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『境界断ちのノベェンタ』 〜観測整合維持局 第七補正執行室 野部遠汰の場合〜  作者: nobunobuwo


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第百十二話 「宇宙文明というものは“便利になれば感情を使わなくて済む”方向へ進化しがちなのですが、最終的に感情を失った文明はだいたい最後に『なんか虚無では?』へ到達します」


 ベルタリュオン星。



 第七白層都市イルミナ・セレス


 夜。


 いや。


 この星に、“夜”という概念は半分しか存在しない。


 上空。


 三つの衛星。


 巨大環状軌道都市。


 大気圏外を漂う、半透明の情報海。


 空そのものが、薄く発光していた。


 白銀色。


 淡い紫。


 青白い波動光。


 都市全体が、巨大な神経細胞みたいに脈動している。


 塔。


 空中庭園。


 重力反転歩道。


 空を泳ぐ輸送艇。


 ガラスではない、“記憶結晶”で構成された超高層建築群。


 建物表面には、感情同期波形が流れていた。


 喜び。


 安堵。


 思考。


 文明全体で、感情ノイズを均一化している。



 それが。


 ベルタリュオン文明。



 だが今。


 その美しい都市景観の上空へ。


 巨大な“黒”が広がっていた。


 宇宙が、腐っているみたいだった。


 黒い眼。


 無数。


 空の裂け目奥。


 こちらを覗いている。


 都市全域へ警報波動が流れる。


【外宇宙侵食存在接近】


【波動位相汚染率上昇】


【感情同期維持困難】



 ベルタリュオン人達。


 半透明の肌。


 淡く発光する銀色の長耳。


 ガラス細工みたいな身体。


 だが。


 その内部を流れる光が、不安定になっていた。



 ノベェンタは、都市中央の浮遊歩道へ立っていた。


 眼下。


 数千メートル下。


 光の海。


 空中を泳ぐ交通群。


 情報粒子。


 遠くでは、空間折り畳み型転送ゲートが脈動している。


 風は無い。


 だが。


 空間そのものが、呼吸していた。


 ノベェンタは、静かに呟く。


「……人類、“未来都市”想像すると何故か空飛ぶ車とネオン増やしがちなんですが、実際文明進むほど“情報そのものが景観化”する可能性高いんですよ。SNS通知も広告も感情誘導も全部視覚化されるので。つまり高度文明、“景色”そのものが精神状態へ干渉してくる」



 佐伯の半透明ウインドウ。


 ノベェンタ横へ、ぴょこんと浮かぶ。


「いや解説してる場合ですか!?」



 アインの通信窓も開く。


 ISS内部。


 無重力空間。


 青い地球。


 その景色を背に、アインは静かに言う。


「……ベルタリュオンでは、文明進化と共に“感情処理”を効率化し続けました」


「怒りを抑える」


「悲しみを均一化する」


「衝突を減らす」


「不安を同期する」


「結果、“苦しまない文明”は完成しました」


「ですが」


 少しだけ。


 アインの瞳が揺れる。


「……熱も減っていった」



 遠く。


 巨大軌道リングが、空を横切る。


 白い流星みたいだった。



 ノベェンタは、その光景を見上げる。


「人類、“傷つきたくない”方向へ進化すると、最終的に“感情動かない方が安全”へ到達しがちなので。でも感情、“面倒”と“生きてる感覚”がセットなんですよ。だから文明進みすぎると、逆に“刺激”欲しがる」



 佐伯。


 静かに聞いている。



 ノベェンタは続けた。


「ゲーム配信。ホラー映画。ジェットコースター。恋愛。スポーツ観戦。人類、“安全圏から感情揺さぶられたい”欲求かなり強い。つまり感情、“消す対象”じゃなく、“適度に揺れる必要がある器官”寄りなんですよ」



 その瞬間。


 空。


 裂ける。


 ゴゴゴゴゴゴ……。


 黒い眼が、一斉に開く。


 都市全体へ、巨大な圧力。


【高濃度感情固定存在】


【ノベェンタ】


【回収開始】


 次の瞬間。


 都市上空。


 巨大な黒い触腕が、空間を突き破って出現した。


 空中庭園。


 崩壊。


 重力歩道。


 断裂。


 白銀都市が、揺れる。



 ベルタリュオン人達。


 混乱。


【感情波急上昇】


【同期維持不能】


【恐怖増大】



 そして。


 黒い触腕。


 ノベェンタへ、一直線。


 だが。


 その瞬間。


 空間へ、また意味不明な魔法陣が大量展開した。


 円。


 三角。


 猫。


 何故か鍋の絵。


 そして。


 全部ズレてる。



「ど、どどどどどどどどどどどどどどぉぉぉぉぉぉ!!!!」


 紫色の煙。


 爆発。


 転倒。


 ローブが燃える。


「ぬ、ぬぬぬぬ脱げるでごじゃるぅぅぅぅ!!!!」


 スグドモール。


 再登場。


 しかも。


 また失敗していた。


 しかし。


 念話。


 超高速。


【拙者の転移術式は精度九十九・九八%でゴザルが今日は宇宙位相歪曲と重力潮汐と感情波ノイズで若干事故っただけなので安心するでゴザルよ!!!!】



 佐伯、即ツッコミ。


「安心材料ゼロなんですよ!!」



 スグドモール。


 杖を構える。


 今度は真剣だった。


 紫色の瞳。


 その奥に。


 長い年月。


 滅びを見続けた者の光。


【……来るでゴザル】



 都市上空。


 黒い眼。


 さらに開く。


 そこには。


 宇宙が居た。


 恒星を飲み込み。


 文明を侵食し。


 感情を喰う。


 “外側”。


 モルモール文明を滅ぼした側。



 スグドモールの念話が、

 低く響く。


【アレは“感情そのもの”を食料にする宇宙存在でゴザル】


【怒りも悲しみも歓喜も絶望も全部喰う】


【故に文明は感情を削った】


【感情を持つほど、見つかるのでゴザル】



 ベルタリュオン人達。


 沈黙。


 だから。


 この星は。


 “静か”になった。



 だが。


 ノベェンタだけは、静かに笑っていた。


「……なるほど」


「だから逆に、“感情濃い人類”へ惹かれたんですね」



 スグドモール。


 止まる。



 ノベェンタは、黒い空を見上げた。


「人類、“危険だから感情消そう”やると、最終的に“生きる意味”まで薄くなるので。だから多分、“外側”倒す鍵、“感情を減らす”じゃなく、“感情を制御したまま熱量維持する”側なんですよ」


 黒い粒子。


 ノベェンタ周囲へ展開。


 紫電。


 空間振動。


 二振りの黒剣。


 再顕現。



【対外側統括監査責任者専用観測武装】


【《因果観測黒剣・ネオアカシック》】



 そして。


 都市全域。


 ベルタリュオン人達が、初めて見る。


 感情を隠さず。


 恐怖を抱えたまま。


 それでも前へ出る存在を。



 ノベェンタは、黒剣を構えた。



「人類、“怖いけどやる”時が一番主人公力高いので」


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