第百九話 「宇宙というものは、“人類が現実では届かない妄想を本気で工学化した結果”なので、星を見ると脳は“世界の外側”を信じ始めます」
午前四時十八分。
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高知龍馬空港。
まだ暗かった。
滑走路。
誘導灯。
潮風。
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そして。
巨大スクリーン。
【高知沿岸宇宙港建設計画始動】
【次世代小型ロケット打ち上げ施設予定地】
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佐伯、二度見。
「いや高知どこ向かってるんですか!?」
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野村部長は、缶ではない。
最近ハマっている、自家焙煎コーヒーを紙カップへ注いでいた。
深煎り。
少しチョコっぽい香り。
「いやぁ〜……でも高知って海あるし空広いし、“宇宙へ飛びそう感”ちょっとあるよねぇ〜」
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ノベェンタは、静かにコーヒーを受け取った。
湯気。
落ち着く。
「実際、地方宇宙港構想かなり増えてるので。小型ロケット時代、“巨大国家事業”から“民間分散型”へ変わり始めてる。あと高知、“海へ落下物逃がしやすい”“人口密度低い”“空広い”ので地理適性は普通にあるんですよ」
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キノピー。
キャリーケース上。
「にゃ〜♡ 高知から宇宙映え時代にゃ〜♡」
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「猫が宇宙事業をSNS文脈で語らないでください」
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その横。
アイン。
静かだった。
かなり。
しかし。
視線だけは、ノベェンタを追っている。
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ベルタリュオン帰還命令。
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まだ保留。
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ノベェンタが、止めたから。
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理由。
単純だった。
“まだ死なせるには早い”。
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アインは、まだ完成していない。
人類的感情。
現実適合。
存在安定。
その全てが、未成熟だった。
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ノベェンタは、静かに言った。
「なので今回は、自分が直接ベルタリュオン側を観測します」
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佐伯。
少し不安そう。
「……ほんとに行くんですね」
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ノベェンタは、少しだけ笑った。
「はい」
「妄想力、宇宙で限界外れやすいのでいけるはずです」
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数時間後。
種子島宇宙センター。
白いロケット。
巨大発射台。
青空。
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そして。
久しぶりだった。
ISS計画協力スタッフ達。
以前。
ノベェンタが、
NASA特別観測顧問補佐資格を取得した際に関わったクルー達だった。
金髪女性クルー、笑顔。
「Noventa! Long time no see!」
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ノベェンタ、静かに会釈。
「お久しぶりです」
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佐伯、停止。
「えっ待って!? ほんとにNASA役職持ってるんですか!?」
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ノベェンタは、静かに頷いた。
「一応、“高次認識環境下における心理安定観測協力顧問”扱いですね。宇宙飛行士、“閉鎖空間+地球外環境”で普通に精神変化するので。あと宇宙、“哲学者量産空間”でもあります」
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野村部長、遠い目。
「いつのまにか部下が役職もらってるんだよねぇ……」
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ISSクルーの黒人男性が、笑いながら肩を叩く。
「He still talks too much?」
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佐伯、即答。
「YES!!」
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ノベェンタは、静かにコーヒーを飲んだ。
「人類、“宇宙見ると存在悩み始める”ので。地球、“国境見えない”。昼夜一瞬。重力消失。つまり“普段の常識”全部崩れる。だから宇宙飛行士、“人生観変わった”率かなり高いんですよ」
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その後。
搭乗直前。
別れの時間。
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リゼ。
少し俯く。
「……絶対帰ってくるのよ」
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ノベェンタは、静かに頷いた。
「はい」
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野村部長。
自家焙煎コーヒー豆を差し出す。
「宇宙で飲めないと思うけどぉ……気分だけでもねぇ」
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ノベェンタは、少しだけ笑った。
「ありがとうございます」
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キノピー。
ぴょん。
ノベェンタ肩へ飛び乗る。
「にゃ〜♡ 宇宙猫にゃ〜♡」
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しかし。
ここまでだった。
ISSへ同行するのは。
ノベェンタ。
アイン。
二人だけ。
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佐伯は、最後まで手を振っていた。
その視線を。
アインは、少しだけ長く見ていた。
理由。
まだ言語化できない。
だが。
離れると、胸部圧迫感が増える。
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処理不能。
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打ち上げ。
轟音。
加速。
空。
突破。
青。
黒。
星。
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ISS到着。
無重力。
静かだった。
地球。
青かった。
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アインは、窓越しに地球を見つめる。
「……脆い星です」
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ノベェンタは、静かに答えた。
「でも人類、“脆いから優しくなる”場合あるので」
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ISS内部。
機械音だけ。
その時。
ノベェンタの周囲へ、黒い量子文字列が浮かび始める。
【高次妄想領域活性化】
【多世界人格同期開始】
【ベルタリュオン位相接続準備】
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アイン。
目を見開く。
「……始まるのですか」
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ノベェンタは、静かに窓へ手を伸ばした。
宇宙。
無限。
静寂。
そして。
妄想。
広がる。
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「魔法使いには偶然は存在しない」
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小さく呟く。
「意識が粒子を観測し」
「観測された可能性が」
「現実として固定される」
「なら」
「妄想は、未来の観測予告でしかない」
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その瞬間。
ISS空間全体へ、黒い波紋。
星々が歪む。
空間そのものが、折れ曲がる。
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アイン。
思わず手を伸ばす。
「ノベェンタ!!」
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しかし。
届かない。
ノベェンタの身体は、黒い量子光へ分解され始めていた。
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【位相転移開始】
【目的地】
【ベルタリュオン星】
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ノベェンタは、最後に少しだけ笑った。
「では」
「ちょっと困ってる星まで行ってきます」
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閃光。
消失。
ISSには。
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地球を見下ろす、アインだけが残された。
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そして。
遠い宇宙の向こうで。
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ベルタリュオン星が、静かに目を開こうとしていた。
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