェンタ中心に歪み始めていた。
⸻
佐伯の半透明通信窓。
震えながら叫ぶ。
「ノベェンタさん!! アレほんとにヤバいやつですってぇぇぇ!!」
⸻
ISS。
無重力空間。
アインも、珍しく強い声を出す。
「ノベェンタ統括!! 撤退を!!」
⸻
だが。
ノベェンタは、静かに笑った。
「人類、“逃げた方が正しい状況”で前出る奴を主人公認定しがちなので」
⸻
その瞬間。
黒い眼。
一斉開眼。
【高濃度感情固定体】
【捕食開始】
宇宙が、落ちてきた。
巨大触腕。
空間を砕きながら、ノベェンタへ降下。
衝撃波。
白銀都市群の端が吹き飛ぶ。
⸻
しかし。
ノベェンタ。
動かない。
ただ。
黒剣を、ゆっくり持ち上げる。
【因果同期開始】
【観測位相固定】
【多世界人格共鳴】
瞬間。
都市全域。
空気が変わる。
重力方向が、捻れる。
白銀粒子が、空中へ浮かび始める。
⸻
ベルタリュオン人達。
息を呑む。
⸻
ノベェンタ背後。
無数の“影”。
立っていた。
剣士。
魔導師。
学生。
サラリーマン。
勇者。
泣いてる誰か。
笑ってる誰か。
⸻
他世界線人格。
⸻
融合残滓。
ノベェンタという人格を形成した、無数の“人生”。
黒い外套が、宇宙みたいに広がる。
⸻
佐伯。
震える声。
「……なに、あれ……」
⸻
スグドモール。
顔面蒼白。
【ま、まままままま待つでゴザル】
【多世界人格同期率おかしいでゴザル】
【普通そんな融合したら発狂するでゴザルよ!?】
⸻
ノベェンタは、静かに前へ出る。
足元。
空間へ、黒い波紋。
一歩ごとに。
世界が、書き換わる。
「人類、“自分一人じゃない”感覚へ異常に救われる生物なので。誰かの言葉。物語。歌。記憶。全部、“もう一人の自分”として内部へ蓄積される。つまり人格、“単独存在”じゃなく“観測された他者の集合”なんですよ」
⸻
外側存在。
咆哮。
宇宙が軋む。
【理解不能】
【個体境界曖昧】
【異常】
【危険】
⸻
その瞬間。
ノベェンタの黒剣。
変形開始。
黒い量子文字列が、剣身から溢れ出す。
紫電。
ラメみたいな星粒子。
空間へ巨大魔法陣。
いや。
違う。
銀河そのものだった。
恒星軌道。
重力線。
因果波形。
感情流体。
全部。
黒剣周囲へ展開されていく。
【対外側統括監査責任者権限】
【深層妄想領域解放】
【概念現実侵食開始】
⸻
ベルタリュオン人達。
完全停止。
理解不能だった。
妄想。
イメージ。
感情。
それだけで。
現実を書き換えている。
⸻
ノベェンタは、静かに呟く。
「魔法使い、“偶然”嫌う文化あるので。“成功するイメージ”を極限まで固定して、“失敗する世界線”を認識から除外する。つまり魔法、“現実へ妄想押し付ける技術”なんですよ」
⸻
次の瞬間。
黒い触腕。
襲来。
だが。
ノベェンタの背後。
無数の人格残滓が、一斉に動く。
剣。
魔法。
祈り。
怒号。
涙。
笑い。
全部。
黒剣へ収束。
都市全域。
白銀光が、黒へ染まる。
しかし。
恐ろしく美しい。
黒い銀河。
紫色の雷。
感情波が、オーロラみたいに空を覆う。
⸻
ノベェンタ。
黒剣交差。
⸻
「《多世界統合妄想因果超越型終焉観測術式・ネオアカシック・アブソリュート・ブラックギャラクシー・オーバーロード・エモーション・ノヴァ》」
⸻
発動。
瞬間。
宇宙が、一度静止した。
そして。
黒い斬撃。
銀河規模。
空を横断。
⸻
外側存在。
断裂。
眼。
崩壊。
触腕。
蒸発。
黒い宇宙そのものへ、巨大な亀裂が走る。
【理解不能】
【何故感情で現実改変可能】
【何故妄想が物理干渉を】
⸻
ノベェンタは、静かに言った。
「人類、“本気で信じた物語”へ現実側が引っ張られる瞬間あるので」
⸻
外側存在。
崩壊。
断末魔。
宇宙全域へ、感情波が弾け飛ぶ。
⸻
そして。
静寂。
⸻
白銀都市。
崩壊停止。
空。
ゆっくり晴れていく。
三つの衛星光が、再び都市を照らした。
⸻
ベルタリュオン人達。
誰も、動けなかった。
⸻
スグドモール。
膝から崩れる。
【む、無茶苦茶でゴザルゥゥゥゥゥ……】
⸻
佐伯。
涙目。
「そっち行っても相変わらずの必殺技名ぃぃぃぃ!!!」
⸻




