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『境界断ちのノベェンタ』 〜観測整合維持局 第七補正執行室 野部遠汰の場合〜  作者: nobunobuwo


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第百十話 「超文明というものは、“全てを制御できるようになった瞬間から逆に『生きる雑味』を失い始める現象”なので、ベルタリュオン人は“くだらない雑談”を文明崩壊級の未知として恐れています」


 ベルタリュオン星。



 空は、白銀だった。


 青ではない。


 雲でもない。


 巨大な光輪。


 惑星上空数万キロ。


 幾重にも重なった環状構造体が、静かに回転している。


 それは、人工恒星制御環。


 ベルタリュオン文明が、数万年前に完成させた気候統御機構だった。


 重力。


 気流。


 潮流。


 降雨。


 生態系。


 感情同期率。



 全部。



 管理済み。


 最適化済み。



 だから。


 風景は、あまりにも美しかった。


 完璧すぎるほどに。


 白銀都市群。


 空中回廊。


 浮遊庭園。


 透明鉱石建築。


 塔は、地平線の向こうまで並んでいる。



 だが。


 音が少ない。


 静かすぎる。


 人が居るのに。


 “生活音”が、薄い。



 ノベェンタは、転移直後の白い転送広場で静かに空を見上げていた。


 黒い外套。


 量子文字列。


 二振りの黒剣。


 その姿だけが、妙にこの世界と異質だった。



「……なるほど」


「“エルフSF文明”ですね」



 その瞬間。


 周囲のベルタリュオン人達。


 全員停止。


 長い耳。


 透き通る肌。


 淡銀色の髪。


 光を反射する虹彩。


 人類に似ている。


 だが。


 どこか、生物感が薄い。


 美しすぎる。


 整いすぎている。


【警告】


【初対面世界を三秒で“エルフSF”分類】


【妄想接続速度:危険域】



 半透明ウインドウ。


 ノベェンタ横へ出現。


【遠隔感情同期通信接続】


【佐伯美咲】


「うわぁぁぁぁ!! 本当にエルフなんですよ!!」



 その声だけで。


 ベルタリュオン側空間へ、微妙なノイズが走る。



【高密度感情波】


【音声抑揚過多】


【未知】



 アインの通信窓も開く。


 ISS内部。


 白銀光。


 地球が、後ろに見えていた。


「佐伯はツッコミ適性Sです」



「だからその資格制度なんなんですか!?」



 ベルタリュオン人達。


 また停止。


【何故】


【この女性】


【毎秒感情反応を返せる?】



 ノベェンタは、静かに都市を見回していた。


 遠く。


 空中交通網。


 静かな浮遊列車。


 発光植物。


 人工河川。



 完璧だった。



 だからこそ。


 少し、怖い。


「人類、“完璧な部屋”いると逆に落ち着かない場合あるので」


「ホテルのモデルルームとか、高級展示空間とか、“綺麗すぎて座りづらい問題”普通に発生する。逆に少し散らかった部屋、“生活痕”あるから安心する場合あるんですよ。あと旅館の湯呑みが微妙に欠けてると、何故か安心感増す現象あります」



 ベルタリュオン側。


 即座に記録。


【生活痕】


【欠損安心効果】


【重要文化データ】



 佐伯、半笑い。


「欠けた湯呑みを文明研究に使わないでくださいよ!?」



 ノベェンタは、白銀都市中央を見る。


 巨大塔。


 空へ伸びている。


 雲より高い。


 いや。


 雲が存在しない。


 だから、どこまでも見える。



【中央感情同期管理塔】



 その文字列を見た瞬間。


 ノベェンタは、少しだけ目を細めた。


「……これ」


「感情制御やってますね」



 ベルタリュオン人達。


 微妙に空気揺れる。


【危険発言】


【個別感情肯定思想】


【非効率性含有】



 佐伯、ウインドウ越しに叫ぶ。


「なんかディストピア感急に増したんですけど!?」



 アインは、静かに目を伏せた。


「ベルタリュオンは……」


「感情による波動乱れを抑制する為、“個人感情の突出”を長い時間を掛けて減衰させてきました」



 ノベェンタは、静かに頷いた。


「なるほど」


「“傷つかないように感情薄くした文明”ですか」



 風が吹く。


 だが。


 風音すら、静かすぎる。


 自然なのに、自然じゃない。



 ノベェンタは、少しだけ苦笑した。


「人類、“雑音”で精神保ってる場合あるので」


「学校帰りのコンビニ雑談とか、ファミレス深夜会話とか、意味ないLINEとか。“何の意味もない会話”って、実は脳内ストレス逃がしてる。あと人類、“会話内容”より、“誰かと同じ空間に居た記憶”の方を保存してる場合かなりあります」



 ベルタリュオン側。


 空気揺れる。


【意味の無い会話】


【精神安定効果】


【未確認】



 その時。


 ノベェンタの横。


 小型清掃機械。


 通過。


 丸い。


 ちょっと可愛い。


 ノベェンタ、見送る。


「あと人類、“丸いもの”へ安心しやすい傾向あります。ロボット掃除機、アザラシ、シマエナガ、プリン。この辺、“攻撃性低そう”判定されやすい。逆に虫、“脚多い”“急に動く”“予測不能”で警戒本能刺激しやすいので。つまり人類文明、“丸くてモフい方向”へ進化すると平和寄りになります」



 ベルタリュオン中央管理層。


【プリン】


【平和性】


【重要か?】



 佐伯、吹き出す。


「プリンを文明研究の中心にしないでください!!」



 その瞬間だった。


 空。


 揺れる。


 白銀空間へ、黒い亀裂。


 バキィッ―――


 空間そのものが裂けた。



 ベルタリュオン人達。


 一斉停止。



【外側侵食反応】


【未確認系統】


【接近】


 空が。


 開く。


 裂け目奥。


 “眼”。


 巨大だった。


 惑星規模。


 宇宙そのものみたいな瞳。


 それが。


 ベルタリュオンを、見ていた。



 そして。


 ベルタリュオン文明。


 数百万年ぶりに。



 “恐怖に似た感情”を、観測した。


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